避雷用トランス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/21 00:23 UTC 版)
上述避雷用開閉器の実用化が困難であったことから、主に低周波交流回路用として先に実用化されたものである。サージを遮断してバイパスさせることは避雷用開閉器と全く同じであるが、基本的に電磁誘導を利用する変圧器であるので、直流回路への適用はできない。また変圧器であるので、特に交流電源回路用、すなわち電力用のものでは少ない容量のものでもかなりの重量、場合によってはそのために建物基礎部などを強化しなければならなくなることもあるといった欠点はあるが、構造簡単で堅牢、上述避雷用開閉器と同じく、例えばJIS規定の建物雷対策と合わせた場合、上述避雷器の使用数を大幅に減らし、結果、初期・ランニング、特にランニングコストを減じることが可能ということから、JISが基本的に国際規格と同じになった今日においても広く使用されている。無論、JISに規定する建物雷対策システムなどにそのまま適用できる。他に「耐雷トランス」「サージトランス」「サージシェルタ」などさまざまな呼称があるが、基本的には同じものである。 例えば交流電源回路に用いられるものでは、入力(1次側)と出力(2次側)を絶縁する(静電遮蔽する)などして、回路へのサージ侵入を防ぐものとしてある。巻線・鉄心の変圧器本体にサージをバイパスさせるための避雷器やコンデンサなどを組み合わせた構造を持つ。「絶縁変圧器」などという場合もあるが、これは単巻変圧器などに対義したものを示すことがあるので注意が必要である。通常、電圧の昇降圧目的として使われないので、その巻線比は1のものが多いが、無論、本来の変圧器としての目的を兼務させることも可能である。 上述、避雷用開閉器が物理的に回路を開きインピーダンスを大きくしてサージ侵入を防ぐのに対し、避雷用トランスは電気的にサージ(不定形交流)に対する回路のインピーダンスを大きくしてサージ侵入を阻止するものである。従って電力であれば、停電に対する考慮は不要である。 しかしそれゆえに1次側から2次側へのサージ侵入を完全に阻止することはできないため、どのくらいサージを「減衰」させるのか(これを「サージ移行率」などと呼ぶ)が使用上のポイントになる。通常、サージ移行率は規定波で-40から60(dB)(デシベル)程度であるが、すなわちサージの減衰量は、実際に侵入してくるサージ波形によって変わるので注意が必要である。 また変圧器であるため、特に電力用のものでは通過させる電力が大きくなるほど大型になり、また常時、鉄損、銅損によって電力を損失、発熱することからその放熱対策が別途、必要になることもある。このことから電力用のものは、需要電力の小さな電気設備の電源回路に好んで用いられる。交流電源回路において、避雷器(SPD)とリアクトルを組み合わせたものが不平衡回路になるのに対し、耐雷変圧器と避雷器を組み合わせたものは通常、平衡回路になる。従って日本の配電方式(特に電灯動力供用方式など)への使用に適している。 なお避雷用トランスでは、通常のノイズフィルタなどと同じく、回路への侵入を阻止しようとするサージの平衡、不平衡などにより、それに応じたものを選ぶ、あるいは接続方法を変えるなど、回路設計段階からのかなり詳細な検討が必要である。これを誤ると避雷用トランスは十分な効果を発揮しないばかりか、強力なサージによって最悪は避雷用トランスを含めたシステム全体の焼損破壊に至る。よって上述避雷用開閉器とは異なり、はじめから避雷用トランス本体からのフル・オーダー製作としなければならないことも多い。 通信用のもの(メタル電話線用のものなど)では、インピーダンス変換用トランスなどに若干の改造を加えて入力と出力を高絶縁、避雷器と組み合わせたものが多く用いられるが、例えば加入電話回線には電話交換機を起動させるための直流が重畳されてあるため使用できず、専ら、直流重畳されていない専用電話回線や構内電話回線などに用いられる。
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