昆虫の場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 09:56 UTC 版)
昆虫を始めとする無脊椎動物は、長い間、自然免疫系しか持っていないと考えられてきた。しかし、近年、獲得免疫の基本的な特徴の幾つかが昆虫で発見されました。その特徴とは、免疫記憶と特異性である。特徴はあるものの、そのメカニズムは脊椎動物のものとは異なる。 昆虫の免疫記憶は、プライミングという現象によって発見された。昆虫は、非致死量の細菌や熱で死んだ細菌にさらされると、その感染の記憶が形成され、以前にさらされた同じ細菌の致死量に耐える事が出来る。昆虫は脊椎動物と異なり、適応免疫に特化した細胞を持たず、血球が適応免疫のメカニズムを担っている。血球は食細胞と同様の機能を持ち、プライミング後はより効果的に病原体を認識して飲み込む事が出来る。更に、その記憶を子孫に伝えることも可能である事が示された。例えば、ミツバチの場合、女王蜂が細菌に感染すると、生まれたばかりの働き蜂が同じ細菌と戦う能力を高める事が出来る。また、コクヌストモドキを使った実験でも、病原体に特異的なプライミング記憶が母親と父親の両方から子孫に伝達される事が示されている。 最も一般的に受け入れられている特異性の理論は、Dscam(英語版)遺伝子に基づくものである。Dscam 遺伝子は、ダウン症細胞接着分子としても知られており、3つの可変Igドメインを含む遺伝子である。これらのドメインは交互にスプライシングされ、多くのバリエーションが存在する。異なる病原体に曝されると、異なるスプライスフォームのdscamが生成される事が示された。異なるスプライスフォームを持つ動物が同じ病原体に曝された後、その病原体に特異的なスプライス・フォームを持つ個体だけが生き残る。 昆虫の免疫の特異性を支えるもう一つのメカニズムとして、RNA干渉(RNAi)がある。RNAiは、高い特異性を持つ抗ウイルス免疫の一種である。RNAiには幾つかの異なる経路があり、最終的にはウイルスの複製が出来なくなる。そのうちの1つがsiRNAで、長い二本鎖RNAが切断され、タンパク質複合体Ago2-RISCのテンプレートとなり、ウイルスの相補的なRNAを見つけて分解する。細胞質内のmiRNA経路は、Ago1-RISC複合体に結合し、ウイルスのRNA分解のテンプレートとして機能する。最後のpiRNA(英語版)は、小さなRNAがPiwiタンパク質ファミリーに結合し、トランスポゾン等の移動要素を制御する。この様な研究が行われているにも拘わらず、昆虫の免疫プライミングと特異性の正確なメカニズムはよくわかっていない。
※この「昆虫の場合」の解説は、「獲得免疫系」の解説の一部です。
「昆虫の場合」を含む「獲得免疫系」の記事については、「獲得免疫系」の概要を参照ください。
- 昆虫の場合のページへのリンク