東京都交通局E5000形電気機関車
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東京都交通局E5000形電気機関車 | |
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E5000形
(2006年10月28日 馬込車両検修場) |
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基本情報 | |
運用者 | 東京都交通局 |
製造所 | 川崎重工業 |
製造年 | 2005年(平成17年)3月[* 1] |
製造数 | 4両(2両永久連結×2本) |
運用開始 | 2006年(平成18年)4月1日 |
投入先 | 馬込車両検修場(都営地下鉄浅草線)[* 2] |
主要諸元 | |
編成 | 2両編成 |
軸配置 | Bo′Bo′+Bo′Bo′ |
軌間 | 1,435 mm(標準軌) |
電気方式 | 直流1,500 V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 70 km/h |
起動加速度 | 2.0 km/h/s |
減速度(常用) | 単独走行時 4.0 km/h/s 牽引走行時 3.5 km/h/s |
減速度(非常) | 4.5 km/h/s |
車両重量 | 41.8 t×2 |
全長 | 12,500 mm(連結面間)[1] |
車体長 | 11,850 mm[1] |
全幅 | 2,470 mm(最大幅)[1] |
車体幅 | 2,250 mm(上部車体幅)[1] |
全高 | 3,145 mm(パンタグラフ折りたたみ)[1] |
車体高 | 3,125 mm[1] |
床面高さ | 1,150 mm[1] |
車体 | 普通鋼 |
台車 | 軸梁式ボルスタレス台車 T-1Da形・T-1Db形[2] |
車輪径 | 860 mm |
固定軸距 | 2,100 mm |
主電動機 | かご形三相誘導電動機 |
主電動機出力 | 190 kW[3] |
駆動方式 | WN平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 101:15(6.733) |
制御方式 | IGBT素子VVVFインバータ制御 |
制動装置 | 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ 保安ブレーキ、駐車ブレーキ |
保安装置 | C-ATS・新CS-ATC |
備考 |
出典[4] |
東京都交通局E5000形電気機関車(とうきょうとこうつうきょくE5000がたでんききかんしゃ)は、2006年(平成18年)4月1日より運用を開始した、東京都交通局(都営地下鉄)の事業用電気機関車。
概要
製造の経緯
大江戸線について、当初は車両(12-000形)の重要部検査・全般検査を志村車両工場光が丘検修所(現:木場車両検修場高松車庫)で行っていたが、その設備は手狭であった。環状部区間の開業に際しては木場車両検修場が建設され、工場設備も同所に移転することを計画していたが[5]、建設費用が嵩むことや、大江戸線と同一の軌間(標準軌:1,435mm)と電化方式(架空電車線方式)を有する浅草線において馬込車両検修場の改修が予定されていたことにより、大江戸線車両の検修も同所で行う方針となった。
しかし、大江戸線と浅草線では走行方式が全く異なり(大江戸線が鉄輪式リニアモーター駆動、浅草線が通常の回転式電気モーター駆動)[3]、大江戸線の車両は軌道側にリアクションプレートがない浅草線内を自走できない[6]。また大江戸線はいわゆるミニ地下鉄としてリニアモーター駆動の採用により車両規格(車両限界)が小型化されているため、逆に浅草線の一般車両が大江戸線へ乗り入れることもできない。そのため、大江戸線と浅草線の両線を走行できる牽引用の電気機関車として製造されたのが本形式である。なお大江戸線内を回転式電気モーターの車両が走行すること自体は可能であるため、リニアモーターによる駆動装置は備えていない。
