説話の舞台と世相
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/13 08:04 UTC 版)
「日本国現報善悪霊異記」の記事における「説話の舞台と世相」の解説
上巻に35話、中巻に42話、下巻に39話で、合計116話が収められる。それぞれの話の時代は奈良時代が多く、古いものは雄略天皇の頃とされている。場所は東は上総国、西は肥後国と当時の物語としては極めて範囲が広い。その中では畿内と周辺諸国が多く、特に紀伊国が多い。 『霊異記』の説話は、行基とその朋党が、民間布教と社会事業の実践のため遍歴した地域と重複する所が少なくない。また、遠国の説話には紀伊氏・大伴氏一族のかつての勢力圏や吉士氏の勢力圏の紀伊・大阪湾沿岸、ならびに二次入植地の東国と結び付くものが認められる。 登場する人物は、庶人、役人から貴族、皇族に及び、僧も著名な高僧から貧しい乞食僧まで出てくる。 その一方で、景戒が属する興福寺や法相宗(薬師寺・行基集団などを含む)を称賛する説話を多数収録する反面、道慈や鑑真ら他宗の僧侶などに関する逸話を忌避しているという見方もあり、特に失明や眼病を悪行による仏罰であるとする説話を意図的に取り上げることで暗に(来日時に失明した)鑑真を否定的に評価する意図を有していたとする研究者もいる。 田に引く水をめぐる争い(上巻第3)、盗品を市で売る盗人(上巻第34、第35、下巻第27)、長期勤務の防人の負担(中巻第3)、官営の鉱山を国司が人夫を使って掘ること(下巻第13)、浮浪人を捜索して税をとりたてる役人(下巻第14)、秤や桝を使い分けるごまかし(下巻第20、第26)など、説話自体が事実を伝えるものではないとしても、その主題から外れた背景・設定からは、当時の世相を窺い知ることが出来る。 また、性愛を扱った説話も収められている。例えば息子を愛するあまりにフェラチオするようになった母が、臨終の際に息子のもの(陰茎)を吸いながら、「わたしは、今後次々に生まれ変わって、後の世でいつもそなたと夫婦になります」と言い残し、隣家の娘に生まれ変わって息子と結婚するといった奇譚などがある(中巻第41「子に愛心を結びて、 来世にて子の妻となる縁 」)。
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