ユーザーエクスペリエンス 概念

ユーザーエクスペリエンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/19 01:31 UTC 版)

概念

一般的な定義

「ユーザーエクスペリエンス」という言葉は、文字どおり「利用者の経験」を意味する。小学館デジタル大辞泉[2]では、「製品・サービスを使用する際の印象や体験」と定義されている。

専門用語としての定義

専門用語(テクニカルターム)としての「ユーザーエクスペリエンス」という語については、これまでに様々な定義が試みられてきた。[3]

様々な定義の例

下記はこれまでに試みられてきた定義の一部である:

  • 製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応。 – ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) [4]
  • 企業とエンドユーザーとのインタラクションの全側面。企業のサービスや製品。模範的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、手間や面倒なしにユーザーのニーズをきちんと満足させること。次に、所有や使用を喜びとするようなシンプルさやエレガンス。真のユーザーエクスペリエンスとは、顧客が欲しいと言っているものを提供することでもなければ、チェックリストに載っているような機能を提供することでもなく、もっとはるかに優れたものである。 – Nielsen-Norman Group [5]
  • ユーザーの内的状態の帰結(性質、期待、ニーズ、同期、気分など)、設計されたシステムの特性(複雑性、目的、ユーザビリティ、機能性など)、およびインタラクションが生じる状況または環境(組織的/社会的環境、活動の有意義性、利用の自発性など)。 – Hassenzahl & Tractinsky (2006) [5]
  • 我々の感覚を喜ばせる度合い、我々が製品に与える意味(意味の経験)、引き出される感覚と感情(感性的経験)を含む、ユーザーと製品との間のインタラクションから引き出される感情の全集合 – Hekkert (2006) [5]
  • 製品やサービスとのインタラクション(あるいは予期されるインタラクション)および利用状況における脇役(時間、場所、ユーザーの性質など)から導き出される価値。 – Sward & MacArthur (2007) [5]
  • 人が特定のデザインとインタラクションするときに得る経験の質。カップ、玩具、あるいはウェブサイトなどから、美術館や空港のような、より多く統合された経験までの幅を持ちうる。 – UXnet.org [5]

ユーザーエクスペリエンス白書

2010年に研究者と実務家からなる30名の専門家が集い、ユーザーエクスペリエンスの核となる概念について議論し、その成果を『ユーザーエクスペリエンス白書』として発表した。[6][7]

その中では、

  • ユーザーエクスペリエンスは「現象としてのユーザーエクスペリエンス」「研究分野としてのユーザーエクスペリエンス」「実践としてのユーザーエクスペリエンス」という3つの視点から捉えられるということ
  • ユーザーエクスペリエンスは注目するタイムスパンによって「予期的ユーザーエクスペリエンス」「瞬間的ユーザーエクスペリエンス[8]」「エピソード的ユーザーエクスペリエンス」「累積的ユーザーエクスペリエンス」という4種類に分類できるということ
  • ユーザーエクスペリエンスに影響を与える要素は「状況[9]」「ユーザー」「システム」の主に3種類に分類できるということ

などが主張されている。

様々な定義に頻出する要素

様々な定義に渡ってしばしば登場する要素として、

  • ユーザーと外部(対象物や環境)とのインタラクション
  • ユーザーの内面で起こる心的プロセス
  • 結果としてユーザーが得る記憶や印象

などの存在を指摘できる。

批判

C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究によれば、ユーザーエクスペリエンスという概念について実践者および研究者の間で広く同意された単一の定義は存在しない。なお、研究者よりも実践者のほうが「単一の定義」を求める傾向にあるが、「多様な人々からの多様な要求を満たす単一の定義」など果たして可能なのだろうかと論文中で批判している。[5]

2010年には専門家(研究者・実務家)30名がドイツに集まりユーザーエクスペリエンスの概念について議論した。無理に定義を一本化しない方針になったため、その成果である『ユーザーエクスペリエンス白書』においても簡潔にして平易な定義は提示されていない。[6][7][10]

ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) では「ユーザービリティ」という概念の意味を拡張することで「ユーザーエクスペリエンス」と同様の意味を持たせようとしているが、それではユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念がうまく整理できていないのではないかという批判がある。[11]

「経験」という語の多義性

経験」という語には「過程としての経験」と「結果としての経験」という二つの意味が含まれており、発話者がどちらを意図しているのか曖昧である。この事情は英語の「エクスペリエンス」(en:Experience)でも同様である。

