乳幼児への人工内耳手術に関する議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 01:32 UTC 版)
「人工内耳」の記事における「乳幼児への人工内耳手術に関する議論」の解説
乳幼児への手術については、当人の自由意志ではなく親の意思により手術の決断がなされることに関わる倫理的問題が指摘される。ろう者として生きるか聴者として生きるかの選択ができない段階の乳幼児を持つ親が当人に代わって人工内耳を選択しようとすることを、聴能主義(英語版)(エイブリズム、健常主義の一種)的態度であるとして問題視する立ち場がある。 人工内耳が生む神経刺激から言語情報を取り出せるようになるまでには長い訓練と労力が必要とされ、そのために手話に触れることが遅れ、言語獲得に適した時期に手話を母語として獲得するチャンスが阻害される場合がある。 イギリスで人工内耳の普及を推進するThe Ear Foundationの著者らと英国聴覚障害児協会(英語版)の著者が2007年に公表した調査で、イギリスの2つの人工内耳センターの生徒から抽出した128名のうち調査に同意した約30名(年齢は13歳から17歳で、人工内耳手術を受けた時期はそれぞれ異なる)に構造化面接法(英語版)で質問を行い、肯定的な結果を得た。 生徒の3分の2は音声言語を選好し、3分の1は音声言語と手話を選好している。相手によって音声言語か手話かを柔軟に使い分けできる生徒が大半である。 会話が家族に「常に又はほとんどの場合に」理解されていると感じている生徒が回答者の3分の2程度。 生徒は、聴こえない世界と聴こえる世界の両方に所属していると感じており、そのことをポジティブに受け止めている。 生徒のうち多数が、人工内耳を付けるかどうかの判断に自分の意思が関係しなかったと答えた(18人、62%)。自分の意思が関係したと答えたのは8歳より後に付けた生徒のみであった。自分にかわって親が判断したことについて恨む回答はなく、むしろ肯定的な捉え方が多かった。 Sara Novic(英語版)は人工内耳は訓練と労力を必要とする機器である点、成人聾者が機器を利用して聴覚言語と読話と手話とを併用することは珍しくない点を指摘し、乳幼児に人工内耳を装着させる判断をする場合も、聴覚言語だけでなく手話の学習環境も与えることを奨励する。 全日本ろうあ連盟は2016年の声明で、日本での人工内耳装着児の増加を受けて、聴者である保護者が児童も自分たちと同じ言語で育つことを望む心情は理解できるとした上で、児童が口話でなく手話で育つことは不幸ではないことを保護者らが理解することを希望し、聴力の程度や障害の様態に応じて手話で育つ方が当人に適した選択である可能性や口話と手話のバイリンガル教育の可能性も検討するよう保護者らに呼びかけた。 黒田が報告した日本における事例においては、近年でもなお聴覚障害児の保護者が人工内耳装用について検討する際、乳幼児への人工内耳装用に反対する団体の問題が考慮されているという。
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