autogynephiliaとは? わかりやすく解説

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オートガイネフィリア

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/04/01 04:06 UTC 版)

ブランチャードの性転換症類型論英語版 > オートガイネフィリア

オートガイネフィリア英語: autogynephilia)とは、レイ・ブランチャード英語版が当時の概念である性転換症[注釈 1]の分類において定義した用語である[1]。男性が、自身を女性だと想像すること、または、女装行為自体、女装中に「女性」として男性と肉体関係を持つこと、そして、これらのような各種「女性化」によって性的興奮する性的倒錯とみなした。

日本語では自己女性化性愛症もしくは自己女性化偏愛性倒錯症(略称AG、AGP)と呼ばれる[2][3]

診断

オートガイネフィリアは性科学者のレイ・ブランチャード英語版が提唱した概念であり、診断可能な疾病としては扱われておらず、診断基準もない。

WHOによる疾病分類であるICD-10においてはパラフィリア症(ICD-10以前は性的嗜好障害)として「フェティシズム的服装倒錯症英語: Fetishistic transvestism)」という分類が存在したが、ICD-11では削除されている[4]。これは、当該の状態がICDが精神疾患に要求する「苦痛や機能障害を伴うもの」ではなく、「個人的な機能障害を伴わない社会的逸脱または葛藤だけのものは精神疾患に含めない」というICDの方針に合致しないものであったためである[4][5]

DSM-5DSM-5-TRにおいては異性装症(英語: Transvestic disorder)の診断における関連因子としてオートガイネフィリアが言及されている[6]。DSM-5のパラフィリア症における作業部会はブランチャードが議長を務めており、当初はオートガイネフィリアとオートアンドロフィリア(自己男性化愛好症)が特定因子に含まれた。これについて、これらの概念には実証的な根拠とコンセンサスが欠如しているとして世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会英語版によって反対意見が呈され[7]、審議の結果、オートアンドロフィリアのほうだけ最終草稿で除外された。

歴史

1989年にカナダの性科学者のレイ・ブランチャード英語版によって定義された。語源はギリシャ語αὐτός(自分)とγυνή(女性)と φιλία(愛)、すなわち「女性としての自分を愛する」という意味である。

男性からの性別移行を行った者に対する行動モデルの一つで、Blanchard, Bailey, and Lawrence theory英語版により非公式に分類されている。この理論は、非同性愛の性別移行者(トランス女性、男性から女性への性別移行者(MtF))が男性だけでなく、レズビアン両性愛なトランス女性にまで性的に惹かれるような性的魅力が出現する理由を説明するためのモデルで[8]、それによると、男性に興味を持たない(MtF)性別移行者(ブランチャードによれば「性不感症の男性」[9])は自己イメージを女性的に持ち装うことに性的に昂ぶる。

レイ・ブランチャードはこのような現象を性別違和症候群(gender dysphoria)[注釈 2]性同一性障害(gender identity disorder)[注釈 3]と称し、パラフィリアと捉え、さらに「非同性愛性転換(nonhomosexual transsexuals)」または「自己女性愛性転換(autogynephilic transsexuals)」に分類し、男性にだけ惹かれるトランス女性は 「男性愛(androphilic)」、ないし 「同性愛性転換(homosexual transsexuals)」と呼んだ。また、性欲はあるが他人に性的欲求が向かない人として「無性愛者(analloerotic)」にも言及した。

レイ・ブランチャードは1990年代を通じてオートガイネフィリアに関する論文を専門誌に発表し続けたが、政治的な理由もあって主流の性科学者、心理学者からはほとんど言及されなかった[10]。しかし一部では強い関心を惹き、日本では精神科医の針間克己が1998年に紹介をおこなった[11]

レイ・ブランチャードのオートガイネフィリア理論が初めて世間の注目を集めたのは、2003年、アメリカの心理学者、行動遺伝学者のJ・マイケル・ベイリー英語版による『The Man Who Would Be Queen: The Science of Gender-Bending and Transsexualism英語版』という書籍の出版後だった[10](レイ・ブランチャードとJ・マイケル・ベイリーは共に「ヒューマン・バイオダイバーシティ研究所」のメンバーだった[10])。この書籍はトランスコミュニティと性科学専門家の一部から批判され[10][12][13]、キャンセルカルチャーの的になったJ・マイケル・ベイリー博士はノースウェスタン大学の心理学部長を退任した。この事件の詳細は科学史家アリス・ドレガーによる『ガリレオの中指――科学的研究とポリティクスが衝突するとき』(鈴木光太郎訳、みすず書房、2022)に詳しい。

一方、2013年、アメリカの医師・性科学者・心理療法士のアン・A・ローレンス英語版は、300人以上の当事者体験談を分析した著書『Men Trapped in Men's Bodies: Narratives of Autogynephilic Transsexualism英語版』で、オートガイネフィリア理論の普遍性を実証。単なる性癖ではなく性的指向に近いものと説明し、レイ・ブランチャードからも「決定版」と絶賛された。オートガイネフィリアの概念を知ったことで「目から鱗が落ちた」と性別移行に踏み切ったアン・A・ローレンスに限らず、オートガイネフィリア理論によって「自分が何者かがわかった」と語る当事者は少なくない。しかし「男性の身体にとじこめられた女性たち」というMtfトランスジェンダーの一般的な比喩を「男性の体にとじこめられた男性たち」ともじったタイトルのこの本は、トランスコミュニティの一部からは反発されている[14]

