修正說とは? わかりやすく解説

修正説(内戦説、統一説、解放説、誘因説)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 03:39 UTC 版)

朝鮮戦争」の記事における「修正説(内戦説統一説、解放説、誘因説)」の解説

朝鮮戦争は、「朝鮮戦争=(統一のための)内戦説」「朝鮮戦争誘因説」という学説がある。李栄薫重村智計によれば、この動きブルース・カミングス1981年著書朝鮮戦争起源』が導火線であり、学界ではこれを「修正説」と呼んでいる。朝鮮戦争について伝統主義修正主義(修正説)という相反する見解があり、朝鮮戦争北朝鮮の南侵から勃発した解釈するのが伝統主義であり、対して日本植民地支配からの解放、アメリカ・ソ連による分割占領南北政府樹立へと連なる構造のなかで戦争勃発した解釈するのがカミングス代表される修正主義となる。修正説は、「学問的というよりは、政治的意図を含む研究」「北朝鮮と金日成首相に責任を負わせず、アメリカ非難するための理論であった。その政治的な目的と動機は、あきらか」な意図的に編み出されたものであるという指摘があり、日本韓国もとより、Boudewijn Walraven(ライデン大学)やDouglas J. Macdonald(アメリカ陸軍戦略大学)やJames Matray(カリフォルニア州立大学チコ校(英語版))やKathryn Weathersby(ジョンズ・ホプキンス大学)など欧米でも歴史修正主義という評価がある。 修正説は「内戦説」と「誘因説」とに分類することができる。 内戦説内戦説」は、朝鮮戦争は、植民地時代に始まる互いに異な国家建国する葛藤が、解放後反乱衝突とに引き継がれアメリカ軍政は民主化抑圧する一方少数地主擁護した葛藤核心農地改革であったが、アメリカ軍政は地主擁護して農地改革後回しにしたことにより、民主勢力大邱10月事件済州島四・三事件麗水・順天事件、それに続くゲリラ活動抵抗した38度線では韓国北朝鮮武力衝突続いており、最終的に戦争発展したという説である。 誘因説 アメリカ戦争特需期して韓国から意図的にアメリカ軍撤収させ、軍事的空白状態を作り出すことにより、北朝鮮韓国侵攻するよう罠を仕掛けたという説である。 カミングス朝鮮戦争起源日本植民地支配遡り朝鮮戦争責任日本にあり、北朝鮮にはないとする1980年代以後研究進化により欧米韓国 では「通説として受け入れられてきたのは北朝鮮による南侵説」「北朝鮮金日成民族統一名分掲げソ連中国支援受けて南侵を強行」したとする北朝鮮による侵略説が定説化するなかで、カミングスの修正説は、日本での共産主義・社会主義革命実現したいあるいは北朝鮮戦争犯罪への非難回避した共産主義・社会主義北朝鮮好意を抱く・支持するあるいはシンパシーを持つ日本左派研究者魅了し大きくもてはやされ受け入れ便乗するようになり、カミングスの修正説を支持するようになった重村智計によると、ソ連中国・北朝鮮などの共産主義・社会主義は、アメリカ帝国主義アジアから駆逐するため、アメリカ帝国主義侵略戦争としての朝鮮戦争という図式が必要であり、これを中国共産党北朝鮮政府共産主義・社会主義北朝鮮支持するあるいはシンパシーを持つ日本左派研究者支援して、彼らは運動の手先となっていった。 例えば、左派研究者藤原彰は、1989年6月底本発行された『大系大系 日本の歴史15世界の中の日本』において、以下のように記している。 朝鮮の南半分では一九八四年八月大韓民国成立したが、四八四月から一年以上もつづいた済州島人民武装闘争や、四八一〇月の南海岸の麗水順天での軍隊反乱などがあって、政情不安定なうえに、財政危機つづいていた。李承晩政権は、国内危機北へ武力挑発解消しようとし、武力北進をとなえていた。一方北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国は、ソ連軍撤退後もその援助急速に軍備ととのえ、南の政情不安に乗じていっきょに武力統一完成しようとしていた。こうして朝鮮南北双方から準備され内戦として、戦火開かれたのである戦闘がはじまると、かねて南進態勢ととのえていた北朝鮮軍は、三八度線をこえて進撃開始し韓国軍一撃壊滅し三日後の六月二八日にはソウル陥落した。 