ユーザーエクスペリエンス ユーザーエクスペリエンスのデザイン

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ユーザーエクスペリエンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/19 01:31 UTC 版)

ユーザーエクスペリエンスのデザイン

「ユーザーエクスペリエンスデザイン」「UXデザイン」「UX設計」などの語は、「よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計」を意味し、実務的には「ユーザー中心設計 (UCD) 」あるいは「人間中心設計 (HCD) 」とほぼ同義である。つまり、「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」という固有のデザイン分野があるとはみなされていない。というのも、2010年の ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) において、「人間中心設計プロセスを実施する目的はよいユーザーエクスペリエンスの達成である」という考え方が示され、それがある程度受け入れられているからである。〔※歴史を参照のこと〕。

デザインプロセス

ISO 9241-210:2010 (インタラクティブシステムの人間中心設計) によれば、よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計プロセスは、

  1. 人間中心デザインプロセスの計画
  2. 利用状況の理解と明示(※アンケートやインタビューなどが用いられる)
  3. ユーザーの要求事項の明示(※ペルソナなどが用いられる)
  4. ユーザーの要求事項を満たす設計による解決策の作成(※絵コンテやワイヤフレームなどを用いて具体的な設計案が作られる)
  5. 要求事項に対する設計の評価(※ユーザビリティテストフィールドワークなどが用いられる)
  6. 以上2〜5の工程を、ユーザーの要求事項を満たす設計解決策が得られるまで繰り返す

という反復型アプローチである[15]。〔※インタラクションデザインプロトタイピングも参照のこと〕

ユーザーエクスペリエンスの評価

ユーザーエクスペリエンスは、人工物の品質特性だけでなく、ユーザー特性や利用状況にも左右される。したがって、実際の利用状況とは異なり実験室等で実施されるユーザビリティテストでは、ユーザーエクスペリエンスの評価手法にならない。[16]

例えば、あるユーザーが自身で代金を負担して購入したうえで製品を利用する場合と、テストモニターとして実験室に招聘されて無料で試用する場合とでは、「うれしさ」「好ましさ」「反復利用への意欲」などの主観的利用品質が異なる、つまりユーザーエクスペリエンスが異なると考えられる。

また、「自宅の不用品を片付けるアプリ」のユーザーエクスペリエンスを評価するには、実験室にいながら自宅の様子を想像しながらアプリを利用するという経験を測定・評価するよりも、実際に自宅で不用品を探しながらアプリを利用する経験を測定・評価するほうが、より実際の利用状況におけるユーザーエクスペリエンスを評価していることになる。

ユーザーエクスペリエンスを実際の利用状況において測定・評価するための手法として、民族誌(エスノグラフィー)や文化人類学におけるフィールドワークの手法が取り入れられ、実践されている。例えば、

  • フライ・オン・ザ・ウォール:調査対象者の行動に関与せず極力客観的に観察する手法
  • シャドウイング:調査対象者の「影」のように寄り添い追跡することで、調査対象者の体験を追体験しようとする手法
  • 参与観察:調査者もその場に参加し、調査対象者と一緒に事物を経験する

といった観察法が実践されている。

長期的なモニタリングと評価

ユーザーエクスペリエンスの評価には長期的なモニタリングが必要だと指摘する専門家もいる[17]ユーザーエクスペリエンス白書で「エピソード的・累積的ユーザーエクスペリエンス」の観点が指摘されているように、ユーザーエクスペリエンスという概念は、長期にわたる利用や回顧を通じてユーザーの内面において形成された印象も含む。

また、長期的な(累積的な)ユーザーエクスペリエンスを、ユーザー本人ではない専門家が推察して評価することには、ほとんど何の正当性もない。長期的なユーザーエクスペリエンスの評価においては、実際のユーザーを対象とした評価の実施が不可欠である[18]

なお、ここでいう「長期」がどれほどの期間を指すのかは、対象とする人工物の「典型的な利用期間」によって異なる。数ヶ月、あるいは年単位になることもある。

長期的なユーザーエクスペリエンスの評価手法としては、

  • 回顧的評価: ユーザーに購入前から現在に至るまでの出来事と、それについての印象を語ってもらい、それを分析する手法
  • ロギング: ユーザーに対して侵襲的にならないよう行動データを収集し、それを分析する手法
  • ネット・プロモーター・スコア(NPS): 「この会社(あるいは製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問への11段階尺度の回答を用いる定量的評価手法

