その多義性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 10:20 UTC 版)
コモン・ローは、歴史的には、イングランドにおいて、それぞれの地方における地域的な慣習に優先する全国共通の慣習にしたがって裁判の準則を醸成する過程において登場した概念である。コモン・ローが、特にもっとも一般的な用法として、中世イングランドの国王裁判所が発展させてきた法体系を示す用語となった理由としては、ノルマン人の王朝が従来のアングロ・サクソン人のそれぞれの地方の慣習に優越する概念として「王国の一般的慣習」 (general custom of the realm) の意味でコモン・ローという用語を用いたのがきっかけである。 この意味でのコモン・ローは国王の世俗的権力の強大化に伴い、教会法の対概念である世俗法のことを意味して用いられるようになる。 コモン・ローとは別の救済をもたらすエクイティという法概念が定着すると、コモン・ローはエクイティの対概念として用いられるようになる。 英国の国際的地位の向上に伴い、コモン・ローは、大陸法(Civil law、シビル・ロー)と並ぶ二大法体系の一つとして認識されるようになり、大陸法系の対概念にあたる英米法系(広義)として認識されるようになった。 コモン・ローは、幾多の判決(判例)が積み上げた合意を基盤として成り立っている。制定法(成文法)の整備に従い、コモン・ローはそれらの対概念である「判例法」や「不文法」のこととして用いられるようにもなる。この意味で用いられるコモン・ローという概念にはエクイティや商慣習法、カノン法など、本来のコモン・ローとは異質なものも含まれる。 教会法における「一般法」(jus commune)は、各地の教会の特別な慣習に優先する一般的慣習という意味である。また、ドイツ法における「共通法」(ゲマイネス・レヒト)は、領邦を超えて帝国に共通して適用されるローマ法のことを指す概念である。アメリカ法において、各州を超えた連邦の「一般法」 (general law) という概念がフェデラル・コモン・ロー (federal common law) と称されたこともあるが、現在は判例によって否定されている。 なお、コモン・ローの「ロー」は、日本語の「法」、「法律」とかなり意味合いが異なるので注意が必要である。もともとコモン・ローは、中世のイングランドで対立する当事者の申立てを比べあわせて伝統や慣習、先例に基づき裁判をしてきたことに由来するが、コモン・ローを適用する際に用いられる論証の形式は、決疑論や事例判断として知られている。要するに、できる限り当事者双方に主張立証を委ね、裁判所は伝統や慣習、先例に照らして各論点ごとにいずれの当事者の論証が説得的であるかということに重点を置いてその事案を裁判すべきとされてきたのであり、その意味で裁判所は紛争の調停者であるといわれる。裁判所の中での議論を重視する審理態度は、制定法という裁判所の外から与えられる規範への適合性を重視するという、大陸法圏における審理態度と好対照をなしている。
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