垂直構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/18 06:20 UTC 版)
木星の大気は、4つの層に分類され、高度が高くなるにつれて、対流圏、成層圏、熱圏、外気圏となる。地球の大気とは異なり、木星には中間圏はない。木星には、固体の表面はなく、大気の最下層である対流圏は、惑星の液状の内部構造に滑らかに繋がっていく。これは、温度や気圧が水素とヘリウムの臨界点よりも上であるためであり、気相と液相との間に明瞭な境界がないことを意味する。水素は、12バール前後では、超臨界流体の状態になる。 大気の下限がはっきりしないため、気圧1バールの高さより90km程度下にあり気温が340Kである、気圧10バールの高度が一般的に対流圏の底として扱われている。ただし科学においては、1バールの気圧が通常、高度0、つまり木星の「地表」として選ばれる。地球と同様に、大気の最上層である外気圏の上限は曖昧である。密度は徐々に低下し、「地表」から約5,000km上空で、惑星間空間に滑らかに繋がる。 木星の大気の垂直方向の温度変化は、地球の大気の温度変化と似ている。対流圏の温度は、高度とともに徐々に低下し、成層圏との境界である対流圏界面で最低となる。木星では、対流圏界面は雲の観測される1バールの高さよりも約50km高く、気圧は約0.1バール、気温は110Kである。成層圏では、高度約320km、気圧1マイクロバールの熱圏との境界までに気温は約200Kまで上昇する。熱圏では、温度は上昇し続け、最終的には、高度1,000km、気圧1ナノバール程度の地点で、温度は1,000Kに達する。 木星の対流圏には、複雑な雲のシステムが存在する。上層の雲は、気圧が0.6から0.9バールの高度にあり、アンモニアの氷でできている。このようなアンモニアの雲の下に、硫化水素アンモニウムや硫化アンモニウム(1-2気圧)、水(3-7気圧)でできたより濃い雲が存在すると考えられている。凝縮するには温度が高すぎるため、メタンの雲は存在しない。水の雲は最も密度の濃い層を形成し、大気の動きに最も強い影響を与えている。これは、アンモニアや硫化水素と比べて、水の高い蒸発熱と豊富さによる(酸素は、窒素や硫黄と比べてより豊富に存在している)。対流圏(200-500ミリバール)や成層圏(10-100ミリバール)の様々なもやの層は、雲の層のさらに上にある。後者は、凝縮した重い多環芳香族炭化水素やヒドラジンで構成されており、成層圏上層(1-100マイクロバール)で、太陽の紫外線の影響を受けたメタンから生成される。成層圏におけるメタンの水素分子に対する存在量の比は、約10-4であり、またエタンやアセチレン等のその他の軽い炭化水素の水素分子に対する存在量の比は、約10-6である。 木星の熱圏は、気圧が1マイクロバールより低く、大気光、オーロラ、X線放射等が行われる領域である。この層では、電子やイオンの密度が上昇し、電離層を形成する。モデルでは、400Kを超えないのに対し、熱圏の温度は全体的に800Kから1,000Kと高い。これについては完全に説明が付いていないが、太陽からの高エネルギーの放射(紫外線、X線)を吸収していること、木星の磁気圏の荷電粒子からの加熱、上向きの重力波の消失等が原因であると考えられている。極付近と赤道付近の熱圏と外気圏は、X線を放出しており、これは1983年にHEAO-2によって初めて観測された。木星の磁気圏からの高エネルギー粒子は、明るい楕円形のオーロラを形成し、極の周りを取り囲む。磁気嵐の間しか見えない地球のオーロラとは異なり、木星のオーロラは常に見られる。木星の熱圏では、地球以外で初めてプロトン化水素分子が発見された。このイオンは、波長3-5μmの中赤外線領域に強い放射を出し、これが熱圏の主な冷却機構となっている。
※この「垂直構造」の解説は、「木星の大気」の解説の一部です。
「垂直構造」を含む「木星の大気」の記事については、「木星の大気」の概要を参照ください。
- 垂直構造のページへのリンク