重力マイクロレンズ法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/07 14:53 UTC 版)
「太陽系外惑星の発見方法」の記事における「重力マイクロレンズ法」の解説
「重力レンズ」も参照 ある天体の重力がレンズのようになって、背後にある別の天体が歪んているように観測される現象を重力レンズ効果という。この効果は、2つの天体が整列している場合にのみ発生する。2つの天体と地球は全て相対的に動いているため、この効果は数日から数週間というわずかな期間しか継続されない。過去10年間に約1,000件の重力レンズ効果が観測されている。 手前に並ぶ天体が恒星の場合、質量が小さいため銀河団で見られるようなはっきりとした重力レンズ効果は生じず、背景の天体からの光は空間的に分離されない。このとき観測者から見ると、このとき背景からの天体は時間変化に伴って増光を起こす程度になる。これを重力マイクロレンズ(英語: Gravitational microlensing)と呼ぶ。このとき、背景の天体の光度曲線は対称になるはずだが、手前の恒星に惑星がある場合、光度曲線が非対称になったり別の小さな光度のピークがみられる。この光度曲線の非対称性から惑星を検出するのが重力マイクロレンズ法(英語: Gravitational microlensing method)である。単にマイクロレンズ法とも呼ばれる。しかし、その影響は非常に不安定なので、常に手前側の天体を観測する必要がある。この方法は銀河系の中心にある恒星が、よく奥側の天体とされるため、他の方法では検出が困難な、銀河面に位置する惑星も発見出来る。 1991年、天文学者のShude Maoとボフダン・パチンスキはこの方法で、連星系の伴星を発見する事に成功し、翌年の1992年に、Andy GouldとAbraham Loebによって、太陽系外惑星を発見出来る方法として改良された。この方法で初めて惑星が発見されたのは2002年で、ポーランド・ワルシャワ大学のアンジェイ・ウダルスキが中心となって行っているOGLEプロジェクトによってなされた。1か月の間に彼らはいくつかの惑星候補を発見していたが、観測精度に限界があり、はっきりとした確証を得る事は出来ていなかった。それ以来、いくつかの惑星が重力マイクロレンズ法で発見されている。重力マイクロレンズ法は、太陽のような主系列星を公転している地球質量程度の惑星を検出できる最初の発見方法であった。 他のほとんどの発見方法では、主星に非常に近い距離を公転している惑星が発見されやすいが、重力マイクロレンズ法は、主星から1~6 au離れた、比較的遠い軌道を公転する低質量の惑星を検出するのに適している手法である。 重力マイクロレンズ法の主な短所は、重力マイクロレンズ効果が1度しか起こらない事にある。また、たとえ検出出来たとしても、惑星までの距離は数千パーセク離れている事が多いため、他の発見方法による追加観測は不可能である場合が多い。さらに、判明する物理的特徴は質量のみであり、これは不確定性が大きい。また、直接判明する軌道要素は現在の主星からの距離のみである。この距離は、惑星が楕円軌道を描いている場合は軌道長半径を反映していない可能性が高く、軌道要素が不明瞭になる事もある。この方法で惑星が検出出来るのは、惑星が軌道上において、主星から特に離れている、わずかな領域に限られるので、公転周期を正確に測定するのは難しい。重力マイクロレンズ効果は、主星と惑星の質量比が近いほど大きくなるため、低質量の恒星の方が検出が容易である。 一方、重力マイクロレンズ法の長所は、低質量の惑星でも検出出来る事である。将来、重力マイクロレンズ法を使って探査を行う予定のWFIRSTなどのプロジェクトでは、火星質量ほどの惑星も検出出来ると期待されている。また、ドップラー分光法やトランジット法では検出が困難な、土星から天王星に匹敵するほどの長い公転周期を持つ惑星を発見する事ができ、また、非常に遠方にある惑星でも検出する事が出来る。十分な精度で、背景の天体を観測していれば、地球のような惑星が銀河系にどのように存在しているかも明らかに出来るとされている。 このような観測は通常、リモートテレスコープ(ロボット望遠鏡)によって行われている。OGLEプロジェクトの他にもMOAプロジェクトが成果を挙げている。 PLANETプロジェクトは、さらに積極的に観測に取り組んでいる。これは、地球に匹敵する低質量の惑星の検出を目指しており、世界を網羅している望遠鏡ネットワークを通じて、24時間体制で観測を行っている。この計画によって、大きな軌道長半径を持ち、小さな質量を持つOGLE-2005-BLG-390Lbと呼ばれる惑星が、初めてこの手法によって発見された。
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