大量絶滅 オルドビス紀末

大量絶滅

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 10:15 UTC 版)

オルドビス紀末

古生代のオルドビス紀末(約4億4400万年前)に大量絶滅が発生し、それまで繁栄していた三葉虫、腕足類、ウミリンゴ、サンゴ類、筆石コノドントの大半が絶滅した。当時生息していたすべての生物種の85%が絶滅したと考えられている[注 3]

この時期、大陸は南極域にあり、短い期間であるが大陸氷河が発達した。絶滅は、氷床の発達に伴う海水準の低下時および氷河の消滅に伴う海水準の上昇時の2回確認されているが、海水準変動をもたらした環境の変化と大量絶滅との関係は不明である[3]

2005年アメリカ航空宇宙局(NASA)とカンザス大学の研究者により、近く(6000光年以内)で起こった超新星爆発によるガンマ線バーストを地球が受けたことが大量絶滅の引き金となった、という説が出されている[4]

2017年東北大学大学院などの研究チームは、火山噴火による地球寒冷化が原因とする仮説を発表した[5]

2020年中国、アメリカ、オーストラリアの研究チームは、オルドビス紀末の大量絶滅が4億4310万年前から4億4290万年前までの20万年の間に発生したとの見解を発表した。これは雲南省永善県で発見されたオルドビス紀とシルル紀地層が完全に連続している境界面を分析した成果による[6]

デボン紀後期

古生代デボン紀後期のフラスニアン期ファメニアン期の境に当たるF-F境界(約3億7400万年前)には、ダンクルオステウスなどの板皮類[注 4]甲冑魚をはじめとした多くの海生生物が絶滅している。すべての生物種の82%が絶滅したと考えられている。腕足類や魚類のデータから、高緯度より低緯度の、淡水域より海水域において絶滅率が高いことが判明している。

この時期の環境の変化として、寒冷化と海洋無酸素事変の発生が知られている。酸素および炭素同位体比のデータは、2度の寒冷化および有機物堆積、大気中の二酸化炭素の減少を示しており、これは、海水準の上昇および大量絶滅と同時に起こっている。また、海水中のストロンチウム同位体比の変動は、大陸風化の増加(気温の上昇)を示している。ベルギーおよび中国南部のF/F境界層から、小天体衝突の証拠となるスフェルールが報告されているものの、大量絶滅との関連はわかっていない[3]

ペルム紀末

顕生代における生物多様性レベル)の推移。横軸は年代を表し単位は百万年。灰色がセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が5大絶滅事件(ビッグファイブ)。2億5100万年前に位置する谷間がP-T境界、右側6550万年前の谷が恐竜が絶滅したK-T境界。P-T境界の谷は他の4回より極端に深く、しかもそれからの回復速度が遅いことがわかり、多様な生物の破滅的終局が起こったことを示している。

古生代後期のペルム紀末、P-T境界(約2億5100万年前)に地球の歴史上最大の大量絶滅[7]が起こった。海生生物のうち最大96%、すべての生物種で見ても90%から95%が絶滅した。すでに絶滅に近い状態まで数を減らしていた三葉虫はこの時に、とどめをさされる形で絶滅した[8]

この大量絶滅は化石生物の変化から実証されているが、絶滅の原因にはいくつかの仮説がある。

  1. 全世界規模で海岸線が後退した痕跡が見られ、これにより食物連鎖のバランスが崩れ、大量絶滅を引き起こしたという説がある。
  2. 巨大なマントルの上昇流である「スーパープルーム」によって発生した大規模な火山活動が、大量絶滅の原因になったという説もある。火山ガスには水蒸気二酸化炭素メタン硫黄化合物などの温室効果ガスが大量に含まれている。超大陸であるパンゲア大陸の形成が、スーパープルームを引き起こしたとされる。実際、シベリアにはシベリア・トラップと呼ばれる火山岩が広い範囲に残されており、これが当時の火山活動の痕跡と考えられている。火山活動で発生した大量の二酸化炭素は温室効果による気温の上昇を引き起こした。これによって深海のメタンハイドレートが大量に気化し、さらに温室効果が促進されるという悪循環が発生し、環境が激変したと考えられる。また、大気中に放出されたメタンと酸素が化学反応を起こし、酸素濃度が著しく低下した。このことも大量絶滅の重要な要因となった。

