遺伝子の攪乱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 00:54 UTC 版)
外来種が在来種と交雑することによって在来種の遺伝子が変容することがある。この現象を遺伝子浸透(遺伝子汚染)という。外来種の遺伝子が広範囲に拡散すれば、それまでの遺伝子プール(その個体群が共有する一定の変異幅をもつ遺伝子の総体)の状態を回復することは、事実上不可能となる。固有種・固有亜種に外来遺伝子が流入した場合、長い進化の歴史を経て形成されてきたそれらの種や亜種が消滅することになるため、問題は特に深刻である。 農作物や家畜の品種改良の場合、人為的条件での適応、すなわち人間にとって優れた特性の獲得が、交配により達成され、原種と大きく異なった形態の品種が生み出されることが多い。このような例を踏まえて、遺伝子の攪乱(かくらん)は種としては新たな適応の機会であり、悪い事ではないという意見も見受けられる。しかし、自然環境下の動植物で遺伝子の攪乱が広がった場合、攪乱前の状態に戻すことはできず、交雑種が新たな害を及ぼしたり、生態系全体のバランスに大きな影響を与える恐れもある。 伊豆大島・和歌山県・青森県で野生化が確認されているタイワンザルや、房総半島に定着しているアカゲザルは、日本固有のニホンザルと交雑が可能であり、実際に雑種が生まれている。これが全国に広がれば、純粋なニホンザルは消滅してしまうことも考えられる。 タイリクバラタナゴ(中国、台湾、朝鮮半島原産)は1940年代前半に、中国から他の魚(ハクレン・ソウギョなど)に混じって利根川水系に導入されたが、1960年代以降、人為的に全国各地に分布を広げた。西日本各地で在来のニッポンバラタナゴと交雑し、雑種個体群として累代を続けた結果、純粋なニッポンバラタナゴの生息地はきわめて局所的に残るのみとなり、ニッポンバラタナゴの絶滅が懸念されている。 京都府の賀茂川において、食用として持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオが野生化し、日本固有種である在来のオオサンショウウオとの交雑が問題になっている。ただし、チュウゴクオオサンショウウオも、IUCNのレッドリスト(Ver.3.1)において「Critically Endangered(絶滅寸前)」とされており、ワシントン条約で付属書Iにも掲載されているため、外来種として単純に処理できないことが問題を複雑にしている。 ペットとして輸入されて逃げ出した外国産クワガタムシやカブトムシによる在来種の遺伝子攪乱も危惧されている(ヒラタクワガタと亜種の間柄であるオオヒラタクワガタとの交雑など)。 外来種と在来種が交雑することでより侵略性の強い生物種が生み出されてしまうこともある。その代表例がスパルティナ・アングリカという非常に侵略的なイネ科の植物で、この生物は19世紀にアメリカからイギリスに持ち込まれた外来種とイギリスにもともと存在していた在来種との1代雑種の染色体数が倍加して起源している。
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