打ち子式ATS
打子式ATS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 13:35 UTC 版)
国鉄・JRでは実用として使用されたことはないが、打子式ATSが1927年に東京地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線)の開業時に採用された。このシステムはアメリカ・ニューヨーク市地下鉄やドイツ・ベルリンSバーンで同種のシステムが導入されていたのを参考に導入されたもので、実用的なものとしては日本で最初に採用されたATSである。帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄)丸ノ内線・大阪市交通局 (現在のOsaka Metro)(大阪市営地下鉄御堂筋線・四ツ橋線・4号線(中央線))・名古屋市交通局(名古屋市営地下鉄)東山線でも採用されていた。因みに日本国内の地下鉄路線においてこのタイプのATSを使用していたのは、全て第3軌条方式の集電システムを使用していた路線であった。 線路の脇に設置されたトリップアーム(可動打子)を地上子、台車下部の軸箱付近に設置されたトリップコックを車上子として用いる。トリップアームは閉塞信号機のほぼ直下にあり、信号機が停止現示の時にアームが立ち上がり、その状態で列車が通過するとアームがトリップコックに当たる。トリップコックはブレーキ管に接続されており、これが開かれて減圧するため非常ブレーキがかかる。列車が在線している区間の閉塞信号機と、その1つ手前の信号機が連続して停止現示を示す「重複式」とすることで2個目の停止信号手前で停止する仕組みとなっている。なお、ブレーキ管減圧後、トリップコックレバーは自動的に復帰する。 停止信号現示以外に警戒信号現示でもトリップアームが立ち上がる路線もあった。その場合、警戒現示が続いていても、列車が手前のある地点を通過してから一定時間後にトリップアームが下がるように設定されていた。つまり、列車が警戒信号に従って徐行していれば、トリップアームは既に下がっていて、そのまま通過できる。トリップアームが下がる前に進入すれば速度超過と判定されて非常ブレーキがかかる。簡潔な方法ながら確実な速度照査を行なっていた。 大阪市営地下鉄(当時)では1号線(御堂筋線)の混雑緩和を目的として建設された2号線(谷町線)東梅田-谷町四丁目間開業の際(1967年3月)に WS-ATCが導入されて以降、新規開業線区では全てATCが導入されるようになった。さらに既開業線区についても1970年の大阪万博開催に伴う輸送力増強策の一環としてまず1969年12月に中央線で、続いて1970年2月に御堂筋線で打ち子式ATSの使用停止・撤去とWS-ATCへの全面切り替えが実施された。最後に残った四つ橋線も1972年11月9日の玉出 - 住之江公園間がWS-ATC設置で開業するのに合わせて既開業区間にもWS-ATCを導入して打ち子式ATSが使用停止・撤去され、これをもって大阪市電気局による1号線開業以来の打ち子式ATSが全廃となった。 これに対し、単純機構ながらも高い信頼性を持つことから、営団地下鉄(当時)銀座線・丸ノ内線では1990年代まで、名古屋市営地下鉄東山線では2000年に入ってからも打ち子式ATSの使用が続けられていた。しかし、物理的手法の限界からスピードアップ時の安全確保に対応することができず、銀座線では1993年(平成5年)、丸ノ内線では1998年(平成10年)に使用を終了している。なお、名古屋市営地下鉄東山線が2004年(平成16年)で使用を終了したことにより、日本の鉄道事業法や軌道法に基づく鉄道で、この方式を用いたATSは全てATCに置き換えられ消滅した。
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