ユーザーエクスペリエンス白書』では、動名詞形 (experiencing) で「過程としての経験」を、加算名詞形 (a user experience / user experiences) で「結果としての経験」を意味するよう使い分けている。この区別によって原形 (experience) の語義の曖昧さを退けている。[6]

「経験」か「体験」か

安藤昌也は著書『UXデザインの教科書』で「経験」よりも「体験」を多用している。[12]

一方、黒須正明は「エクスペリエンス」の訳語として「経験」を選ぶ理由として、「サービスのような非持続的なもの、一回性が重要なものについては体験でもいいが、プロダクトを利用している場合のような持続的、継続的なものについては経験の方がいいと考えられる。さらにいえば、経験の方がスパンが長いから、その中には(複数の)体験が含まれている、とも考えられ、一般的な表現を考えるなら経験でいいのではないかと思われる」と説明している。[13]

ユーザーインターフェイスとの関係

ユーザーインターフェイス(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)の関係は、「原因と結果」の関係であると考えることができる。ただし、ユーザーエクスペリエンスにとっての「原因」となる要素はユーザーインターフェイス(つまり人工物)だけではなく、ほかにも「ユーザー」と「状況」という要素が影響することには注意が必要である。言い換えれば、ユーザーインターフェイスの設計だけではユーザーエクスペリエンスをデザインしたことにはならない。

ユーザビリティとの関係

黒須正明ユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念を「品質」の観点から次のように整理している。[14]

まず、設計者にとって設計時に問題になる「設計品質」と、ユーザーにとって利用時に問題になる「利用品質」を分ける。また、外的に計測可能な「客観的品質」と、内的(心理的に)しか測定できない「主観的品質」を分ける。これら2つの区分を組み合わせると、4つの品質特性領域ができる:客観的設計品質、主観的設計品質、客観的利用品質、主観的利用品質。

ユーザーインターフェイス(UI)は設計品質に関わる。一方、ユーザーエクスペリエンス(UX)は利用品質、ユーザー特性および利用状況に関わる。〔U-site 黒須教授のユーザ工学講義 設計品質と利用品質を参考に投稿者が作成〕

ユーザビリティユーザビリティテストなどの手段によって外的に測定できる客観的設計品質特性である。一方、ユーザーエクスペリエンスは、システムの属性である利用品質と、システムの属性でないユーザー特性および利用状況という3要素の組み合わせによって構成される。


  1. ^ 略は「UX」だが「User eXperience」ではなく「User Experience」と開く。
  2. ^ コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁
  3. ^ User experience definitions
  4. ^ Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"
  5. ^ a b c d e f Lallemand 2014.
  6. ^ a b c Roto 2011.
  7. ^ a b hcdvalue 2011.
  8. ^ ユーザエクスペリエンス白書においては「瞬間的ユーザーエクスペリエンス」ではなく「一時的UX」と翻訳されている。
  9. ^ ユーザエクスペリエンス白書においては「状況」ではなく「文脈」と翻訳されている。
  10. ^ 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート
  11. ^ 黒須正明 2013, p. 56.
  12. ^ 安藤昌也 2016.
  13. ^ 黒須正明、experienceは「体験」か「経験」か – U-Site、2014年9月8日
  14. ^ 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Siteおよび後編
  15. ^ 安藤昌也 人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント(2013年)
  16. ^ 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE
  17. ^ 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site、2010年6月17日
  18. ^ 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site、2015年6月10日
  19. ^ Making the Grade: Windows 95 Compliance (PC Mag、1995年9月12日)
  20. ^ New Windows Interface; Microsoft Press, Microsoft Corporation Staff; ISBN 9781556156793.
  21. ^ Windows XP Visual Guidelines - GUI_Xp.pdf
  22. ^ Windows アプリ UX デザイン ガイドライン (MSDN)
  23. ^ Windows アプリ UX デザイン ガイドライン | MSDN
  24. ^ iOSヒューマンインターフェイスガイドライン
  25. ^ UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito
  26. ^ ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin
  27. ^ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
  28. ^ 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
  29. ^ 黒須正明 2013, pp. 55–56.
  30. ^ 安藤昌也 2016, p. 2.
  31. ^ 黒須正明 2013, pp. 22–27,38–50,52–56.
  32. ^ Garrett 2002.
  33. ^ Garrett 2005.





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