被害予測・実際の現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 01:37 UTC 版)
さまざまな可能性があり、核使用の規模や状況によっては大規模な核戦争でも何も起こらない可能性から、逆に悪条件が重なり限定使用でも数十年影響を与える可能性がある。予想では、核戦争の規模によるが、核爆発による浮遊微粒子は、大規模な都市火災によって発生する上昇気流に乗って成層圏にまで到達し、ジェット気流によって世界規模に拡散する。 例えばヨーロッパで限定核戦争が勃発しても、その被害は日本を含むアジアや米国を巻き込むとされ、まして同理論が提唱された冷戦末期の中で米国・ソビエト連邦が核兵器で攻撃しあう事態となれば、間違いなく地球規模の環境破壊が起こると考えられた。 21世紀現在、核兵器が飛び交うような戦争は幸いにして起きていないため、この理論が真実かどうかはコンピュータシミュレーション上の予測値を見るしかない。ラトガース大学のアラン・ロボック(英語版)教授のシミュレーション(2019年)では、インドとパキスタンの2国が核戦争に突入しただけでも、地表温度が2 - 5度は低下するなどの異常気象が最大10年は続き、世界的な食糧危機が訪れるという。また、米ロ間の全面核戦争シナリオにおいては1年後のピーク時の日射量は平年の4割程度まで減少し、平年への回復には約10年要し、その結果、全球平均で2度以上の低下が9年間続き、低下がピークとなる2〜4年後には約9度もの低下が予測されている。 しかし、実際には冷戦期には2000回以上の核実験が行われたが、噴煙粉塵による気温の低下は周辺地域においても確認されていない。また、理論上では湾岸戦争時の大規模油田火災でも、地球規模の気温低下が観測されなければならないが、多くの学者の予想に反して気温は全く下がらなかった。 また、チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)による放射性物質の拡散や、福島第一原子力発電所事故(2011年)による放射性物質の拡散など、世界規模で放射性物質が降り注ぐ被害が観測されている。これに倣い、核兵器による被害ではより大規模な上昇気流の発生も予測され、事故以上に広域の汚染が発生し得ると予想される。ただし、実際は冷戦期の実験の観測やチェルノブイリ、福島第1原発事故後の長期的調査では、降り注ぐ雨に含まれる放射線量は局所(ホットスポット)を除いて、ほとんど人体に影響がないほど僅かであった。 しかし、大規模な火山の爆発によって大気中に放出された火山灰が、やはりジェット気流に乗って広い範囲で極端な夕焼けなどの現象として観測された事例もあり、あらゆる不測の可能性が起こりうる核兵器の使用は様々な方面から強く警戒されている。特に2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、ロシアが度々核戦争を仄めかすなどして、冷戦期以来の警戒感となっている。
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