修正説は、ウィスコンシン大学マディソン校アメリカ外交史講座ウィリアム・A・ウィリアムズ1958年提唱した冷戦の原因アメリカ拡張主義にあるとしたニュー・レフト史学修正主義学派いわゆるウィスコンシン学派」の影響受けており、カミングスもこの系譜に繋がる修正主義学派として挙げられる修正主義学派アメリカ責任論と南侵誘導説は、全国教職員労働組合民族問題研究所歴史問題研究所朝鮮語版)など韓国左派多大な影響与えカミングスの修正説は、韓国大きな反響呼び1980年代民主化の波を受け、韓国現代史急進的に再解釈する梃子として作用して毛沢東新民主主義革命理論に基づく韓国現代史左派的な解釈として発展した。しかし修正主義学派は、ソ連崩壊公開され公文書に基づく、ジョン・ルイス・ギャディス代表される「脱修正主義(post-revisionism)」研究スターリニズムソ連-北朝鮮の関係を明らかにした結果アメリカ責任論や南侵誘導説などの修正主義学派は、「降伏した」「徹底的に壊された古い理論」「廃棄され理論」「学説として、すでに寿命尽きた」というのが主流研究者の見解であり、国際政治学界はもちろん、本国アメリカで居場所失い、もはや学術的価値がないと評価されている。学界では、ウィリアム・A・ウィリアムズウォルター・ラフィーバートーマス・J・マコーミックロイド・ガードナーら「ウィスコンシン学派」の伝統継承してきた総本山ウィスコンシン大学マディソン校アメリカ外交史講座を脱修正主義大家ジョン・ルイス・ギャディス直系弟子で、修正主義学派厳しく批判した正統主義派のジェレミ・スリ(英語版)が教授引き継いだことから脱修正主義学派学術的勝利という評価下している。ジェレミ・スリ(英語版)は、修正主義学派アメリカ共産主義脅威誇張して経済的利益のために軍備拡張競争追求した主張したが、ソ連崩壊後公文書公開されたことから根拠失っており、アメリカの外交政策欠点明らかにしたことは、修正主義学派学術的成果であったが、共産主義侵略戦争であった朝鮮戦争においてはアメリカ韓国合法性損なわれず、脱修正主義正統主義派の学界は、朝鮮戦争アメリカ防衛的役割認めており、1990年代公開されソ連公文書朝鮮戦争について議論余地のない3つの事実明示しているとして以下を挙げている。 金日成スターリン毛沢東は、韓国奇襲攻撃する計画1950年互いに協議した金日成スターリン毛沢東は、ソ連盟主とする共産主義影響力東北アジア拡大しようとして、共産主義拡張について話し合い1950年6月25日攻撃韓国解放のための内戦見ておらず、共産勢力明らかな侵略戦争行った金日成スターリン毛沢東は、アメリカ強力な対応を想定しておらず、そのことアメリカ過度に介入主義でなかったことを示している。朝鮮戦争開始後の数週間は、アメリカ共産主義拡大撃退することができなかった。 朝鮮戦争中、スターリンは、北朝鮮戦略多大な影響力及ぼし韓国莫大な被害を負わせて、アメリカ巻き添えにするため、金日成戦闘継続するよう煽った。そして、スターリン毛沢東一緒に戦争持続させるための広範な軍事的支援行った李栄薫は、今日研究水準として「農地改革のための民衆革命的な要求内戦つながり、これが朝鮮戦争発展した」という修正説の抱えている問題点として、「韓国では、農地改革後回しにしたのではなく地主小作農の間の事前販売解放同時に始まり1949年農地改革を以てスピード上げ朝鮮戦争以前には完了していた」「スターリン軍事活動禁止する命令下したことによって、1949年8月以後は、38度線軍事的に平穏な状態が保たれていた」ことを挙げたソ連崩壊後機密解除されたソ連公文書によると、1949年3月5日モスクワ会談において、金日成スターリンに南侵の提案行ったスターリン提案拒否したが、その後1950年1月17日金日成再度スターリンに南侵の提案上申するスターリン同年1月30日金日成の南侵の提案受諾する電報平壌飛ばし4月極秘スターリン訪問した金日成対しアメリカ戦争介入してきた場合対策として毛沢東支持協力取り付けることを指示した5月13日金日成毛沢東訪問して南侵の提案明かして支持協力要求したが、毛沢東別ルートからスターリン提案受諾していることを知っており、アメリカ戦争介入してきた場合中国兵力派兵し金日成助けることを約束した後、毛沢東瀋陽に9個師団配置して来たるべき戦争備えてソ連中ソ友好同盟相互援助条約締結する。その席上スターリン毛沢東に「アメリカの介入恐れるな」「アメリカ鴨緑江越えて東北地区まで進撃してきたら、中国ソ連挟撃受けてアメリカ甚大な失敗を味わうことだろう」と激励した結果朝鮮戦争アメリカとの冷戦において勝機得ようとしたスターリン毛沢東支持同意協力取り付けた金日成が、中国共同周到綿密に準備企図した北朝鮮による先制攻撃であることが明らかとなった。