原発における長時間の全電源喪失は、日本では想定外
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/09 17:53 UTC 版)
「原子力安全委員会」の記事における「原発における長時間の全電源喪失は、日本では想定外」の解説
1990年、原発の安全設計審査指針の策定時において、原子力安全委員会は、「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又(また)は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」と想定していた。全電源喪失は絶対に起させないという方針で、地震や津波の規模を予測し、安全対策を立てていた。 また、1993年(平成5年)6月11日付けの原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループによる『原子力発電所における全交流電源喪失事象について』においては、国内外の事例を分析し、日本においては諸外国と異なり外部電源と同時に更に複数台ある非常用発電機がいずれも不作動となる事例は過去一度も生じていないこと、また、日本で起きた過去4件の外部電源喪失事例は台風・雷によるものであったがいずれも直ちに非常用発電機による給電に成功しており、更にこの場合も外部電源がいずれも30分以内に復旧していること、米国に比べ日本では外部電源喪失頻度が一桁低く、非常用発電機の起動失敗確率が2桁低いこと、日本の原子力発電所の非常用蓄電池の容量はいずれも5時間以上であること等を調査結果のまとめとして記載し、今後の課題として、運転員の手順書の習熟、個別プラントにおけるアクシデントマネージメント体制の整備等を挙げている。 しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震とその後の津波により生じた外部電源喪失については、その被害が甚大であったために長時間復旧されず、また、非常用蓄電池設備に津波が侵入し使用不可能となった。このことについて、松浦祥次郎元原子力安全委員長は、「(当時は)何もかもがダメになるといった状況は考えなくてもいいという暗黙の了解があった。隕石(いんせき)の直撃など、何でもかんでも対応できるかと言ったら、それは無理だ」と釈明している、後日の会見では、「原子力の利益は大きく、科学技術を結集すれば、地震や津波にも立ち向かえると考えて利用を進めてきたが、考えの一部をたたきつぶされた」と述べ「問題の解決法を突き詰めて考えられていなかったことを申し訳なく思う」と謝罪の意を伝えた。 以上のように、外部交流電源が長時間喪失し、同時に直流電源も使用不可能になる事態想定していなかったのであるが、米国においては同様ではなかった。1980年代の初頭において、オークリッジ国立研究所 (ORNL) が、福島第一原発と同型の炉(ゼネラル・エレクトリック社製の沸騰水型"マークI")について、全電源が喪失した場合のシミュレーションを行い、米原子力規制委員会 (NRC)が、その結果報告を受けている。朝日新聞の報道によれば、そのシミュレーションの内容は、福島第一原発の事故と似ているものであり、結果報告は、米国の原発の安全規制に生かされているとされる。ただし、ナショナルジオグラフィックの報道によれば、(米国においては原発の全電源喪失が想定されていたとしても、)日本と違って米国は安全であると「楽観視」はできない。4月28日に行われた米原子力規制委員会による福島原発事故後に開始された90日間安全性チェックの中間報告では、米国に65ある商用原子力発電所の104の原子炉のうち、60基は自家発電を備え、44基は蓄電池で対応しており緊急な対策を強いられる状態ではないと発表された。ただし蓄電池では最大4時間しか電力を維持できないため、同委員会のヤツコ委員長は「4時間では十分と思えない」と懸念を示している。
※この「原発における長時間の全電源喪失は、日本では想定外」の解説は、「原子力安全委員会」の解説の一部です。
「原発における長時間の全電源喪失は、日本では想定外」を含む「原子力安全委員会」の記事については、「原子力安全委員会」の概要を参照ください。
- 原発における長時間の全電源喪失は、日本では想定外のページへのリンク