ビオトープの概念
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/26 13:43 UTC 版)
ビオトープとは生物の生息場所を意味するドイツ生まれの概念である。ビオトープは生物学の用語であるが、ドイツ連邦自然保護局ではビオトープを「有機的に結びついた生物群。すなわち生物社会(一定の組み合わせの種によって構成される生物群集)の生息空間」と位置づけている。別の表現をするならば「周辺地域から明確に区分できる性質を持った生息環境の地理的最小単位」であり、生態系とはこの点で区別される。つまり、ビオトープ(環境)とその中で生息する生物群集(中身)によって、生態系は構成されていると言うこともできる。 沼田真の著書『生態学方法論』改稿版 によると、この用語は、1908年に動物学者のフリードリヒ・ダールが論文「生物共同体の研究の基礎と概念」で、科学での学術用語に導入したのを発祥としている。こうして生態学の分野で、ある生物群集の生活空間、という意味で用いられていったビオトープというギリシャ語βiοs BIOS「人生」とτοποsトポス「位置」という合成語がコミュニティの特定の生息地である生物群集地に立脚した、最小単位である生物圏を表しており、自然保護と景観保全生息地の分野で実用的な視点で生息地タイプが関連付けられているとしている。植物地理学者シュミットヒューゼン著で宮脇昭が翻訳した『植生地理学』によると、生活地または生地(Biotop)という用語はある定まった現存生物共同体の生育地を指していると定義している。つまりビオトープは地形、気候、水など一定の環境条件の元にあってひとつの生態系をなす生物共同体の生活空間とみなすことも可能である。 生物学における用法では、例えばヘイケボタルが生息する典型的な環境をヘイケボタルのビオトープと呼ぶ。そこには、気象条件、地勢や水系の特性、他の生物の生息状況などが含まれる。ただし、この言葉は特に生態系との違いが明確ではなく、どちらでも使える場合もあり、現在では生態学の用語として使われる場面は多くない。 一方、土木工学では都市化や産業活動によって生物がすみにくくなった場所において、周辺地域から区画して動植物の生息環境を人為的に再構成した環境という意味でも用いられている。人為的に多様な生物的環境を創造する試みのことを、エコアップなどと称する場合もある。また、土木工学では河川、道路、公園、緑地などを整備する際の生態系の多様性の維持という観点でもビオトープの概念が用いられている。 ビオトープづくりは生物環境の保全という観点から行政主体の事業から市民参加の活動まで広く含む概念として用いられるようになり、生物環境に配慮した様々な事業を広くビオトープと称することもある。 さらに、ちいさな水辺などに水草や抽水植物、小魚等を飼育する環境を「ビオトープ」と呼ぶ語法も出てきている。
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