南鳥島 生物

南鳥島

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/13 18:25 UTC 版)

生物

ヤモリ科の一種であるミナミトリシマヤモリが生息していたが、1952年以降生息が確認されておらず、個体群は消滅したと考えられている[24]。なお、標準和名にはミナミトリシマとあるがこの島の固有種ではなく、ミクロネシア方面から流木などに乗って分布を広げたものと考えられている。

人体に有害な寄生虫を持つ外来種アフリカマイマイが多数生息する。

島内の施設と交通

施設

高層気象観測のため気球にGPSゾンデを吊るして飛ばす様子

一般市民の定住者はなく、飛行場施設を管理する海上自衛隊硫黄島航空基地隊南鳥島航空派遣隊(約10名)や気象庁南鳥島気象観測所(約10名)、関東地方整備局南鳥島港湾保全管理所(3名)の職員が交代で常駐する[1][2]南鳥島航空基地があり、気象通報の観測地でもある。アマチュア局は気象庁の社団局JD1YAAがあり[25]、来島者の個人局が運用することもある。かつては海上保安庁の社団局JD1YBJもあった。

往来・補給のために1,370メートルの滑走路があり、島の一辺の方向に平行である[1]。島の南側に船の波止場があるが、浅いサンゴ礁に阻まれて大型船は接岸できないため、大型船は沖合いに停泊し、そこから船積みの小型ボートで島に荷揚げを行っている[26]。このため、2010年度より泊地及び岸壁工事が行われており、2022年度に完成予定である[27]

太平洋戦争の際に、上陸戦を想定して島を要塞化していたため、その時代の戦車大砲の残骸などが残る。アメリカ軍による空襲はあったものの、上陸・戦闘は起きなかった。かつては、アメリカ沿岸警備隊が電波航法施設ロランC局を運用していた。1993年に海上保安庁千葉ロランセンターが業務を引き継ぎ、213mのアンテナから1.8MWの送信出力でロランパルスを発射していたが、GPSの普及でロランを使用する船舶が減少したため、2009年12月1日午前に廃止された[28]

交通

南鳥島
太平洋における南鳥島の位置

島に駐在する職員の交代などのため航空自衛隊C-130Hが月に一度、海上自衛隊のC-130Rが週に一度、硫黄島を経由して食料の補給や荷物の逓送のために飛来する。海上自衛隊のUS-2や航空自衛隊のC-1が利用されることもある。交代の職員もこれらの飛行機を利用する。日本郵便株式会社が「交通困難地[29]に指定しているため、郵便番号「100-2100」(小笠原村の父島母島以外の(一覧に掲載がない)地域の番号[30])と南鳥島の住所を記載しても郵便物は届かない。これは各社宅配便も同様である。このため、郵便及び宅配便の利用はできない。

所要時間はC-130が厚木基地からの直行で約3時間半である[31]

海上自衛隊が2014年まで運用していたYS-11Mでは、厚木基地から硫黄島を経由して約7時間かかり、絶海の孤島で周囲に緊急着陸が可能な飛行場が存在せず、何らかの理由で着陸ができないと帰路に燃料不足の懸念があることから、確実に着陸可能である状況でのみ運航を行っていた[32]

作家池澤夏樹が南鳥島に行きたいと要望し、補給船に乗って1日だけ上陸して、その際の状況を「南鳥島特別航路」に書いた。

通信・放送

2014年では公衆電話手紙のみであった通信手段も、2020年時点ではソフトバンク携帯電話がどうにか使用できるようになっている。 インターネットに接続する際は携帯回線を利用しないといけない。衛星電話も利用できる[33]テレビはあるが地上波放送を受信することはできず、BS放送のみ視聴可能で、中には休暇の時にDVDを大量購入する人もいた[34][35]

希土類

日本の排他的経済水域。右端に離れた円が南鳥島周辺。
  日本単独のEEZ

  韓国との共同開発区域

  周辺国との係争区域

2012年6月28日、東京大学の加藤泰浩ら研究チームは当地付近の海底5,600メートルにおいて、日本で消費する約230年分に相当する希土類(レア・アース)を発見したと発表。日本の排他的経済水域である南鳥島沖の海底の泥に、希土類の中でも特に希少でハイブリッド車 (HV) の電動機などに使われるジスプロシウムが、国内消費量の約230年分あるという推定がなされた。これにより、掘削技術を提供している三井海洋開発と共同で深海底からの泥の回収技術の開発を目指す[36]

