『フライトメア』『魔界神父』でモダン・ホラーの巨匠へ
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「ピート・ウォーカー (映画監督)」の記事における「『フライトメア』『魔界神父』でモダン・ホラーの巨匠へ」の解説
ふたたびマクギリヴレイの脚本を得たウォーカーは、前作では脇役だったシーラ・キースを事実上の主役に抜擢したスプラッター・ホラーの名作『フライトメア』Frightmare(1974年)を監督する。 世間から身を隠して暮らす老夫婦ドロシー(シーラ・キース)とエドモンド(ルパート・デイヴィーズ)。2人は連続殺人と人肉食の罪で有罪判決を受け、精神病院で15年間の入院生活を終えてきたばかりだった。妻のドロシーは人肉嗜食を愛好する精神異常者で、彼女を愛するエドモンドはその共犯者として妻が犯した殺人の隠蔽工作を行っていた。一方、エドモンドと前妻の間の娘ジャッキー(デボラ・フェアファックス)は秘かに両親と連絡を取り合っているものの、過去を忘れて普通の生活を送りたいと願っていた。しかし徐々にドロシーの精神病が再発し、周囲の知らないところでふたたび残虐な連続殺人を始める。片や、ドロシーの血を受け継いだ次女デビー(キム・ブッチャー)も少しずつ凶暴性に目覚め、恐るべき本性を垣間見せ始めた。エドモンドとジャッキーは家族を守ろうと必死になって奔走するが、その愛情と絆の強さがかえってドロシーとデビーの狂気を増長させていくことになる。 『フライトメア』では、残虐な殺人に手を染める狂った老婆を演じたシーラ・キースの鬼気迫る怪演が見る者を震え上がらせる。今日でもシーラ・キースは特にこの作品における演技によってホラー女優としての名声を残している。そして本作では精神病患者に対する司法と医療の扱いといったシリアスなテーマを盛り込み、「心神喪失による無罪」といったテーマをラストシーンにおいて強調するなど、単なるB級ホラーにとどまらない本格的なサスペンス映画としての強い志向を感じさせる傑作となっている。また、この作品では過激な残酷描写によるスプラッター・シーンを積極的に取り入れ、ピート・ウォーカーは主にこの作品の名声で今日でも「ブリティッシュ・スプラッターの帝王」と呼ばれている。この映画の大ヒットによってピート・ウォーカーは現代恐怖映画の第一人者としての名声を確立する。 続いて、またもマクギリヴレイの脚本とシーラ・キースの出演を得た『魔界神父』House of Mortal Sin(1975年)を発表。狂った神父が異常な妄執に突き動かされて、残虐な連続殺人を起こすストーリーが衝撃を与えた。 主人公のメルドラム神父(アンソニー・シャープ)は信者からの信頼も厚い温厚な老神父。しかし、厳格なモラリストの母親から厳しく育てられ、聖書の教えや教会の戒律にがんじがらめとなって生きてきた彼は、己の内なる肉欲を抑圧否定しながら日々を過ごしている。そんな人生の中で神父は己の悶々とした欲求不満を善意へとすり替え、しだいに精神に異常をきたしてゆく。懺悔に来た若く美しい女性たちの秘密を知った彼は、それをネタに彼女たちに執拗なストーカー行為を繰り返す。だが、彼はそれを悪いとは思っていない。それどころか、自分こそが彼女たちを導くことが出来る、自分だけが彼女たちを救うことが出来る、そのためには何をしても神から許されると本気で信じ込んでしまっている。そして神父は自分と彼女たちの間に入る邪魔者を、躊躇することなく次々と血祭りにあげていくのだった…。 『魔界神父』は、当時はまだ社会問題となるまでに深刻化していなかったとされるキリスト教原理主義とストーカー犯罪をいち早く取り上げたサイコ・スリラーの傑作として評価され、日本ではVHSソフトが発売されて話題となった。この作品はウォーカーの作品中で最も評価が高く、優秀な恐怖・ファンタスティック映画賞に贈られるサターン賞において、『オーメン』(1976年)、『キャリー』(1976年)、『愛のメモリー』(1976年)、『悪魔の沼』(1976年)、ダン・カーティス監督の『家』(1976年)と並んで、1977年度の最優秀恐怖映画賞にノミネートされた(受賞作品は『家』)。また、ウォーカー監督は狂えるメルドラム神父に疑惑を抱くカトラー神父役として、当初ピーター・クッシングを想定していたが、クッシングのスケジュールの都合で実現しなかった。ウォーカー監督作品の顔というべきシーラ・キースはメルドラム神父に忠実に仕える家政婦役で出演し、狂気を秘めた老女の役を印象的な演技で演じている。
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