職能神・芸能神との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 05:28 UTC 版)
天皇という王は、本来自然の領域に属する超越性を人間社会内へ奪取する媒介者の働きをしており、その多義性は宗教や儀礼、技芸の神にまつわっている。天皇と職人とには、内密な関係が見られる。金春禅竹が『明宿集』で語るところによると、芸能や職人の守護神である宿神(翁)は、宇宙の中心、王の中の王であると諸職の民によって考えられていた。これは、大蛇(自然)の力から剣(レガリア)を取り出すスサノオのように、宿神が荒々しい自然から美や富を人間の社会に持ち込む離れ業を演じる霊であったことによるという。すなわち天皇の権力は、芸能者や職人の日々行う業と似通った性格となっている。 『明宿集』は、星宿神を北極星とし、「翁」を宿神と呼ぶことは太陽・月・星宿の意味が込められているとしている。「宿」という文字には、星の光が降下してあらゆる家に降り注ぎ、人間に対してあらゆる業を行うという意味がある。「翁」の文字は、公の羽と書くことから王を鳥に喩える文字であり、あらゆる領域を飛翔するという意が込められている。また、本地垂迹はすべて本体は一つであり、不増不減、常住不滅の一つの神に集約されるともいう。『明宿集』の末尾では、翁とは日月星宿がすべての人の心に宿ったものであり、俗体は翁の化身であり、それを知っていると知らないとの違いがあると説かれている。 天皇は、律令制という合理的制度が導入された以後も、自然の内奥との深い結び付きを主張する王の宿神的身体(翁的身体)を、あるいは「王の熊の身体」を、様々な宗教儀礼や神話的観念を通して維持しようとしてきた(神やカムイという言葉は、熊や狼のような強力な森の住人を指していた)。特に古代的天皇の復活を目指した後醍醐天皇による建武の中興では、密教の道具立てを使って、自然の内奥から超越的主権を取り出してくる異形の王としての天皇、という大規模な演出まで試みられた。網野善彦の『異形の王権』はこの問題を主題としている。
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