「場所」概念の誕生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/12 06:27 UTC 版)
「場所 (地理学)」の記事における「「場所」概念の誕生」の解説
「場所」が地理学における重要概念のひとつとして立ちあらわれたのは、1970年代にはじまる人文主義地理学の興隆を通じてである。1950年代中葉から1960年代初頭にかけて、英語圏の地理学界では計量革命とよばれる運動があった。それまでの地理学は地誌学的な、定性的手法により地域の個性を描き出すことに注力していた。計量革命はこうした個性記述的な手法から脱却し、地理的事象を数理的手法を用いて定量的に分析し、一般的な空間モデルの定立を目指した。こうした動きに対し、定量化できない主観的空間を主題として扱おうとするアプローチも生まれた。これが人文主義地理学である。 人文主義地理学は、現象学的な枠組みをもとに、人間が関わることによって意味づけられた感覚上の世界を研究対象として扱った。それまでもっぱら一般名詞的に用いられていた「場所」という言葉は、こうした動きのなかで身近な日常生活の経験世界を捉える概念として用いられるようになった。人文主義地理学の代表的な論者としてイーフー・トゥアンとエドワード・レルフが挙げられる。トゥアンとレルフはそれぞれ1974年、1976年というほとんど同時期に『トポフィリア―人間と環境(Topophilia: a study of environmental perception, attitudes, and values)』『場所の現象学(Place and Placelessness)』を出版し、この分野の相並ぶ代表作と称された。 レルフは同著において「場所の本質」とは人間の場所に対する主観のあり方から把握されるものであること、人間の場所に対するアイデンティティは「内側」であるか「外側」であるかを基本次元とし、「個人-集団-公共-大衆」という社会化のあり方がそれに重なることで場所のイメージが現れると論じた。レルフは場所づくりのあり方についても考察し、「本物」の場所形成と「偽物」の場所形成(没場所性)の概念を検討した。レルフは、工業化とモビリティの波及が進んだ現代社会ではイメージ商品化され、ステレオタイプ的な消費の仕方しかできない「没場所」が増えていることを指摘し、こうした現代の景観と場所を克服し、本物の「場所のセンス(英語版)」を取り戻すためには、個々人が現代社会の様々な見えざる権威からの離脱(脱権威)を実践することが必要であるとした。トゥアンは場所を空間の対比で論じ、空間には自由・憧れ・観念的・抽象的といった特性、場所には安全・愛着・親密・価値と考えられるものの中心といった特性があることを論じた。
※この「「場所」概念の誕生」の解説は、「場所 (地理学)」の解説の一部です。
「「場所」概念の誕生」を含む「場所 (地理学)」の記事については、「場所 (地理学)」の概要を参照ください。
- 「場所」概念の誕生のページへのリンク