届出前勧誘とプレ・ヒアリング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 09:03 UTC 版)
「プレ・ヒアリング」の記事における「届出前勧誘とプレ・ヒアリング」の解説
欧州の証券市場においては届出制度がないことから、届出前勧誘の問題が存在しないため、積極的にプレ・ヒアリングが実施されている。また、米国の証券市場では、Universal Shelf Registrationと呼ばれる包括的な発行登録制度が導入されており、事前に投資家の需要を探ることが可能になっている。一方で、日本国内では、届出前勧誘規制への抵触の懸念等から、国内での募集や売出しに関してプレ・ヒアリングは行われていなかった。このように日本において、募集や売出しで、プレ・ヒアリングが実施されない理由として、日本ではPOでの募集又は売出しがなされる株式に対する機関投資家の需要が弱いことから、相対的に国内の個人投資家への配分割合が大きくなっているため、条件決定までの期間の大幅な短縮は困難になっていることがあげられる。一方、米国では、機関投資家への販売がほとんどであることに加え、利用しやすい包括的な発行登録制度や、機関投資家を中心とした短期間のブックビルディングの活用によって、期間の短縮が可能となっているため、日本と海外ではこのような差が生じている。 このような差があることを認識したうえで、日本証券業協会の「我が国経済の活性化と公募増資等のあり方分科会」が取り纏めた報告書によると、プレ・ヒアリングは、マーケティング期間を一晩又はそれに準じる短期間にとどめる効果のあるアクセリレーテッド・オファリングの実施のためには意味がある手法であるものの、日本国内の市場に上場する会社の公募増資にとっては一般的なオファリングの形である個人投資家も含めたフルマーケティング型のオファリングには、実務的には必要性が乏しいと指摘がなされた。さらに、我が国においては、日本証券業協会の自主規制規則である「協会員におけるプレ・ヒアリングの適正な取扱いに関する規則」により、海外投資家に対するプレ・ヒアリングの実施は、欧州の株式市場や米国市場と同様に、秘密保持及び売買禁止の制約のもとに認められているものの、日本国内の募集に関するプレ・ヒアリングは禁止されている。 日本において、プレ・ヒアリングが禁止されている理由として、開示規制や届出規制の観点からは、国内でプレ・ヒアリングを実施する場合、金融商品取引法上の「需要調査」と「勧誘」の線引きが実務上困難であることが想定されており、仮に法解釈の結果、証券会社が「需要調査」として行ったヒアリング行為が「勧誘」と判断された場合、金融商品取引法にて禁止されている届出前勧誘に該当してしまい、届出・開示義務に違反した行為を行ったと見なされる可能性等様々な問題が生じ得ることが挙げられる。 この点について、2013年12月25日、金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」では、報告書を取りまとめ、「企業及び引受証券会社が、適格機関投資家、特定投資家又は大株主を対象者とし、かつ、有価証券届出書の提出前に当該情報が対象者以外に伝達されないための適切な措置を講じている場合において、有価証券の募集・売出しの是非を判断するために、当該有価証券に対する市場における需要見込みを届出前に調査すること(いわゆる「プレ・ヒアリング」)」は届出前勧誘に該当しないと判断したうえで、企業内容等の開示に関するガイドラインの改正を実施するとしている。加えて、2014年8月26日より改正同ガイドラインを施行し、法令上はプレ・ヒアリングの実施について一定の要件を満たした場合に限って解禁がなされている。これを踏まえ、日本証券業協会では、今後、国内プレ・ヒアリングの導入については、「インサイダー取引防止の観点からも必要な措置が検討されるべきである」との見解を示している。また、仮に日本国内においてプレ・ヒアリングの活用が実現し、短期間でのブックビルディングが可能となるなどした結果、条件決定までの期間及び売買が成立するまでの期間が短縮された場合には、現在、会社法第201条第3項及び第4項により払込期日まで中14日を要しているが、この長さでは、同法第309条で特別決議を要するとされる有利発行には当たらないとされる程度のディスカウント率での公募増資を行っても、投資家にとってリスク許容度に見合わないとの評価につながりかねず、当該公募増資や売出しへの投資家の参加が事実上阻害されてしまう要因となる可能性がある。この可能性を具現化させないためには、投資家の参加意欲と発行会社の調達環境の向上を図る必要があることから、この払込期日まで中14日を開けねばならないとしている現状の規制を見直すことも検討すべきであるともしている。 上述のように、届出前勧誘の観点からは、法令上は、一定の要件が満たされた場合に限っては、国内募集に係るプレ・ヒアリングが解禁されたわけではあるものの、そもそも引受人となる主幹事証券会社側及びプレ・ヒアリングの対象者となる機関投資家からの需要がないこともあり、日本証券業協会では自主規制規則の改正を実施しておらず、2017年現在でも、日本国内での募集に係るプレ・ヒアリングは禁止されている状況である。
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