性同一性とは
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 17:42 UTC 版)
「性同一性」(性の同一性、性別のアイデンティティー)とは、医学界における “Gender Identity” (gender [性] - identity [同一性]) への伝統的な訳語であり、『男性または女性としての自己の統一性、一貫性、持続性』『自身がどの性別に属するかという感覚、男性または女性であることの自己の認識』という意味をもつ。 その他の訳語として「性の自己意識」「性の自己認知」「自己の性意識」「性自認」、カタカナ表記として「ジェンダー・アイデンティティ」があり、いずれもほぼ同義である。より一般的でわかりやすい表現として「心の性」がある。 人々のうち大多数の者の性同一性は、生物学的性別と一致する。身体が男性で性同一性は男性、身体が女性で性同一性は女性である。人々のうち性同一性障害を抱える者の性同一性は、生物学的性別と一致しない。身体が男性で性同一性は女性、身体が女性で性同一性は男性である。この『同一性』とは、「心の性と身体の性が同一」という一致不一致の意味ではなく、アイデンティティー(同一性)、「環境の変化や時間の経過な中でも一貫して連続性を保ち続けている」という意味においての『同一性』である。性同一性障害は、性同一性そのものに異常や障害があるわけではなく、また性同一性が“無い”わけでもない。性同一性障害を抱える者も、そうでない大多数の者も、一様に人はそれぞれに性同一性を持っており、いずれも概して正常である。大多数の者は性同一性と身体の性とが一致し、生来からそれを疑うことなく意識しないほどに至極当然であるため、自身の性同一性を客観的に実感したり認識したりすることが難しい。 性同一性は、性的指向(恋愛の対象とする性別)とは切り離すことのできる概念であり、性同一性がどちらの性別であるかに関して、性的指向はその基軸にはならない。性的指向は相手がいることで成り立つが、性同一性はあくまで自分一人の問題、自己の感覚や認識である。人は物心ついた頃から、おおむね幼年期や児童期頃には(身体的性別とは別に)自己としての性を認識するが、その多くは他者に恋愛感情を持つことで初めて認識するわけではない。 性同一性は、単なる(社会的・文化的な)「男らしさ、女らしさ」とも別である。たとえば女性的な男性がすなわち性同一性が女性というものではない。「自分は男らしくない男性」と自覚していても、自己としての性の意識が男性であれば、性同一性は男性である。 「心の性」という曖昧な表現一般に「心の性」という説明や、また「心は男性・女性」との表現はよく使われるが、「心」という語は意味内容が極めて広く抽象的であるため、他のさまざまな要素をも取り込んで混同を生じやすく、かえって理解の妨げにもなり得る。たとえば男性同性愛者のありようを「心が女性」と形容する表現との重なりから生ずる混同、また語感の印象から “性同一性障害は気の迷い、気分の問題” などの誤解を生むおそれもある。必ずしも精確に伝えられるものではないが、「心の性」「心は男性・女性」という表現は、一定のわかりやすさや言いやすさを優先してしばしば用いられている。ただ、あくまで gender identity という語の便宜的で平易な言い換えであることに留意を要する。性同一性障害を専門とする日本の医師らによる論文や解説等ではおおむね『性の自己意識』や『性の自己認知』『性同一性』『ジェンダー・アイデンティティ』を用いており、「心の性」という曖昧な表現はほとんど使われておらず、使用する場合も『性の自己意識(心の性)』とするなど、第一に選択される言葉ではなく、そして用語というより平易に説明したものとしての使われ方が多い。日本精神神経学会のガイドライン第3版では原語 gender identity をカタカナ表記した『ジェンダー・アイデンティティ』のみを用いている。日本の外務省では『性同一性』を訳語としているものが確認できる。 「ジェンダー」のもつ複数の定義「性同一性」の原語 gender identity には『ジェンダー』という単語があるが、日本での「社会的・文化的な文脈の下の性」という意味で使われる「ジェンダー」とはまた別である。“gender”は1950年代頃から性科学の分野、性分化疾患の研究において「性の自己意識・自己認知」との定義で用いられた(1960年代後半から “gender identity”)。それは、別分野である社会学において “gender” が「社会的・文化的に形作られた性」という定義が生まれる以前のことである。
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