拡張解釈・縮小解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/05 02:16 UTC 版)
制度の趣旨に鑑みることで、文理解釈の場合に比べて個々の条文の文理を多少拡張的に解釈することを拡大解釈又は拡張解釈、縮小して解釈することを縮小解釈という。 拡張解釈は類推解釈と似ているが、類推解釈は、文字の意味に含ませえないものに拡張する場合であるのに対し、拡張解釈は、文字の意味の枠内に含ませる場合である。 例えば、鳥獣保護法において弓矢を使用する方法による「捕獲」が禁止されている場合に、鳥獣の保護という制度趣旨の論理的文脈に鑑みて、実際に「捕獲」することのみならず、「捕獲」しようとする行為をも含む意味に解釈する場合、これを拡張解釈(拡大解釈)の一例と評価することができるが、罪刑法定主義及び刑法の自由保障機能を重視する立場からは、このような拡張解釈は法的安定性を害しうるからできるだけ避けるべきであり、矢が全然当たらなくても「捕獲」だというのは、社会常識の範囲を超えているとの批判がなされることになる。 これに対し、縮小解釈の例として、日本民法177条の「第三者」を、およそ全ての第三者ではなく、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に限るとする解釈論が有名である。すなわち、民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は……法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」としているが、例えば、他人の家屋を不法に占拠した者に対しては、所有権者が自らの所有権が侵害されたことを理由に損害賠償請求や退去・引渡し請求等をするのであれば、自らが所有権者であることをその侵害者に対して主張しなければならないが、前の所有権者から家屋を購入した際に登記移転を受けていなかったような場合は、民法177条によれば「登記」の移転が完了していない以上、文理解釈上は「第三者」である悪意の二重譲渡譲受人や不法行為者に対してさえも、自らの所有権を主張することができない(無制限説)はずである。これは、起草者によれば、不動産取引の当事者に「登記」を強く要求することで、権利義務関係の所在を明確化して法的安定性を確保し、第三者の不測の損害を防ぐ趣旨であるという。 しかし、後述するように、フランス民法典を経てドイツ民法草案第一において頂点に達した、自由で完全な意思を持つ対等な個人という人間像を前提とする、取引安全確保による自由主義という思想が退潮すると、当事者の自由を無制限に保護すべきではなく、一定の制限を掛けて、社会・道徳と法律との調和を図ろう、その為には厳格な文理解釈や、法律制定当時の立法趣旨に必ずしもこだわるべきではないという思想(自由法論)が有力化してくるから、このような結論はそのままでは受け入れがたいものとなってくる。 そこで判例は、従来の立場を変更して、177条に「第三者」とはおよそ全ての第三者ではなく、縮小解釈によって、「不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠峡を主張する正当の利益を有する者」に限られる(制限説)と判示し、通説・実務も基本的にこれを支持している。 縮小解釈の例には、ほかにも、日本国憲法第9条のいう「戦力」には、自衛のための最低限の実力は含まれないという憲法解釈などがある。立法府を信頼して法律をできるだけ合憲なものと推定して解釈する合憲限定解釈は、この縮小解釈の一種と考えられる。 拡張解釈・縮小解釈は、類推解釈同様目的的論理を重視した解釈であり、形式的な文理解釈とは乖離した結論を導きうるから、法的安定性を害することなく具体的妥当性を実現するためには、これらの解釈を正当化する体系的な許容性と、目的論の合理性とを厳密に検証しなければならない(→#論理解釈の典型例)。さもなくばご都合主義に堕してしまうからであり、これらの解釈方法によって便宜的に文理をねじ曲げるというものではなく、それが規定の本来の持つべき意味そのものであるにほかならないと論証することが望まれる。
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