などがある。

基礎付け

ユーザーエクスペリエンスデザインの基礎となる関連分野として、以下のものが上げられる:

主なデザイン対象分野 

ユーザーエクスペリエンスデザインが実践される主な分野は次の通りである:

デザインシステム

一貫したユーザーエクスペリエンスを提供すること、プロダクトやサービスを提供するためのフレームワークとして独自のデザインシステムを構築・運用する場合がある。デザインシステムは外部に公開されている場合、されていない場合があるが、そのあり方は多様である。

以下はその著名な例である。

Microsoft Windows

Windows 95 Compliance

Windows 95対応アプリケーション製品のパッケージにWindowsロゴの掲載許諾を得る条件として、アプリケーションの設計がこのガイドラインに準拠することを求められた[19]。Windows 95/Windows NT対応のインターフェイスガイドラインに関するマイクロソフト公式書籍もある[20]

Windows XP Visual Guidelines[21]

Windows XPビジュアルテーマのデザインガイドライン。Lunaも参照。

Windows ユーザー エクスペリエンス ガイドライン[22]

Windows VistaおよびWindows 7対応デスクトップアプリケーションのデザインガイドライン。

Windows アプリ UX デザイン ガイドライン[23]

Windows 8/8.1、Windows 10向けのWindowsストアアプリ (UWPアプリ) に関するデザインガイドライン。

マテリアルデザイン

Google社が開発したデザインガイドラインおよびライブラリで、Androidおよびその上で動作するアプリケーションなどの製品に用いられている。

iOSヒューマンインターフェイスガイドライン[24]

アップルが開発したデザインガイドラインで、iOSおよびその上で動作するアプリケーションなどの製品に用いられている。

ユーザーの多様性とアクセシビリティ

よいユーザーエクスペリエンスを達成するための設計プロセスにおいては、ペルソナ手法のように具体的な想定ユーザー像を設定することが多い。なぜなら、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素に「ユーザー特性」があるため、ユーザー像を具体的に十分理解することによって主観的利用品質をよりよく測定・評価でき、ひいては、よりよいユーザーエクスペリエンスを達成しうると考えられるからである。

しかし、そのような「具体的なユーザーを想定した設計」が、一方では「誰でも利用できる設計」の実現から設計者の意識を遠ざけてしまっているのではないかと指摘する専門家もいる。つまり、よいユーザーエクスペリエンスを達成しようと「具体的な想定ユーザー像」を重視する設計アプローチが行き過ぎた結果、「あらゆるユーザーが利用できること」という意味のアクセシビリティは軽視されているのではないかという指摘である。

しばしば「想定外のユーザー」として無視・軽視されやすいのが、いわゆる障害者である。産業界では(しばしば無自覚に・暗黙的に)市場の多数派である健常者を想定して製品の設計を「最適化」しがちだが、その結果として、ある種の障害者にとっては「そもそも利用できない」ような設計になってしまう場合があると指摘される。「想定ユーザー」の経験を重視するあまり、「想定外ユーザー」の経験が無視されているということである。

アメリカ合衆国では、2001年6月25日に施行されたリハビリテーション法第508条によって、連邦政府機関の電子技術や情報技術を身体障害を持つ人でも利用できるようアクセシビリティを確保することが義務付けられている。日本でも、2016年4月1日より障害者差別解消法が施行され、障害者が不利益を被らないようにする合理的配慮が行政機関等に義務付けられている。また、日本を含む先進各国で高齢化が進むなか、視力聴力、その他の身体能力認知能力などにおいて、いわゆる「成人健常者」の範疇から逸脱するユーザーの比率は高まっていくことになる。このような社会の要請に応えるため、ユーザーエクスペリエンスだけでなくアクセシビリティにも配慮した設計が必要だと指摘されている[25][26][27][28]