また、間接的な原因として、当時の陸上生態系が現在よりも不安定だった(肉食動物植物食動物の比率が危うい)ことも指摘されている[9]

約3億年前、石炭紀の後期に二酸化炭素濃度は現代の程度まで低下する。この前後、寒冷化が起きた[10]。一方で酸素濃度は地球史上最高の35%となっていた。これは植物の活動(光合成)が大きい。当時、リグニンを含む樹木は腐敗分解されず、石炭化していくのみであった。しかし、これ以降、樹木を分解できる菌類(白色腐朽菌)が登場して酸素濃度は徐々に減少に向い、逆に二酸化炭素濃度は増加に向かう。白色腐朽菌は倒木を分解でき、これにより石炭紀が終焉し、さらに大量の倒木の分解により酸素を大量に消費して二酸化炭素を増大させていった[11]。ペルム紀を通じてこの傾向は続き、P-T境界で以降の地球の低酸素環境は決定的となった。高酸素濃度下の古生代(石炭紀後期からペルム紀)に繁栄した単弓類(哺乳類型爬虫類)はP-T境界に多くが死に絶え、この時代を生き延びて三畳紀に繁栄した主竜類の中で、気嚢により低酸素環境への適応度を先に身につけていた恐竜が後の時代に繁栄していく基礎となったとされる。なお、単弓類の中で横隔膜を生じて腹式呼吸を身につけたグループは、気嚢のグループには及ばないものの低酸素時代の危機を細々と乗り越え、哺乳類の先祖となった[11]


注釈

  1. ^ 坂元志歩『徹底図解 宇宙のしくみ』(新星出版社、2006年)60頁などではビッグファイブと呼ばれている。
  2. ^ 一般に中生代において哺乳類は恐竜に比べて少数派であったような印象があるが、これは正しい認識ではない。大型動物を恐竜が占めており、陸上の生態系における上位の存在だったというのが正解である。中生代の地層から288以上の属が発見されており、アメリカ大陸およびヨーロッパ大陸においては恐竜を数的には上回っていることが確認されている。それ以外の地域では中生代における哺乳類の化石の発掘がそれほど盛んに行われていないことと、化石自体が小さく見つかりにくいため確認は取れていないが、中生代に生息していた哺乳類の種は、恐竜のそれをはるかに上回る可能性が高い[2]
  3. ^ 以下、絶滅率については、パウエル (2001) による。
  4. ^ これを生き延びた一部の種もミシシッピ紀石炭紀前期)までに、ことごとく滅んだ。
  5. ^ 魚竜はK-Pg境界よりも早い約9000万年前に絶滅したとされる。