オートガイネフィリアの概念は反トランスジェンダーの活動家によってトランス女性を否定するために用いられることもある[10][15][16][17]。例えば、『トランスジェンダーになりたい少女たち』(監訳・岩波明、産経新聞出版、2024年)といった反トランスジェンダーの書籍がオートガイネフィリアに言及している[10]。2010年代にはレイ・ブランチャード自身も過激化したLGBT活動家から距離をおくようになった[18][19]

脚注

注釈

  1. ^ 「性転換症」という言葉は現在は使われず、「性別不合」と呼ばれ、精神疾患としては扱われていない。
  2. ^ 「性別違和症候群」という言葉は現在は使われず、「性別不合」と呼ばれ、精神疾患としては扱われていない。
  3. ^ 「性同一性障害」という言葉は現在は使われず、「性別不合」と呼ばれ、精神疾患としては扱われていない。

出典

  1. ^ Blanchard R (1989). The Concept of Autogynephilia and the Typology of Male Gender Dysphoria. en:Journal of Nervous and Mental Disease, 177 (10), 616–623. Retrieved 9 January 2005
  2. ^ 「女性なるもの」への強い憧れ【後編】”. LGBTER|エルジービーター. 2023年2月19日閲覧。
  3. ^ AG(オートガイネフィリア)、自己女性化愛好症って知ってる?本来の意味と実際の使われ方”. 乙女塾. 2023年2月19日閲覧。
  4. ^ a b ICD-11 「精神,行動神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ:各論 10 パラフィリア症群・作為症群”. 2024年10月5日閲覧。
  5. ^ Reed, Geoffrey M.; Drescher, Jack; Krueger, Richard B.; Atalla, Elham; Cochran, Susan D.; First, Michael B.; Cohen‐Kettenis, Peggy T.; Arango‐de Montis, Iván et al. (2016-10). “Disorders related to sexuality and gender identity in the ICD‐11: revising the ICD‐10 classification based on current scientific evidence, best clinical practices, and human rights considerations”. World Psychiatry 15 (3): 205–221. doi:10.1002/wps.20354. ISSN 1723-8617. PMC 5032510. PMID 27717275. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5032510/. 
  6. ^ DIAGNOSTIC AND STATISTICAL MANUAL OF MENTAL DISORDERS FIFTH EDITION TEXT REVISION DSM-5-TR™”. p. 1060. 2024年10月5日閲覧。
  7. ^ “Should Transvestic Fetishism Be Classified in DSM 5? Recommendations from the WPATH Consensus Process for Revision of the Diagnosis of Transvestic Fetishism”. International Journal of Transgenderism 12 (4): 189–197. (2011). doi:10.1080/15532739.2010.550766. 
  8. ^ Blanchard, Ray (1989). The Classification and Labeling of Non-homosexual Gender Dysphorias. en:Archives of Sexual Behavior, 18 (4), 315–334
  9. ^ Blanchard R (1995). Comparison of height and weight in homosexual versus nonhomosexual male gender dysphorics. en:Archives of Sexual Behavior 1995 Oct;24(5):543-54.
  10. ^ a b c d e f Autogynephilia”. Trans Data Library (2023年10月2日). 2024年11月8日閲覧。
  11. ^ 針間克己 (2021年6月16日). “トランスジェンダーに、偏った性嗜好である「オートガイネフィリア」は含まれるのか”. wezzy. 2023年5月18日閲覧。
  12. ^ Why ‘rapid-onset gender dysphoria’ is bad science”. The Conversation (2018年3月22日). 2024年11月8日閲覧。
  13. ^ “Autogynephilia” critics”. Transgender Map. 2024年11月8日閲覧。
  14. ^ A.A.Lawrence (2013年). ““Men Trapped in Men's Bodies: Narratives of Autogynephilic Transsexualism” critics”. Springer. 2026年3月28日閲覧。
  15. ^ Five lies TERFs tell about the trans community – debunked”. PinkNews (2023年11月13日). 2024年11月8日閲覧。
  16. ^ Julia Serano (2020). “Autogynephilia: A scientific review, feminist analysis, and alternative ‘embodiment fantasies’ model”. Sociological Review 68 (4): 763-778. https://www.researchgate.net/publication/343552498_Autogynephilia_A_scientific_review_feminist_analysis_and_alternative_%27embodiment_fantasies%27_model 2024年11月8日閲覧。. 
  17. ^ The making of a detransitioner”. Xtra Magazine (2023年3月15日). 2024年11月8日閲覧。
  18. ^ Foundations of Contemporary Anti-LGBTQ+ Pseudoscience”. Southern Poverty Law Center (2023年12月12日). 2024年11月8日閲覧。
  19. ^ “Conspiratorial” and “biased” doctors will argue against gender-affirming care to the Supreme Court”. LGBTQ Nation (2024年11月21日). 2024年11月28日閲覧。

関連項目




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