蛇足ではあるが、大江戸線と浅草線は構造の違いもあり従来は直接繋がっていなかったため、これにあわせて「汐留連絡線」と称する連絡線が建設された[5]。この連絡線は単線箱型トンネル構造で延長は483 m、途中には半径80 mの曲線や約48‰の勾配がある。大江戸線汐留駅を起点とし、JR横須賀線東京トンネル直上、環状2号線道路、東海道新幹線、東海道本線(東海道線・山手線・京浜東北線)の直下を横断し、浅草線大門 - 新橋間を終点とする。2006年(平成18年)4月1日に完成し、使用を開始している。
車両搬入と運用まで
2005年3月に2編成(4両)が川崎重工業車両カンパニーで落成し、JR線を経由した甲種輸送、トレーラーによる陸送などを経て馬込車両検修場・木場車両検修場(高松車庫)からそれぞれ搬入された。東京都地下鉄建設が発注し、落成後に東京都交通局に譲渡するという形をとった。
その後は搬入された浅草線、大江戸線において深夜に性能試験や5300形や12-000形との併結訓練を実施した。そして、E5003 - E5004は2006年(平成18年)1月20日終電後に高松車庫(光が丘駅)から汐留連絡線を経由して馬込車両検修場まで自力回送された[7]。その後は2006年3月末まで12-000形連結試験や各種訓練を行い、2006年(平成18年)4月1日に入籍し、本形式の本格的な運用を開始した。
車両概説
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車体
車体は普通鋼製、車体塗色はストロベリーレッドで、これは浅草線・大江戸線のラインカラーの中間の色に合わせたもの[6]。車体側面は搭載機器の点検用にステンレスの全面開き戸になっている。車体断面は浅草線より小さい大江戸線の車両限界に合わせてあり、車両限界を有効活用するために屋根肩部を直線状とし、また機能性を重視して直線的な車体形状としている。前照灯・尾灯は窓下部に配置し、上部には事業用車ながら急行灯が設置されている。
汐留駅引き上げ線の線路長の関係から、2両編成で25m以下の全長となっている[8]。軌道の重量制限から、軸重は10.5t以下に収めている[8]。
先頭部の連結器は廻り子式密着連結器であるが、新幹線用密着連結器と同様に位置決め用の突起が丸くなっているのが特徴。高さは大江戸線に合わせた550mmを基本とするが、高さ880mmの位置に付け替えることで、中間連結器使用の上で浅草線用車両と連結することもできる[3][6]。この連結器は解放シリンダー付密着連結器であり、電気連結器も設けられている。さらに作業用監視カメラ(フロントガラス中央上部の箱内にあり、直下にある連結器を監視できる)と作業灯を設け、連結作業の効率化を図っている[9]。また、新製時にはなかったKE66A形ジャンパ連結器が、牽引車両とのアース線の接続のために連結器横に追加されている[10]。
2両1編成となるため運転台は片側にしかない。車体内部は運転室と機器室に分かれており、後述する搭載機器はこの機器室内と床下に分散して配置してある。機器室内は中央に点検通路を有し、各車両ごとに搭載機器は同一場所に設置されている。このため、上部から見た場合に2両の機器は点対称に配置されている。2両間の連結部には貫通路と扉があり[1]、通行できるようになっている。この貫通路部には幌がなく、ヒサシとサン板、転落防止用の保護棒と保護鎖を設置している[6]。運転室は運転士の操作性・機能性・視認性を重視して設計されている[11]。運転室内は白色系の配色、運転台計器盤はダークグレイの配色。運転台は車体中心線中央部に配置されており、計器盤には車内信号対応の速度計(80km/h 表示まで)・圧力計・表示灯がなどがある。主幹制御器は連結・解放作業時や急勾配登坂時の起動・制御を考慮して横軸式ツーハンドル式であり、左にマスコンハンドル(1ノッチ - 4ノッチ)、右にブレーキハンドル(常用7段・非常1段)を配置する。乗務員室には小形のユニットクーラー(3,000kcal/h・3.49kW)を設置している。
保安装置には京成電鉄・新京成電鉄・北総鉄道・京急電鉄・都営浅草線で使用されている更新型のC-ATSと大江戸線で使用されている新CS-ATCを搭載している。列車無線は浅草線用の誘導無線(IR)と大江戸線用の空間波無線(SR)を搭載する。
主要機器