2013年3月21日、海洋研究開発機構と東京大学の研究チームは、深海底黒泥中には最高で中国鉱山の30倍超の高濃度希土類があることが判ったと発表。今回の調査で、同大学の加藤泰浩は「230年分以上、数百年分埋蔵している可能性がある」と話している。なお、陸上の希土類鉱山で問題になる放射性トリウムは深海底黒泥中には含まれていなかった。

世界の希土類の現在の主な輸出国である中華人民共和国は、日本による2013年の当地域の希土類に関する報道について、「我が国を煽り立て、牽制(けんせい)することが目的だった可能性がある」とした[37]アドバンストマテリアルジャパン社長の中村繁夫は、南鳥島の希土類採掘は経済合理性に欠けており、一連の報道は単なる牽制目的なのではないかと述べた[38]

経済産業省は2013年度から3年間、南鳥島周辺の排他的経済水域内において、希土類を含む海底堆積物の分布状況を調査して評価を行い、商用化に向けた技術開発も行っている[39]

2020年7月、JOGMECが南鳥島南方の排他的経済水域内の水深約930メートルにおいて世界で初めてコバルトリッチクラストの掘削試験を実施し、649キログラムを回収した。掘削試験をした拓洋第5海山平頂部には、日本の年間消費量の約88年分のコバルト、約12年分のニッケルの存在が期待されている[40]

2022年11月、中国による海洋進出や台湾への軍事侵攻などの地政学的リスクの高まり、経済安全保障の観点から、2022年度第2次補正予算案に採掘に向けた関連経費を盛り込む方針が示された。2023年度に採掘法確立に向けた技術開発に着手し、5年以内の試掘を目指す方針である。


注釈

  1. ^ 与那国島の附属岩。与那国島西崎との距離のほうがわずかに短いが、こちらとの距離も約3,139kmである。
  2. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(22.6),1964-1967(測定値なし),1968(26.7),2006(25.4),2008(25.9)」
  3. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(24.7),1964-1967(測定値なし),1968(29.2),2006(28.2),2008(28.6)」
  4. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(31.7),1964-1967(測定値なし),1968(32.6),2006(34.7),2008(33.9)」
  5. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(19.6),1956,1964-1967(測定値なし),1968(23.3),2006(20.3),2008(20.9)」
  6. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(20.8),1964-1967(測定値なし),1968(24.4),2006(23.4),2008(23.6)」
  7. ^ 以下の数値は資料不足値の未記載「1963(15.1),1956,1964-1967(測定値なし),1968(19.3),2006(16.8),2008(17.6)」
  8. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1963(25.9),1956,1964-1967(測定値なし),1968(28.3),2006(27.7),2008(27.6)」
  9. ^ 以下の数値は資料不足値の為未記載「1964~1967(記録なし),2006(75%)」