従って、日本韓国アメリカなどの学界では修正説はまった認められていない。しかしなお近年も修正説を主張する見解提起されている。以下列記するが、韓国には韓国内北朝鮮北韓共産集団)・共産主義賛美する行為及びその兆候法的に取締る国家保安法があり、2005年東国大学校教授姜禎求が「朝鮮戦争革命的な民衆勢力外国勢力依存する反革命分子とのあいだに起こった内戦」「北朝鮮の立場からすると南朝鮮外国勢力植民地的な支配から解放するための民族統一戦争」と主張して国家保安法違反懲役2年執行猶予3年資格停止2年有罪判決を受ける事件があった。 主張ブルース・カミングスは「誘因説」と「内戦説」を育てた開祖」であり、修正説の旗手として共産主義・社会主義北朝鮮支持する日本及び韓国左翼から受け入れられた。カミングスは、南北戦争において、アメリカ合衆国侵略したのか、アメリカ連合国侵略したのか特定することができないように、朝鮮戦争内戦であるから北朝鮮侵略したのか、韓国侵略したのか特定することができず、「朝鮮戦争開戦責任などどうでもいいこと」だという。 小此木政夫は、「北朝鮮民族解放戦争論理のもとソ連共謀して朝鮮戦争始めた」と説明しており、金学俊(朝鮮語版)(ソウル大学教授などを歴任朝鮮戦争研究第一人者という評価がある)は、日本修正主義学派位置付けている。 桜井浩(久留米大学教授)は、「北朝鮮韓国での土地改革成功する事を憂慮し朝鮮戦争開始した」と説明しており、同じく金学俊(朝鮮語版)は、日本修正主義学派位置付けている。 日本・中国韓国研究者編集した学校副教材『未来をひらく歴史』には朝鮮戦争について日本語版には、「北朝鮮人民軍半島南部解放めざして南下はじめたのです。」(p188)とある。一方朝鮮語版には、「北韓人民軍武力統一目標に南侵したのである。」(p214)とある。下川正晴は、日本語版と朝鮮語版正反対であり、「半島南部解放」という朝鮮戦争史観について、「旧態依然たる共産党史観というべきか、B・カミングス教授らに影響受けた修正主義史観”というべきか」と批判している。左翼政権盧武鉉)の韓国でも学校副教材に「半島南部解放」とする修正説を書くわけにはいかず、カメレオンのように姿を変える歴史修正主義者たちの奇々怪々さにはあきれるしかない批判している。 ガヴァン・マコーマックの「朝鮮戦争内戦規定し介入した米国国連批判」「アメリカ国連非難」」する朝鮮戦争史観は、「北朝鮮側に立ち北朝鮮弁護しようとの意図うかがえる」という。木村幹は、カミングスと「同じ歴史修正主義立場」であると評している。重村智計は、カミングスジョン・ハリディ歴史修正主義をさらに越える新歴史修正主義評している。 ジョン・ハリディは、カミングスとの共著で、「二つ国内的勢力反植民地闘争にもとづく革命的民主主義運動と、不平等な土地制度と結びついた保守派運動)の闘争別の形で継続されていった内戦」「1950年6月突如として始まったとする通説批判」しており、重村智計は、カミングス系譜に繋がる歴史修正主義評している。 姜禎求は、「朝鮮戦争革命的な民衆勢力外国勢力依存する反革命分子とのあいだに起こった内戦」「北朝鮮の立場からすると南朝鮮外国勢力植民地的な支配から解放するための民族統一戦争」と「カミングスの修正説を越える」主張行い国家保安法違反懲役2年執行猶予3年資格停止2年有罪判決を受ける。『朝鮮日報』によると、ウィスコンシン大学マディソン校大学院修士博士取得しており、ニュー・レフト史学修正主義学派いわゆるウィスコンシン学派なかでも大学院時代教授トーマス・J・マコーミック著作論文引用・参考文献からカミングスの強い影響受けているという。 カミングス著書朝鮮戦争論―忘れられジェノサイド』のp268で、「なかでもマリリン・ヤング、すでに故人なられたジェームス・B・バレー和田春樹には深く感謝している」と謝辞送っている和田春樹著書朝鮮戦争』で「朝鮮戦争は、南北両方内部矛盾解決するための避けられない選択」「北朝鮮計画され先制攻撃開始された『内戦』からはじまり、中国-日本-アメリカ-ソ連などが参戦することで、『国際戦』に拡大され戦争」と歴史修正主義的な解釈をしており、韓国保守派から「日本版ブルース・カミングス(일본 버전(version)의 브루스 커밍스 )」「朝鮮戦争内戦主張姜禎求主張酷似(6.25전쟁은 “內戰”, 강정구와 동일한 역사인식)」と批判されている。