前述の通り、Mc1とMc2で搭載機器は基本的に揃えられている。
制御装置はドイツ・シーメンス社製2レベルのIGBT-VVVFインバータ制御を採用[8]。1台のインバータにより190kWの主電動機(端子電圧1050V・電流133A・周波数61Hz・回転数1800rpm)を4台制御する1C4M×1群制御で、形式はTINV-5。リニアモーターは備えていない。
ただし、シーメンス社製のVVVFインバータ装置および主電動機は、2017年に東洋電機製造が納入したVVVFインバータ装置、主電動機に交換されている[12]。
補助電源装置はIGBT素子を使用した静止形インバータ (SIV) を搭載しており、容量は70 kVAとして回送時の12-000形に電源を供給できるよう考慮している。形式はTSIV-5。空気圧縮機 (CP) は起動装置、除湿装置などの周辺機器を一体箱に収納したユニット形のスクリュー式コンプレッサ(吐出量800L/min・クノールブレムゼ製[8])。SIV装置、蓄電池、空気圧縮機、空気タンク、ブレーキ作用装置、保安装置などは機器室内に配置しており、これらは保守性や機能性と重量バランスを考慮して設置している。
集電装置はシングルアーム式パンタグラフを搭載している。浅草線・大江戸線の車両限界の違いによる、架線の高さの違いから集電舟支え装置の異なる2種類がある[13]。Mc1 に浅草線用(形式:PT-7202-A)を2台、Mc2には大江戸線用(形式:PT-7202-B)を1台搭載する。これは汐留連絡線内で切替えられる[4]。
台車は川崎重工業製の軸梁式ボルスタレス方式で、浅草線車両では初めてのボルスタレス方式台車。形式は運転室側がT-1Da形、連結面側はT-1Db形と称する。基礎ブレーキ装置には片押し式のユニットブレーキが採用され、車輪径は 860mm 、駐車ブレーキを装備している。各車輪には空転を防ぐため、増粘着装置(アルミナの粉末を使用)を備える。
牽引方法
本形式は大江戸線車両や浅草線車両(約210t - 250t)を牽引できる性能を持つ。被牽引車両はパンタグラフを下げ、無動力状態で回送される。本形式からは元空気管、制御電源、ブレーキ、インターホン、合図ブザー回路が接続される。これにより、本形式からの指令により連結車両の空気ブレーキ(常用・非常・保安)を総括制御させる。さらに両車両間の連絡用のインターホン、合図ブザーを相互に使用することも可能。
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上から見たE5002
(2006年10月28日 馬込車両検修場) -
12-000形と並ぶE5003
(2006年10月28日 馬込車両検修場) -
E5003の連結器
(2006年10月28日 馬込車両検修場)
運用
大江戸線の車両の入出場回送の際に、当該車の先頭部に連結される[11]。使用するのは1編成で、もう1編成は予備となる。大江戸線車両が入場する際は汐留駅の引き上げ線で連結し、汐留連絡線を経由して馬込車両検修場まで回送される[3]。出場時はこれとほぼ逆のルートとなるが、汐留連絡線に入る前に一度新橋まで入線し、南行き線路にある分岐点まで推進運転が行われる。
このため大江戸線の本線上を走行する機会は基本的になく、試運転以外で走行したのは前述したE5003+E5004が2006年1月に光が丘→西馬込間を走行したのみである[10]。
全車両が浅草線に所属し、馬込車両検修場に配置されている[3]。通常は馬込車庫の機関車専用の留置スペースに2本並んで留置されている。検査は基本的に同所で行われるが、初回の全般検査は京急ファインテック久里浜事業所にて実施された[13]。
2006年10月28日に「都営フェスタ'06 in 浅草線」にて、初めて一般公開が行われた。また2011年11月5日には「都営交通100周年記念フェスタ in 浅草線」の関連イベントとして、日中時間帯にE5000形の全編成がデモンストレーションとして泉岳寺 - 西馬込間を走行した[14]。2編成を続行運転させる形となり、うちE5003+E5004には都営交通100周年のヘッドマークを取り付けて運転した。
編成表
← 西馬込(浅草線)
(大江戸線)汐留 →