出典

  1. ^ ウォード(2005)による。
  2. ^ 平山廉図解雑学 恐竜の謎』(ナツメ社、2002年)p144-145。
  3. ^ a b 掛川・海保 (2011)
  4. ^ Wanjek, Christopher (2005年4月6日). “Explosions in Space May Have Initiated Ancient Extinction on Earth”. NASA. 2008年6月15日閲覧。
  5. ^ 大噴火で最初の大量絶滅 4億4千万年前の地層分析”. 日本経済新聞電子版 (2017年5月11日). 2017年5月13日閲覧。
  6. ^ 地球最初の大量絶滅、期間は20万年 雲南省の地層で解明”. AFP (2020年1月6日). 2020年2月5日閲覧。
  7. ^ 史上最大の生物の大量絶滅の原因を特定 地下の炭化水素の高温燃焼が気候変動を起し大量絶滅を起こした 東北大学プレスリリース(2020年11月9日)2021年1月19日閲覧
  8. ^ 富田京一他『21世紀こども百科 宇宙館』(小学館、2001年)p142
  9. ^ Predator–prey interactions amongst Permo‐Triassic terrestrial vertebrates as a deterministic factor influencing faunal collapse and turnover(2017:J Codron)
  10. ^ 田近英一『地球環境46億年の大変動史』(株式会社化学同人、2009年5月30日、ISBN 978-4-7598-1324-1)p113ほか。
  11. ^ a b 長谷川政美『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史 僕たちの祖先を探す15億年の旅』ベレ出版〈BERET SCIENCE〉、2014年、102ほか頁。ISBN 978-4-86064-410-9 
  12. ^ Hesselbo, S.P.; Robinson, S.A.; Surlyk, F.; Piasecki, S. (2002), “Terrestrial and marine extinction at the Triassic-Jurassic boundary. synchoronized with major carbon cycle perturbation: A link to initiation of massive volcanism”, Geology 30: 251-254 .
  13. ^ McElwain, J.C.; Beerling, D.J.; Woodward, F.I. (1999), “Fossilplants and global warming at the Triassic-Jurassic boundary.”, Science 285: 1386-1390 .
  14. ^ McElwain, J.C.; Hesselbo, S.P.; Haworth, M.; Surlyk, F. (2007), “Macroecological responses of terrestrial vegetation to climatic and atmospheric change across the Triassic/Jurassic boundary in East Greenland.”, Paleobiology 33: 547-573 .
  15. ^ 「2億1500万年前に巨大隕石=木曽川地層に証拠-大絶滅の原因か・鹿児島大など」時事ドットコム(2012年11月6日6時57分配信)
  16. ^ 「2億1500万年前の巨大隕石衝突による海洋生物絶滅の証拠を発見」熊本大学海洋研究開発機構高知大学東京大学新潟大学千葉工業大学共同プレスリリース(2016年7月8日)2019年7月28日閲覧。
  17. ^ 「2億1500万年前の衝突は直径が最大で8km弱の超巨大隕石だった - 九大など」マイナビニュース(2013年9月18日)2019年7月28日閲覧。
  18. ^ 「鹿児島大など、三畳紀後期の巨大隕石衝突の世界初となる証拠を岐阜にて発見」マイナビニュース(2012年11月6日)2019年7月28日閲覧。
  19. ^ Tetsuji Onoue; Honami Sato; Daisuke Yamashita; Minoru Ikehara; Kazutaka Yasukawa; Koichiro Fujinaga; Yasuhiro Kato; Atsushi Matsuoka (2016年7月8日版). “Bolide impact triggered the Late Triassic extinction event in equatorial Panthalassa”. Scientific Reports. http://www.nature.com/articles/srep29609. 
  20. ^ 読売新聞』2011年2月5日22時8分配信 ※記事名不明
  21. ^ Douglas H. Erwin著、大野照文監訳、沼波信・一田昌宏訳『大絶滅 -2億5千年前、週末寸前まで追い詰められた地球生命の物語』(共立出版 2009年)25ページ
  22. ^ Peter Schulte; Laia Alegret, Ignacio Arenillas, Jose A. Arz, Penny J. Barton, Paul R. Bown, Timothy J. Bralower, Gail L. Christeson, Philippe Claeys, Charles S. Cockell, Gareth S. Collins, Alexander Deutsch, Tamara J. Goldin, Kazuhisa Goto, Jose M. Grajales-Nishimura, Richard A. F. Grieve, Sean P. S. Gulick, Kirk R. Johnson, Wolfgang Kiessling, Christian Koeberl, David A. Kring, Kenneth G. MacLeod, Takafumi Matsui, Jay Melosh, Alessandro Montanari, Joanna V. Morgan, Clive R. Neal, Douglas J. Nichols, Richard D. Norris, Elisabetta Pierazzo, Greg Ravizza, Mario Rebolledo-Vieyra, Wolf Uwe Reimold, Eric Robin, Tobias Salge, Robert P. Speijer, Arthur R. Sweet, Jaime Urrutia-Fucugauchi, Vivi Vajda, Michael T. Whalen, Pi S. Willumsen (2010). “The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary”. Science 327: 1214. doi:10.1126/science.1177265. 
  23. ^ 後藤和久『決着! 恐竜絶滅論争』岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2011年。ISBN 978-4-00-029586-4 
  24. ^ 「恐竜絶滅は小惑星衝突のせいではない?英研究者らが新説」BBC(2016年04月20日)
  25. ^ NATIONAL SURVEY REVEALS BIODIVERSITY CRISIS - SCIENTIFIC EXPERTS BELIEVE WE ARE IN MIDST OF FASTEST MASS EXTINCTION IN EARTH'S HISTORY”. アメリカ自然史博物館. 2007年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月12日閲覧。


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