ゲノムワイド解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 23:47 UTC 版)
「選択的スプライシング」の記事における「ゲノムワイド解析」の解説
選択的スプライシングのゲノムワイド解析は挑戦的な課題である。一般的には選択的スプライシングを受けた転写産物はESTの配列を比較することで発見されるが、これには非常に多数のESTのシーケンシングを必要とする。ESTライブラリの大部分は限られた数の組織に由来し、そのため組織特異的なスプライスバリアントは見逃されがちである。一方、DNAマイクロアレイベースの解析、RNA結合アッセイ、ディープシーケンシング(英語版)といった、ハイスループットなアプローチでスプライシングを調査する手法も開発されている。これらの手法は、タンパク質結合に影響を与えるスプライシングエレメント周辺の多型や変異のスクリーニングにも利用される。In vivoでのレポーター遺伝子アッセイなどのスプライシングアッセイと組み合わせることで、多型や変異がpre-mRNAのスプライシングに与える機能的な影響を分析することができる。 マイクロアレイ解析では、アレイには個々のエクソン(Affymetrix exon microarrayなど)またはエクソン-エクソン境界(ExonHitやJivanなど)のDNA断片が利用される。アレイは研究対象の組織由来のラベルされたcDNAとの結合が行われる。プローブとなるcDNAは、その組織でmRNAに組み込まれているエクソン由来のDNAまたはエクソン境界のDNAに結合する。これによって特定の選択的スプライシングを受けたmRNAの存在が明らかにされる。 CLIP(cross-linking and immunoprecipitation、クロスリンクと免疫沈降)では、スプライシングが行われている組織でタンパク質とRNA分子の紫外線照射による架橋が行われる。そして、研究対象のトランス作用スプライシング調節タンパク質は特異的抗体を用いて沈降される。タンパク質に結合しているRNAの単離とクローニングが行われ、そのタンパク質の標的配列が明らかとなる。RNA結合タンパク質を同定しそのpre-mRNA転写産物へのマッピングを行う他の手法としては、MEGAshift(Microarray Evaluation of Genomic Aptamers by shift)がある。この手法は、SELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment) の応用であり、マイクロアレイベースの読み出しを組み合わせたものである。MEGAshift法によって選択的スプライシングが行われるエクソン周辺においてASF/SF2やPTBといったスプライシング因子が結合する配列が特定され、選択的スプライシングの調節に新たな洞察がもたらされた。このアプローチはRNAの二次構造とスプライシング因子の結合の関係を明らかにするためにも利用されている。 ディープシーケンシング技術は、プロセシングを受けていないmRNAや受けたmRNAのゲノムワイド解析を行うために利用されており、選択的スプライシングへ洞察をもたらしている。例えば、ディープシーケンシングを用いて得られた結果からは、ヒトでは複数のエクソンからなる遺伝子の転写産物の95%が選択的スプライシングを受けると推計され、多数のpre-mRNA転写産物は組織特異的なスプライシングを受けていることが示された。機能ゲノミクスとmultiple instance learningベースの計算機アプローチが、RNA-seqのデータを統合し、選択的スプライシングを受けたアイソフォームの機能を予測するために開発されている。ディープシーケンシングは、スプライシングの過程で放出される一時的な投げ縄構造のin vivoでの検出、分枝部位の配列の決定、そしてヒトのpre-mRNA転写産物における分枝点の大規模マッピングにも利用されている。 レポーターアッセイは、特定の選択的スプライシングイベントに関与するスプライシングタンパク質の発見を可能にする。この場合、レポーター遺伝子はスプライシング反応が起こったかどうかによって2つの異なる蛍光タンパク質のいずれか1つを発現するように構築される。この手法はスプライシングに影響が生じている変異体を単離し、それらの変異体で不活性化されている新規スプライシング調節タンパク質を同定するために利用される。
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