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形式 | E5000 (E50-MC1) |
E5000 (E50-MC2) |
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搭載機器 | VVVF,SIV,CP | VVVF,SIV,CP |
車両番号 | E5001 E5003 |
E5002 E5004 |
- 凡例
- VVVF:VVVFインバータ装置
- SIV:補助電源装置(静止形インバータ)
- CP:空気圧縮機
- その他
- パンタグラフはMc1車(奇数番号)に浅草線用を2台、Mc2車(偶数番号)に大江戸線用を1台搭載。
- 1号線乗り入れ協定により形式番号は5000番台。
脚注
注釈
- ^ 日本国外では、イギリス・ロンドン地下鉄で1863年に最初の路線が開業して1905年に電化されるまで蒸気機関車を使用していたことがある。またアメリカ・ニューヨーク市地下鉄では事業用としてディーゼル機関車を、香港の香港鉄路では事業用として電気機関車を保有している。
出典
- ^ a b c d e f g h “E5000形 車両形式図” (pdf). 東京都交通局車両電気部車両課. 2025年2月19日閲覧。
- ^ T-1Db/東京都交通局E5000形(ホビダス台車近影)。
- ^ a b c d e 渡辺史絵『首都東京地下鉄の秘密を探る』交通新聞社、2015年。ISBN 9784330626154。
- ^ a b 交友社「鉄道ファン」2005年8月号CAR INFO「東京都交通局E5000形」pp.101 - 103。
- ^ a b 『都営地下鉄・都電・都バスのひみつ』PHP研究所、2014年。 ISBN 9784569817415。
- ^ a b c d エルフ『完全保存版都営地下鉄のすべて p.78』マイナビ出版、2017年。
- ^ 交友社「鉄道ファン」2009年7月号
- ^ a b c d 成山堂書店『大江戸線建設物語』pp.304 - 306。
- ^ 鉄道ピクトリアル鉄道車両年鑑2006年版を参照。
- ^ a b 交友社「鉄道ファン」2009年3月号
- ^ a b “あなたの知らない特殊車両”. PROJECT TOEI. 2025年2月19日閲覧。
- ^ 東洋電機製造「東洋電機技報」No.137(2018年発行)2017年総集編「交通事業部編」p.1 - 2 (PDF) 。
- ^ a b “都営地下鉄の電気機関車E5000形、京急線も走る【みんなの動画】”. 鉄道チャンネル (2019年4月30日). 2025年2月19日閲覧。
- ^ “「都営交通100周年記念フェスタin浅草線」 追加情報”. 東京都交通局 (2011年10月25日). 2022年4月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年4月12日閲覧。
参考文献
- 交友社「鉄道ファン」
- 2005年8月号 CAR INFO「東京都交通局E5000形」(取材協力:東京都交通局)
- 2009年3月号 連載「全国の現役機関車をめぐって -その20-」(郷田恒雄)
- 2009年7月号 公営地下鉄在籍両数ビッグ3「東京都交通局」(梶原栄)
- 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル」
- 2006年10月号臨時増刊号 鉄道車両年鑑2006年版「東京都交通局E5000形」(東京都交通局車両電気部車両課 望月豊)
- ネコ・パブリッシング「Rail Magazine」
- 2005年8月号 NEW COMER GUIDE「東京都交通局E5000形電気機関車」(取材協力:東京都交通局)
- 日本鉄道車両機械技術協会「R&m」
- 2005年10月号研究と開発「都営大江戸線車両 けん引電気機関車 E5000形」(東京都交通局 車両電気部車両課 森澤一義)
関連項目
- クモヤ743:山形新幹線区間の普通列車用719系5000番台を東北新幹線の整備工場(新幹線総合車両センター)まで牽引する目的で落成した牽引車。
外部リンク
固有名詞の分類
- 東京都交通局E5000形電気機関車のページへのリンク