『イワン・オソキン』の執筆まで(1878年~1905年)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 00:10 UTC 版)
「ピョートル・ウスペンスキー」の記事における「『イワン・オソキン』の執筆まで(1878年~1905年)」の解説
P・D・ウスペンスキーは一八七八年、ロシアのインテリゲンチャの家庭に生まれ、モスクワで子供時代を送った。 父は測量局の役人で、早くに亡くなっている。彼は数学を趣味とし、「第四次元」ということに関心を向けていた。どうして空間の認識は三次元でなければいけないのか、どこかに隠れているに違いない第四の次元を見つけよう、という一種のゲームであり、当時の知識人の間で流行していた。P・D・ウスペンスキーは、この関心を父から引き継いだ。母の一族は祖父母の代から画家であり、教会に収める宗教画のほか、近代的な絵画も手掛けていた。 P・D・ウスペンスキーは、のちに一九〇五年のロシア第一革命で捕らえられた後に獄死する妹とともに、自分には多少のいわゆる超自然的な能力があることを子供時代から知っていたという。二歳のころからの鮮やかな記憶を保持したことに加え、「自分は前にもここにいたことがある」という思いや既視体験が、やがて「生は反復する」という思いへと彼を導いた。 少年時代のウスペンスキーは、早くから文学と芸術に親しみ、五歳のころから読書を始め、十六歳にしてニーチェに傾倒し、やがて創作を始める、一九〇五年に処女作である『イワン・オソキンの不可思議なる人生』の草稿を書き上げた。 『イワン・オソキンの不可思議なる人生』は、規則や束縛を好まず、ギムナジウム(中高一貫校)を四年生で退学になったイワン・オソキンが25歳になって金持ちの令嬢ズィネイダと素敵な恋をするが、落ちこぼれの身ゆえにうまく行かず、愛想を尽かされて、自殺も考えたうえで魔術師のところに相談に行き、自分は人生をやり直したいので魔術を使って過去に戻してくれと頼み込み、魔術師はこの願いをかなえてやるという話である。あれこれ「知っている」自分がその知識を携えて過去に戻るのだから、すべていいようにやり直せると思っていたら、まったくそのようにはいかない。結局のところ自分はなにも変えられなかったっ……「知ること」の無力を痛感させられ、魔術師のところに戻ってくる。 『イワン・オソキンの不可思議なる人生』は、フィクションを交えてではあるが、P・D・ウスペンスキーが彼自身をモデルにして書いたものであり、グルジエフに会う前の彼の姿、「第四の道」の教師としてののちの彼とはまったく違うそれ以前の姿、さらには「永劫回帰」をはじめとする彼の思想の原点を知ることを可能とする、彼を深く知るためには必読の一冊である。 P・D・ウスペンスキーは、この物語のとおり、モスクワ第二ギムナジウムから退学処分を受けており、ズィネイダにも実在のモデルがいるという。 『イワン・オソキンの不可思議なる人生』の内容からは、P・D・ウスペンスキーがグルジエフに会う前から、グルジエフとの出会いを予見していた、あるいはグルジエフの思想を知っていたかのような印象を受ける。その後の修正を受けていないオリジナルのロシア語版でもこの印象は変わらない。 人間の機械性、性格への囚われ、「為す」ことの不可能性、すべてはただ起こる、永遠のくりかえし、知ることの無力……。P・D・ウスペンスキーがのちにグルジエフの考えとして『奇跡を求めて』に収録したそれらの考えは、グルジエフの口から出たことは疑いようもないが、それらはグルジエフの考えなのか、それともグルジェフはウスペンスキーの心を読んでいたのか? それとも逆にウスペンスキーがまだ見ぬグルジエフの心を読んでいたのか? 『奇跡を求めて』には、グルジエフとウスペンスキーがテレパシーで会話する場面があるが、あるいは当時から二人の間には目に見えない精神のつながりがあったのかもしれない。 あるいは別の可能性として、グルジェフはその初期における教えの強調点をウスペンスキーから導き出したということも考えられる。グルジェフが一九一五年の時点で構想を練っていたバレエ劇『魔術師たちの闘争』の筋は、『イワン・オソキンの不可思議なる人生』を意識したものである可能性が高い。どちらの物語でも、主人公は恋愛をめぐる問題の解決を求めて魔術師に会いに行く。ヒロインの名も、かたやゼイナブ、かたやズィネイダで、似たところがある。しかも、ウスペンスキーがグルジェフのことを最初に意識するのは、まさにこの『魔術師たちの闘争』をめぐる新聞記事を目にしたときのことだった。
※この「『イワン・オソキン』の執筆まで(1878年~1905年)」の解説は、「ピョートル・ウスペンスキー」の解説の一部です。
「『イワン・オソキン』の執筆まで(1878年~1905年)」を含む「ピョートル・ウスペンスキー」の記事については、「ピョートル・ウスペンスキー」の概要を参照ください。
- 『イワンオソキン』の執筆までのページへのリンク