出典

  1. ^ a b c 南鳥島の概要”. 国土交通省. 2020年4月7日閲覧。
  2. ^ a b c 南鳥島気象観測所”. www.jma-net.go.jp. 気象庁. 2016年6月22日閲覧。
  3. ^ アジア歴史資料センター”. www.jacar.go.jp. 2013年3月16日10:48:04時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月5日閲覧。
  4. ^ 南鳥島 | 小笠原村公式サイト”. 2023年12月14日閲覧。
  5. ^ 平年値ダウンロード”. 気象庁. 2021年6月閲覧。
  6. ^ 観測史上1〜10位の値(年間を通じての値)”. 気象庁. 2021年6月閲覧。
  7. ^ 過去の気象データ”. 気象庁. 2023年1月2日閲覧。
  8. ^ 国土地理院広報第568号(2015年10月発行)”. 国土地理院. 2015年11月12日閲覧。
  9. ^ 南鳥島、西への移動加速 震災後年8.8センチメートルに”. 日経新聞 (2015年1月15日). 2015年9月21日閲覧。
  10. ^ アホウドリと「帝国」日本の拡大、35ページ、歴史 | 小笠原村公式サイト
  11. ^ a b c d アホウドリと「帝国」日本の拡大、36ページ
  12. ^ a b c d e f 歴史 | 小笠原村公式サイト
  13. ^ a b c アホウドリと「帝国」日本の拡大、37ページ
  14. ^ アホウドリと「帝国」日本の拡大、37-39ページ
  15. ^ アホウドリと「帝国」日本の拡大、39ページ
  16. ^ アホウドリと「帝国」日本の拡大、39-40ページ、歴史 | 小笠原村公式サイト
  17. ^ 平岡昭利 (2003). “南鳥島の領有と経営 ーアホウドリから鳥糞,リン鉱採取ヘー”. 歴史地理学 45 (4): 5-7. 
  18. ^ a b c d e f g h 平岡昭利「南鳥島の領有と経営 -アホウドリから鳥糞,リン鉱採取ヘ-」『歴史地理学』2003年9月。 
  19. ^ 『東京府統計書 昭和3年』東京府、1930、80頁。 
  20. ^ 『東京府統計書 昭和15年 第1編 土地、人口、其他』東京府、45頁。 
  21. ^ 南鳥島に電子基準点設置”. 国土地理院. 2020年4月7日閲覧。
  22. ^ 南鳥島でレアアース発見 日本は資源大国になれるのか ジェイ・キャスト
  23. ^ 南鳥島のレアアース、一部で中国の約20倍 日テレNEWS24
  24. ^ 日本国内ではその後1982年の調査で南硫黄島に生息が認められている。
  25. ^ “世界のハム仲間から殺到するラブコール 南鳥島気象庁HAMクラブ”. 朝日新聞 (朝日新聞社): p. 34. (2000年9月30日) 
  26. ^ 南鳥島における活動拠点整備事業 平成27年1月16日 国土交通省 関東地方整備局
  27. ^ 南鳥島における活動拠点整備事業 平成28年12月6日 国土交通省 関東地方整備局
  28. ^ 北西太平洋ロランCチェーンの縮小(南鳥島局の廃止)について 平成21年6月1日 海上保安庁 (PDF)
  29. ^ 交通困難地・速達取扱地域外一覧 (PDF) (日本語) 郵便事業株式会社
  30. ^ 郵便番号検索 > 東京都 > 小笠原村”. 日本郵便. 2022年4月19日閲覧。
  31. ^ 日本の最東端「南鳥島」~絶海の孤島を訪ねて,時事ドットコムニュース,2012年
  32. ^ 【宙にあこがれて】第50回 海上自衛隊クルーが語るYS-11 - おたくま経済新聞
  33. ^ 資料3 南鳥島技術開発マニュアル(案)”. 国土交通省. 2022年11月12日閲覧。
  34. ^ 一般人は絶対行けない、南の孤島硫黄島の求人 携帯・ネット不可での勤務に耐えられるのか”. J-CAST ニュース (2014年7月14日). 2022年11月12日閲覧。
  35. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2020年7月18日). “最東端で日本の海を守る自衛隊 南鳥島で見た海洋国家の現実(2/3ページ)”. 産経ニュース. 2022年11月12日閲覧。
  36. ^ “南鳥島近海にレアアース-東大・三井海洋開発、国産化にらみ技術開発”. 日刊工業新聞. (2012年7月2日). オリジナルの2012年10月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20121021222937/http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720120702eaad.html?news-t0702 2012年10月9日閲覧。 
  37. ^ 及川源十郎: “南鳥島のレアアース発見報道は「わが国を煽り、牽制のため」=中国”. サーチナ (2013年4月10日). 2013年4月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月10日閲覧。
  38. ^ 中村繁夫「 南鳥島レアアース開発は30年かけても難しい
  39. ^ 資源エネルギー庁 エネルギー白書2016 第4節 石油・天然ガス等国産資源の開発の促進
  40. ^ “世界初、コバルトリッチクラストの掘削試験に成功~海底に存在するコバルト・ニッケルの資源化を促進~”. JOGMEC. (2020年8月21日). http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_01_000162.html 






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