戦費の負担問題
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「ヴァイマル共和政のハイパーインフレーション」の記事における「戦費の負担問題」の解説
第一次世界大戦勃発の前年である1913年度には、ドイツ帝国の財政支出額は35億2000万マルクであったが、戦争勃発後は激増の一途をたどり、休戦となった1918年度の財政支出額は455億1000万マルクであった。この間、歳入も増加したものの歳出の増加には到底追いつかない状況であり、巨額の国債発行によって戦費を賄わなければならなかった。 もともとドイツ帝国は歴史的な経緯から、構成する各領邦(ラント)の権限が強く、帝国(ライヒ)の課税権は関税や消費税などの間接税に限られており、所得税のような直接税は領邦の権限とされていた。間接税の税率は低く課税技術も未発達であったため、帝国の増大する財政支出を賄うことが困難で、やがて領邦から人口に応じた貢納金を徴収するようになり、後には実質的な直接税の賦課を開始するようになる。しかし依然として間接税偏重の傾向があり、財政制度の欠陥となっていた。 第一次世界大戦が勃発すると、ドイツではシュリーフェン・プランの影響から、当初は短期戦であると見込んでおり、戦費を国債発行によって賄う方針となった。直接税が領邦の権限とされ、帝国が直接税を課税することに強い抵抗を示したことの影響もあった。しかし短期決戦の見込みはなくなり、1915年になって戦時特別課税が開始された。参戦各国が国債発行などの借り入れに戦費を頼らなければならなかったことは同様であったが、イギリスでは戦費の20.2パーセントを租税で賄ったのに対し、ドイツでは6.5パーセントにすぎなかったとされる。 大戦勃発の危機が迫る1914年7月31日に、帝国銀行は事実上銀行券の金兌換を停止した。この措置は、帝国金庫券および銀行券に関する1914年8月4日の法律によって事後的に承認された。この法律により、帝国銀行券と帝国金庫券の双方は金兌換の義務を免除された。さらに私立発券銀行も保証準備として、金と関係のなくなった帝国銀行券を用いることを許されたので、私立発券銀行券も金兌換を事実上停止した。そして鋳貨法の変更に関する1914年8月4日の法律により、鋳貨と金貨の交換義務も廃止され、ドイツの金本位制は完全に停止することになった。 また、1914年8月4日の貸付金庫法によって貸付金庫が設立された。帝国銀行は、帝国銀行券の発行に当たって、金準備以外の部分について確実な支払い義務者のある手形や小切手などを保有することを定められていたが、貸付金庫はそうした対象とならない有価証券や商品などを担保として貸付金庫券を発行できるとされた。貸付金庫券は法的な支払手段ではなかったが、政府は額面通りに受理することになっており、さらに帝国銀行は、発券準備として貸付金庫券を利用できることになった。これにより帝国銀行の準備義務は意味を失い、ほとんど何に対してでも担保として貸付金庫券が発行され、それが帝国銀行に流れ込んで、その3倍の額の帝国銀行券が発行されるようになった。 そして銀行法の改正に関する1914年8月4日の法律により、帝国銀行券が上限を超えて発行されるときの紙幣税が廃止され、帝国銀行の発券保証準備として帝国財務省手形および帝国財務省証券を用いることができるようになった。これにより政府は借金の証文であるこれらの手形や証券を帝国銀行に渡すことで、無制限に帝国銀行券を借り入れることができるようになった。こうして無制限にマルク紙幣を増刷することができる制度が整った。金本位制が停止されて以降のマルクを紙マルク(パピエルマルク)と呼ぶ。 ドイツ政府は、戦争に勝てば敗戦国の連合国に戦時賠償を課すことで債務を返済できると考えていた。これは資源に富んだ東西の工業地帯をドイツに併合し、また1870年にドイツがフランスに普仏戦争で勝利したときの賠償(英語版)のように現金の支払いをさせることで実現しようとしていた。しかしドイツ政府の考えていた戦略は、ドイツが敗戦したため失敗に終わり、新しく発足したヴァイマル共和政は支払うことのできない巨額の債務を抱えることになり、経済的な裏付けのないままに紙幣を増刷したことでさらに問題を増幅することになった。通貨の発行残高は、大戦前の1913年に帝国銀行券21億マルク、帝国金庫券1.1億マルク、私立発券銀行券1.4億マルク、鋳貨37億マルクの計61億マルクであったが、大戦後の1920年には帝国銀行券540億マルク、貸付金庫券131億マルク、帝国金庫券3.2億マルク、私立発券銀行券2.4億マルク、鋳貨1.7億マルクの合計679億マルクに達していた。鋳貨が大きく減少しているのは、帝国銀行の金集中政策により流通から引き上げられたためである。
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