名称・語源と範囲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/02 09:48 UTC 版)
「ヨークシャー(Yorkshire)」は、後述するように、「カウンティ」と呼ばれるイギリスの伝統的な地方区分のなかでも最大の面積があり、2位のリンカンシャーと3位のデヴォンシャーを合わせたより広い。この広さゆえに、ヨークシャーは古くから3つの「ライディング」という下位区分にわけられていた。 日本の文献での訳語は様々である。「ヨークシャー」「ヨークシア」「ヨークシァ」「ヨーク地方」「ヨークシャー県」「ヨーク県」「ヨーク州」などと表記されてきた。古い文献の中には、ふつうの「カウンティ」を「県」、ヨークシャーを「州」と区別して和訳するものもある。近年の文献では、「シャー」とつくものは「ヨークシャー」「ヘリフォードシャー」とそのままにし、「シャー」のつかないものに「コーンウォール州」「デヴォン州」としている例もある。 「ヨーク」 ヨークのシンボルの野猪。 赤色の地方が「-シャー」がつくカウンティ、橙色はかつて「-シャー」がついていたカウンティ。 ヨーク地方は、この地方の中心地であったヨークという都市名からその名をとられている。古代ローマ時代の都市名「エボラクム」(Eboracum)が、アングロ・サクソンの古英語「エオフォヴィック(Eoforwīc)」、デーン人(ヴァイキング)風の「ヨルヴィック(Jórvík)」を経て「ヨーク(York)」に転訛したものである。 ローマ人が名付けた「エボラクム」の語源には諸説あるが、「イチイ(ebor)の木があるところ(-cum)」の意味だったとする説が一般的である。このほか、「エブロス族の居住地があった場所」との解釈もあるが、「エブロス族」の名称はイチイの木から来ていると考えられており、いずれにしてもイチイの木が関わっていると考えられている。これがアングロ・サクソン人の「エオフォヴィック」に置き換わった際に、「野猪(エオフェル)」と同じ音を持つことから、イノシシがヨークのシンボルになっていった。 「シャー」 「ヨークシャー(Yorkshire)」の接尾語の「シャー(Shire)」は、行政上の区域や地域を表す言葉である。もともとはローマ人が去った後イングランド島に入ってきたサクソン人の言葉で、首長や豪族の領地を指す「scir」という語だった。のちに「scir」が転訛して「shire」となった。9世紀後半のアルフレッド大王が各地に王領「shire」を置き、10世紀のエドガー平和王は「州(シャー)」-「郡(ハンドレッド)」-「十人組(タイジング)」という地方統治の制度を敷いたことで「シャー」が地方区分の基本単位となっていった。「shire(シャー、シア、あるいはシャイア)」は地方ごとの発音の違いがあり、「シャー」/-ʃə/のほか、「シア」/-ʃiə/のように発音されることもある。 「カウンティ」 イングランド島は主にデーン人からなるヴァイキングの侵略を受け、中部から北部にかけてはヴァイキングたちが住み着いた。ヴァイキングたちとアングロ人・サクソン人たちは争ったが、最終的にはノルマン人がやってきてイングランド全土を征服した(ノルマン・コンクエスト)。「shire」に相当するノルマン人の言葉は「county」(カウンティ)であり、「シャー」と「カウンティ」は地方区分を表すおおよそ同義の語として用いられた。 ヨークシャーほか、イングランドの多くの「カウンティ」では固有名の語尾に「-シャー」がつく。「ケント(州)」や「サセックスのように固有名に「-シャー」が付かない「カウンティ」もあれば、「デヴォンシャー」のように、かつては「-シャー」がついていたが今では単に「デヴォン(州)」と呼ぶようになった「カウンティ」もある。この地方区分は長いところでは1000年以上も用いられており、地方自治制度の改革によって公式な区割りや名称が大きく変わった後も、「歴史的カウンティ(historic county)」と称して一般的に用いられている。 「ライディング」 ヨーク地方の古典的な3つの「ライディング」 こうした地方区分のなかで、特に広い地方では下位の地方区分が設けられたところもある。これらの下位区分を表す語は地方ごとに異なっている。例えば「リンカンシャー」では「パート(part)」と称し、「サセックス」では「ウェスト・サセックス(West Sussex)」のように単に「西」とか「東」などを頭につけただけの地方もある。 「ヨークシャー」の場合には、3つの「ライディング(riding)」に分割されていた。 「ライディング(riding)」というのは、デーン人の「thridding」やヴァイキングの「Threthingr」という言葉に由来し 、意味は「1/3部分」である。「ヨークシャー」は、「イースト・ライディング(東部)」、「ウエスト・ライディング(西部)」、「ノース・ライディング(北部)」に3等分されていた。これらの「ライディング」はそれぞれに政庁が置かれ、これらの中央に「ヨーク市(Ainsty of York、Ainsty参照)」があった。 「ライディング」という下位区分は、一時的に、近隣の他の「シャー」でも使っていた事があるが、それが極めて短い期間なので、「ライディング」は実質的に「ヨークシャー」固有の区分である。このため現代英語では単に「ライディング(Riding)」と言えば「ヨークシャー」の下位地方区分のことを指す。日本語文献では「区」という訳語を当てる場合もある。 