ユーザーエクスペリエンス 定義

ユーザーエクスペリエンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 16:15 UTC 版)

定義

日常用語としてのユーザーエクスペリエンスは「利用者の経験」「製品・サービスを使用する際の印象や体験[4]」と定義される。

専門用語としてのユーザーエクスペリエンスには広く合意された定義が存在しない[5][6][注 1][7][8][9]。大まかな共通認識として、「ユーザーと外部(対象物や環境)とのインタラクション」により「ユーザーの内面で心的プロセスが発生」し「結果としてユーザーが得る記憶や印象」がユーザーエクスペリエンスとされる。

専門用語定義例

下記はこれまでに試みられてきた定義の一部である[10]

  • 製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応。 – ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) [11]
  • 企業とエンドユーザーとのインタラクションの全側面。企業のサービスや製品。模範的なユーザーエクスペリエンスの第一要件は、手間や面倒なしにユーザーのニーズをきちんと満足させること。次に、所有や使用を喜びとするようなシンプルさやエレガンス。真のユーザーエクスペリエンスとは、顧客が欲しいと言っているものを提供することでもなければ、チェックリストに載っているような機能を提供することでもなく、もっとはるかに優れたものである。 – Nielsen-Norman Group [6]
  • ユーザーの内的状態の帰結(性質、期待、ニーズ、同期、気分など)、設計されたシステムの特性(複雑性、目的、ユーザビリティ、機能性など)、およびインタラクションが生じる状況または環境(組織的/社会的環境、活動の有意義性、利用の自発性など)。 – Hassenzahl & Tractinsky (2006) [6]
  • 我々の感覚を喜ばせる度合い、我々が製品に与える意味(意味の経験)、引き出される感覚と感情(感性的経験)を含む、ユーザーと製品との間のインタラクションから引き出される感情の全集合 – Hekkert (2006) [6]
  • 製品やサービスとのインタラクション(あるいは予期されるインタラクション)および利用状況における脇役(時間、場所、ユーザーの性質など)から導き出される価値。 – Sward & MacArthur (2007) [6]
  • 人が特定のデザインとインタラクションするときに得る経験の質。カップ、玩具、あるいはウェブサイトなどから、美術館や空港のような、より多く統合された経験までの幅を持ちうる。 – UXnet.org [6]

批判

ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) では「ユーザービリティ」という概念の意味を拡張することで「ユーザーエクスペリエンス」と同様の意味を持たせようとしているが、それではユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの概念がうまく整理できていないのではないかという批判がある[12]

「経験」という語の多義性

経験」という語には「過程としての経験」と「結果としての経験」という二つの意味が含まれており、発話者がどちらを意図しているのか曖昧である。この事情は英語の「エクスペリエンス」(en:Experience)でも同様である。前者を動名詞形 (experiencing) で、後者を加算名詞形 (a user experience) で表現し、原形 (experience) の語義の曖昧さを退ける場合もある[7]

日本語訳

「エクスペリエンス」の日本語訳には「経験」あるいは「体験」が用いられる。

安藤昌也は著書『UXデザインの教科書』で「経験」よりも「体験」を多用している[13]。一方、黒須正明は「エクスペリエンス」の訳語として「経験」を選ぶ理由として、「サービスのような非持続的なもの、一回性が重要なものについては体験でもいいが、プロダクトを利用している場合のような持続的、継続的なものについては経験の方がいいと考えられる。さらにいえば、経験の方がスパンが長いから、その中には(複数の)体験が含まれている、とも考えられ、一般的な表現を考えるなら経験でいいのではないかと思われる」と説明している[14]


注釈

  1. ^ 2010年には研究者・実務家30名による議論でも同様に、広く合意される定義は提示されていない: ユーザーエクスペリエンス白書

出典

  1. ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  2. ^ "経験という概念は、人間としての存在に伴っています。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  3. ^ "ux は...システムと出会うことに由来する経験を明確に示しています。...「システム」は、 個人がユーザインターフェースを通して対話する、 独立したまたは組み合わされた形態の製品・サービスおよび人工物を指す。…ux は一般的な概念としての経験の一部です。ux はシステムを通じた経験であるため、より限定的です" ロト, et al. (2010). UX白書.
  4. ^ コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁
  5. ^ C. ラレマンドらが2015年に35カ国758人を対象として行った研究
  6. ^ a b c d e f Lallemand 2014.
  7. ^ a b Roto 2011.
  8. ^ hcdvalue 2011.
  9. ^ 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート
  10. ^ User experience definitions
  11. ^ Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"
  12. ^ 黒須正明 2013, p. 56.
  13. ^ 安藤昌也 2016.
  14. ^ experienceは「体験」か「経験」か”. U-Site. 2024年2月23日閲覧。
  15. ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的 ux、エピソード的 ux、累積的 uxの3種類に分けられます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  16. ^ "例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、 否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  17. ^ "対象とする期間を明確にすることが重要で ... uxデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的uxに着目する場合と、エピソード的uxやさらに長い期間のuxに着目する場合とでは異なってきます。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  18. ^ "Anticipated UX may relate to the period before first use, or any of the three other time spans of UX, since a person may imagine a specific moment during interaction, a usage episode, or life after taking a system into use." ロト, et al. (2010). USER EXPERIENCE WHITE PAPER.
  19. ^ "人がシステムと対話することによって生じるuxには、幅広くさまざまな要素(factor)が影響しています。それらは3つの主なカテゴリに分類されます。 ユーザーとシステムを取り巻く文脈、ユ ーザーの状態、システムの特性です。" ロト, et al. (2010). UX白書.
  20. ^ "さまざまなシステム…を利用するという体験は、きわめて多岐に渡る精神的/肉体的活動を伴う。まず精神的には、本能的・感情的な反応から、高度な知的理解に至るまでの、幅広いレベルでの認知(Cognition)が生じる。一方、肉体的には、指一本で行うタップ入力や全身を使ったアクションによる操作、さらには誰かと一緒に行う共同作業までを含むような、多彩なインタラクション(Interaction)を伴うことになる。ユーザエクスペリエンス…とは、このような認知とインタラクションから成る総合的な利用体験である" 深見, et al. (2012). スキル向上のためのHTML5テクニカルレビュー.
  21. ^ "I found the need for a new diagram to illustrate the facets of user experience" Peter Morville. (2004). User Experience Design.
  22. ^ "with a little help from my friends developed the user experience honeycomb." Peter Morville. (2004). User Experience Design.
  23. ^ "For each of the 58 selected studies ... Altogether 42 unique UX constructs were measured ... Table 1 shows the 12 constructs with frequency higher than two." Law, et al. (2014). Attitudes towards user experience (UX) measurement. Int. J. Human-Computer Studies.
  24. ^ 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE
  25. ^ 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site、2010年6月17日
  26. ^ 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site、2015年6月10日
  27. ^ UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito
  28. ^ ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin
  29. ^ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
  30. ^ 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
  31. ^ 黒須正明 2013, pp. 55–56.
  32. ^ 安藤昌也 2016, p. 2.
  33. ^ 黒須正明 2013, pp. 22–27, 38–50, 52–56.
  34. ^ Garrett 2002.
  35. ^ Garrett 2005.
  36. ^ 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Siteおよび後編
  37. ^ "3.1.14 満足(satisfaction) システム,製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程度に関するユーザの身体的,認知的及び感情的な受け止め方。"
  38. ^ "満足は,実際の利用に起因するユーザエクスペリエンスがユーザのニーズ及び期待を満たしている程度を含む。" JIS Z 8521:2020





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