五社と大映スタッフ
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「人斬り (映画)」の記事における「五社と大映スタッフ」の解説
『人斬り』の撮影は大映京都撮影所で5月16日にクランクインした。五社英雄監督が初めて撮影所に来て、最初に入ったセットは第五ステージだった。時代劇映画の保守本流ともいえる大映には芸術的感性を持つ一流のスタッフ陣が揃っていた。 大映京都撮影所で撮影された作品には、『羅生門』『源氏物語』『雨月物語』『山椒大夫』『地獄門』など海外からも高評価された数々の名作があり、『座頭市』シリーズ、『眠狂四郎』シリーズなどの人気時代劇も生み出され、美術の西岡善信、カメラの森田富士郎など、この大映で技術を磨いてきた若手・中堅技術者が、テレビ出身の五社英雄と初めて対面した。 その初日に、吉田東洋扮する辰巳柳太郎が土砂降りの雨の中、襲撃される壮絶なシーンが撮影された。刺客達との死闘の中、血泥まみれになりながらも、刀を構え直す東洋の戦いぶりと断末魔のシーンは、五社と大映スタッフとの初めての仕事であった。 それまでの大映映画の時代劇では、様式美を重んじた殺陣が主であったが、テレビ出身の五社の演出はリアルな殺人シーンが信条であった。大映スタッフたちは初めて見た五社の刺激的で迫力のある演出に圧倒され一目置くようになった。一方、五社の方もテレビとは違う大映の美術の素晴らしさに感嘆した。 美術の西岡は、通常の撮影であればプラスチックやカポックでできた贋物の石を使用するところを、土砂降りの雨が石畳の坂道で跳ね返って烈しく水しぶきが立つ効果にこだわり、電車石を何十トンもセットに運び入れ、本物の石畳を作った。この本物の石により跳ね返った雨がさらにずぶ濡れ感を増し、暗殺シーンに大きな臨場感が出た。 五社はテレビの『三匹の侍』で時代劇に新しい風を吹き込み、俳優の剣さばきに独自の才気を見せていたが、大映の大セットや美術のレベルの高さと相まって、よりダイナミックな演出ができるようになった。 具体的にはロケハンから始めたのですが、ポイントを押えているし、実際の撮影に入り、俳優に芝居をさせる段になると、殺陣は抜群に上手い。大映時代劇の代表的な監督である三隅監督の殺陣は、様式美を重視しましたが、五社監督は正反対です。例えば、提灯越しにグサッと刺すとか、リアルな殺陣を重んじて、これまでの大映にはないものでした。 — 西岡善信「映画美術とは何か」 こうした大映スタッフと五社監督とのマッチングにより、クオリティー高くスケールの大きな映像が撮影可能となった。かつて五社は映画監督を目指して映画会社各社の入社試験を受けたが全部不合格となり、どうしても諦めきれず大映社長の永田雅一の自宅まで日参し請い続けたが採用されなかったこともあった。 五社は『人斬り』で大映京都撮影所入りした時、大映所属の各監督らに挨拶をして回っていたが、その際ほとんどの監督が「お前にちゃんと撮れるのか」といった尊大な態度であった。その時にきちんと挨拶して接してくれたのが、田中徳三と三隅研次の2人だった。 田中徳三は、「頑張って撮影しいや。なんかあったら言うてください」と明るく応対し、次の三隅も、「おっさん、監督はな、どない言われてもかまへんけどな、出来上がったもんが勝負やからな、ええのん撮らんとあかんで」と助言した。五社はこの2人の言葉によって初日のセットに入りの気分が楽になり、思うように撮影に臨むことが出来た。
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