1974年に「ヨークシャー」の下位区分としての3つの「ライディング」は廃止になり、「ヨーク市」は新設の「ノース・ヨークシャー」というカウンティ(county、「州/郡」)に組み込まれた。これは後にヨーク合同庁(York Unitary Authority)の一部になった。 詳細は下記記事を参照。 ライディング (区)(英語: Riding (country subdivision)) ノース・ライディング・オブ・ヨークシャー(英語: North Riding of Yorkshire) イースト・ライディング・オブ・ヨークシャー ウエスト・ライディング・オブ・ヨークシャー(英語: West Riding of Yorkshire) 1970年代の改革と「ヨークシャー」の廃止 1974年の分割は不評だった。岸:ハンバーサイド、ク:クリーブランド、ダ:ダラム、カ:カンバーランド、ラ:ランカシャー、マ:大マンチェスター イギリスでは1970年代に地方自治の枠組みが大きく変わった。従来の伝統的な39の「カウンティ」から、新たに46の「カウンティ」となった。新しい「カウンティ」は大都市圏の「都市カウンティ」6、それ以外の「非都市カウンティ」40からなる。 詳細はイングランドの都市および非都市カウンティ参照。 1972年の地方行政法(Local Government Act 1972)に基づいて、ヨークシャーの3つの「ライディング」と「ヨーク市」という枠組みは1974年に廃止された。 従前のヨークシャーの大部分は4分割され、「ノース・ヨークシャー」、「ウェスト・ヨークシャー」、「サウス・ヨークシャー」、「ハンバーサイド(Humberside)」になった。しかし従来の「ノースライディング」と新しい「ノースヨークシャー」は大きく範囲が異なるし、「ウェスト」「サウス」でも同様である。従来の「イースト・ライディング」の大部分は「ハンバーサイド」に含まれることになったが、「ハンバーサイド」にはハンバー河の対岸で従前は「リンカンシャー」だった地域が相当含まれていた。北の方では、これまでノース・ライディングの一部だったミドルズブラが新しく出来た「クリーヴランド」(Cleveland)という「カウンティ」に含まれることになった。このほか、あちこちの地域がかつての「ヨークシャー」から外されて隣の「カウンティ」へ移管になった。 この改革は不評で、様々な批判が出た。ウェールズ公チャールズや、政府関係者の中にも、伝統的な地域性や郷土愛を無視した変更だと言い放つ者がいた。伝統的な地方区分を重視するヨークシャー・ライディング協会(Yorkshire Ridings Society)などの団体が政治的な働きかけを行った。 1990年代の改革と「リージョン」 新たなヨークシャー・アンド・ザ・ハンバーは古典的なヨーク地方をおおむねカバーしている。 ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバーの下位区分 1990年代に新たな地方区分が導入された。まず、イングランド全体を「リージョン(region)」という大区分に分けた。従前のヨーク地方の大部分とそれまでの「ハンバーサイド」は新たに「ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー」を構成することになった。 「イースト・ライディング・オブ・ヨークシャー(East Riding of Yorkshire)」は以前よりも範囲が少し狭くなって復活した。境界は若干の違いがあるが、かつての「ヨークシャー」の大部分は現在「ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー地方リージョン」(Yorkshire and the Humber region)になっている。 新たな「ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー」は以前の「リンカーンシャー」の北部を僅かに含んでいる。そのかわり、以前の「ノース・ヨークシャー」の一部(ミドルズバラ(Middlesbrough)とレッドカー・アンド・クリーヴランド(Redcar and Cleveland))がノース・イースト・イングランド地方リージョンに含まれることになった。 ほかにも、かつて「ヨークシャー」に含まれていた地域で、他の行政区域へ管轄が変わったところがある。 ノース・ウェスト・イングランド(地方リージョン)へ移った地域 サドルワース(Saddleworth)は「グレーター・マンチェスター」へ ボウランド森林地帯(Forest of Bowland)は「ランカシャー」へ セドバー(Sedbergh)は「カンブリア」へ デント(Dent)は「カンブリア」へ ノース・イースト・イングランド(地方リージョン)へ移った地域 ティーズデイル(Teesdale)の一部は「ダラム(郡)(County Durham)」へ 詳細は下記記事を参照。 詳細はHistory of local government in Yorkshireを参照。 古典的な概念についてはイングランドのカウンティ、歴史的カウンティ(Historic counties of England) 1888年-1974年についてはイングランドの行政カウンティ 1990年代以降についてはイングランドの典礼カウンティ 大都市圏についてはイングランドの都市および非都市カウンティ Yorkshire and the Humber
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