和田は、朝鮮戦争を「内戦から始まり中国・日本米国ソ連 などが参戦することによって国際戦へ拡大した戦争」「韓国戦争勃発したのは解放後韓半島理念的異なった南北韓国分断政府樹立されたことにともなう必然的な結果」「国連軍参戦韓国軍米軍38線を越えて進撃することで南北双方1回ずつ武力統一試みた戦争」「当時韓国李承晩政府も『武力による北進統一論』を積極的に進めた」と主張しており、『京郷新聞』は「韓国戦争南北すべての内部矛盾解決するための避けられない選択」というカミングス代表される歴史修正主義似た見解」と指摘している。ちなみに和田春樹は、朝鮮戦争は南侵(北朝鮮による韓国侵略)か北侵(韓国による北朝鮮侵略)なのかについては、「あまり本質的な問題ではない。南北双方武力統一プランはあった」と述べている。 油井大三郎は、1985年底本論文では、朝鮮戦争韓国北朝鮮侵略した「北侵」、もしくは韓国北朝鮮軍事挑発行い、それに対して北朝鮮反撃加えた「南侵誘導」を示唆しており、I.F. ストーン英語版)『秘史朝鮮戦争』とD・W・W・コンデ朝鮮戦争歴史』の説を検討すべきと主張しており、朝鮮戦争北朝鮮による侵略戦争であることを否認、「解放戦争」「統一戦争」「防衛戦争」と主張朝鮮戦争における米軍国連の介入を「干渉」「ジェノサイド」「なぜ、内戦外国軍隊が介入し国際化されたのか、が問われるべき」、北朝鮮を「革命的民族運動」と主張していたが、ソビエト連邦の崩壊後の1998年底本著書では、カミングス朝鮮戦争起源』や和田春樹朝鮮戦争』を引用・参考文献挙げて、「戦争北朝鮮による武力統一めざした内戦性格をもっていたことが明らかになっている」と主張している。 批判者 機密解除されソ連公文書から、朝鮮戦争スターリン毛沢東支持同意協力取り付けた金日成が行った侵略戦争であることが裏付けられたことから、日本韓国アメリカなどの学界ではまった認められていない韓国では「代理戦争」や「内戦」と表現するに対しては「親北」「北朝鮮侵略戦争美化している」として批判対象となっている。これについて、「統一のための内戦説」は、「彼らも世界学界ではそうした主張提起することはできないせいぜいあざわらわれるのがおちだからだ」という指摘もある。修正説 を主張している人物に対しては、「内戦ならば、北朝鮮開戦責任問われることはなく、内戦介入したアメリカ批判できる」から「学問的というよりは、政治的意図を含む研究」「その政治的な目的と動機は、あきらかであった言わざるをえない」「北朝鮮側に立ち北朝鮮弁護しようとの意図うかがえる」「価値威信失った」「日本韓国常識ではバランス逸した歴史記述」「北朝鮮国内偏向した修正主義史観支持者だけが、韓国戦争統一のための内戦というこじつけ執着している」「韓国社会でまだ北侵説や自然発生的な内戦論があるというのに驚く」「いまやカミングス修正主義80年代歴史認識越え時になっているのは明らかだ」「理論的基盤崩れた」「韓国国内一部歴史学者たちは相変わらず1980年代の古い理念フレームから脱け出せずにいる」「いわゆる進歩とされる一部勢力は、依然として『南侵か北侵か分からない』、『内戦だ』と云々し、事実受け入れない」「北朝鮮共産集団が、民族最大悪行犯したにも関わらず北朝鮮政権庇護し反共批判する勢力堂々と大手をふるう」など指弾する見解多数ある。 詳細は「ブルース・カミングス#評価」を参照

※この「修正説(内戦説、統一説、解放説、誘因説)」の解説は、「朝鮮戦争」の解説の一部です。
「修正説(内戦説、統一説、解放説、誘因説)」を含む「朝鮮戦争」の記事については、「朝鮮戦争」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「修正說」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「修正說」の関連用語

修正說のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



修正說のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの朝鮮戦争 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS