性同一性との不一致
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 17:42 UTC 版)
胎児期における性分化(男性型・女性型への分化)の機序は極めて複雑かつ数多くの段階をたどる。その過程は、一つでもうまく働かないと異常を起こし得る至妙な均衡のうえに成り立っており、性分化疾患の多様な事例など、人の性は必ずしも想定される状態に性分化、発達するとは限らない。胎児の性分化では、性腺や内性器、外性器など、身体のさまざまな部位の性別が決定された後、脳にも構造的な男女の差を引き起こす。男女差が認められるいくつかの細胞群のなかには、性同一性に関わっていると推定できる箇所がある。もし、性分化疾患とは違って身体は典型的な状態に発育する一方、脳が部分的にその身体とは一致しない性への性分化を起こしていたと仮定すると、出生時には難なく身体によって性の判定がなされ、身体も典型的に成長し、家庭や社会においても疑いなくその性別として扱われることになるが、おそらく本人の性の自己意識はそれとは別の性となる。 性同一性障害は、性の自己意識と生物学的性別とが一致しない状態である。生物学的な要因が推測されており、何らかの原因によって、脳と身体とがそれぞれ一致しない性別へ性分化し発達したものと考えられている。このため、自身の身体の性への違和感や嫌悪感、性の自己意識に一致する性への一体感や同一感を、強く持続的に抱くこととなる。 性同一性障害を有する者は、(例えば MtF に対して)「本当は男性」「実は男性」等といった、身体の性別、出生時に判定された性別を基準とする言われ方に対して嫌忌することが多い。性同一性障害を抱える者は、もし生来から自身の性同一性と同じ性別の身体で生まれてさえいれば、何ら違和感を持つこともなく普通にその性としての人生を過ごしてきたはずであり、人格や自己の性が“途中で変わった”わけではない。当事者は(心身ともに)「異性になりたい」のではなく、「本当は女性(男性)なのになぜ身体が男性(女性)か」という極めて率直な感覚を胸中に持っていることも多く、当事者自身にとっての「本当の性別」とは、まさしく自分を自分たらしめる自己意識にしたがった性別である。FtM にとっての「本当の性別」は男性であり、MtF にとっての「本当の性別」は女性であり、だからこそ現にその性別としての人生を過ごしているといえる。
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