ユーザーエクスペリエンス
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歴史
ユーザビリティ工学やインタラクションデザイン論の発展史において、ユーザーの主観的価値を重視する必要性から「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになった[33]。
従来、インタラクティブシステムのユーザーインターフェイス設計においては「ユーザビリティ」が最も重要な指標であった。しかし、2000年ごろから産業界では消費者の主観的側面への注目が高まり、「経験経済」などの議論が盛んになってきた。そのような時代状況において、インタラクティブシステムの研究者や設計者の間にも、「ユーザビリティだけではユーザーにとっての価値を表現しきれていないのではないか」という議論が起こってきた。それを象徴するのが、認知工学やユーザビリティ研究の大家として知られていたドナルド・ノーマンが『エモーショナル・デザイン』(2004)で感性的価値の重視を訴えたことである。そのようにして「ユーザーエクスペリエンス」という概念が用いられるようになっていった。
Jesse James Garrett は2000年に発表した The Elements of User Experience: User-Centered Design for the Web [34][35] において、ユーザーエクスペリエンスの「5層モデル」を提示した。このモデルはウェブデザイン分野においてしばしば参照され、広く知られるものになった。
よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計手法においても、従来からユーザビリティ向上のために用いられていたユーザー中心設計の手法を発展させる形で整備されていった。1999年に国際標準化機構 (ISO) で ISO 13407 (インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)が制定された時点では、まだユーザーエクスペリエンスの概念は導入されていなかったが、その後2010年に同規格が ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) として改定された際には、ユーザーエクスペリエンスの概念が導入された。
2012年にはユーザビリティ専門家の国際非営利組織である Usability Professionals Association (UPA) が、 User Experience Professionals Association (UXPA) へと改称した。
注釈
- ^ 2010年には研究者・実務家30名による議論でも同様に、広く合意される定義は提示されていない: ユーザーエクスペリエンス白書
出典
- ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "経験という概念は、人間としての存在に伴っています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。...「システム」は、 個人がユーザインターフェースを通して対話する、 独立したまたは組み合わされた形態の製品・サービスおよび人工物を指す。…ux は一般的な概念としての経験の一部です。ux はシステムを通じた経験であるため、より限定的です" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁
- ^ C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究
- ^ a b c d e f Lallemand 2014.
- ^ a b Roto 2011.
- ^ hcdvalue 2011.
- ^ 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート
- ^ User experience definitions
- ^ Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"
- ^ 黒須正明 2013, p. 56.
- ^ 安藤昌也 2016.
- ^ “experienceは「体験」か「経験」か”. U-Site. 2024年2月23日閲覧。
- ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的 ux、エピソード的 ux、累積的 uxの3種類に分けられます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、 否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で ... uxデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的uxに着目する場合と、エピソード的uxやさらに長い期間のuxに着目する場合とでは異なってきます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "Anticipated UX may relate to the period before first use, or any of the three other time spans of UX, since a person may imagine a specific moment during interaction, a usage episode, or life after taking a system into use." ロト, et al. (2010). USER EXPERIENCE WHITE PAPER.
- ^ "人がシステムと対話することによって生じるuxには、幅広くさまざまな要素(factor)が影響しています。それらは3つの主なカテゴリに分類されます。 ユーザーとシステムを取り巻く文脈、ユ ーザーの状態、システムの特性です。" ロト, et al. (2010). UX白書.
- ^ "さまざまなシステム…を利用するという体験は、きわめて多岐に渡る精神的/肉体的活動を伴う。まず精神的には、本能的・感情的な反応から、高度な知的理解に至るまでの、幅広いレベルでの認知(Cognition)が生じる。一方、肉体的には、指一本で行うタップ入力や全身を使ったアクションによる操作、さらには誰かと一緒に行う共同作業までを含むような、多彩なインタラクション(Interaction)を伴うことになる。ユーザエクスペリエンス…とは、このような認知とインタラクションから成る総合的な利用体験である" 深見, et al. (2012). スキル向上のためのHTML5テクニカルレビュー.
- ^ "I found the need for a new diagram to illustrate the facets of user experience" Peter Morville. (2004). User Experience Design.
- ^ "with a little help from my friends developed the user experience honeycomb." Peter Morville. (2004). User Experience Design.
- ^ "For each of the 58 selected studies ... Altogether 42 unique UX constructs were measured ... Table 1 shows the 12 constructs with frequency higher than two." Law, et al. (2014). Attitudes towards user experience (UX) measurement. Int. J. Human-Computer Studies.
- ^ 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE
- ^ 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site、2010年6月17日
- ^ 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site、2015年6月10日
- ^ UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito
- ^ ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin
- ^ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
- ^ 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
- ^ 黒須正明 2013, pp. 55–56.
- ^ 安藤昌也 2016, p. 2.
- ^ 黒須正明 2013, pp. 22–27, 38–50, 52–56.
- ^ Garrett 2002.
- ^ Garrett 2005.
- ^ 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Siteおよび後編
- ^ "3.1.14 満足(satisfaction) システム,製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程度に関するユーザの身体的,認知的及び感情的な受け止め方。"
- ^ "満足は,実際の利用に起因するユーザエクスペリエンスがユーザのニーズ及び期待を満たしている程度を含む。" JIS Z 8521:2020
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