「ユーザーエクスペリエンスのデザイン」に関する複数の観点

「デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできるのだろうか」という論点がある。

「デザインできない」という立場

黒須正明によれば、デザイナーはユーザーエクスペリエンスそのものに関わることはできない。言い換えれば、ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできない[29]

それはなぜかといえば、ユーザーエクスペリエンスに影響する3要素(状況、ユーザー、システム)のうち、デザイナーが設計できるのはシステムに限られるからである。状況とユーザーはデザイナーがコントロールできない。デザイナーは、ユーザーのありようをコントロールできないし、ユーザーの利用状況も(多少はできても、決定的には)コントロールしきれないからである。

デザイナーにできることは、ユーザーエクスペリエンスに影響する要素のうちの1つである「システム」(人工物)を、意図的に設計することだけである。例えば、システム特性としてのユーザビリティを高めるようにユーザーインターフェイスを設計することで、ユーザーエクスペリエンスが向上するだろうと期待することはできる。

しかし、どれだけ注意深く設計されたシステムでも、よいユーザーエクスペリエンスを約束することはできない。デザイナーの想定外のユーザーや、想定外の利用状況においては、よかれと意図された設計が裏目に出ることもあるからである。〔※ユーザーの多様性とアクセシビリティを参照のこと〕

「デザインできる」という立場

安藤昌也によれば、「ユーザーがうれしいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験(UX)を目標にしてデザインしていく取り組みとその方法論をUXデザインと呼ぶ」のであり、ユーザーエクスペリエンスそのものをデザインすることはできる[30]


  1. ^ 略は「UX」だが「User eXperience」ではなく「User Experience」と開く。
  2. ^ コトバンク、デジタル大辞泉、ユーザー‐エクスペリエンス(user experience)の頁
  3. ^ User experience definitions
  4. ^ Terms and definitions (ISO 9241-210:2010) "person's perceptions and responses resulting from the use and/or anticipated use of product, system or service"
  5. ^ a b c d e f Lallemand 2014.
  6. ^ a b c Roto 2011.
  7. ^ a b hcdvalue 2011.
  8. ^ ユーザエクスペリエンス白書においては「瞬間的ユーザーエクスペリエンス」ではなく「一時的UX」と翻訳されている。
  9. ^ ユーザエクスペリエンス白書においては「状況」ではなく「文脈」と翻訳されている。
  10. ^ 「UX白書カンファレンス」で講演しました|安藤研究室ノート
  11. ^ 黒須正明 2013, p. 56.
  12. ^ 安藤昌也 2016.
  13. ^ 黒須正明、experienceは「体験」か「経験」か – U-Site、2014年9月8日
  14. ^ 黒須正明、設計品質と利用品質(前編) – U-Siteおよび後編
  15. ^ 安藤昌也 人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント(2013年)
  16. ^ 国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第一回「UXへの大いなる誤解」 | KUSANAGI MAGAZINE
  17. ^ 黒須正明、UXと言えるのは長期的モニタリングをしてから後の話だ – U-Site、2010年6月17日
  18. ^ 黒須正明、UXの、3つのキーポイント – U-Site、2015年6月10日
  19. ^ Making the Grade: Windows 95 Compliance (PC Mag、1995年9月12日)
  20. ^ New Windows Interface; Microsoft Press, Microsoft Corporation Staff; ISBN 9781556156793.
  21. ^ Windows XP Visual Guidelines - GUI_Xp.pdf
  22. ^ Windows アプリ UX デザイン ガイドライン (MSDN)
  23. ^ Windows アプリ UX デザイン ガイドライン | MSDN
  24. ^ iOSヒューマンインターフェイスガイドライン
  25. ^ UX界隈(何処)におけるアクセシビリティの耐えられない軽さ | 覚え書き | @kazuhito
  26. ^ ユーザビリティとアクセシビリティの統合:UXのプロなら誰でも知っておくべきこと User Experience Magazin
  27. ^ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
  28. ^ 『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
  29. ^ 黒須正明 2013, pp. 55–56.
  30. ^ 安藤昌也 2016, p. 2.
  31. ^ 黒須正明 2013, pp. 22–27,38–50,52–56.
  32. ^ Garrett 2002.
  33. ^ Garrett 2005.


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