航空機の地面効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 02:15 UTC 版)
飛行中、翼の横では下面の正圧域から上面の負圧域へと空気が回り込もうとして、翼端を中心とする渦流(翼端渦)が発生している。翼端渦の影響で翼周りの気流が吹き下ろし(ダウンウォッシュ)の方向に傾くと有効迎え角が減少し、副次的に誘導抗力が発生する。 翼が地面に接近した状態では、翼端渦の動きが地面に遮られ、翼上面まで回り込みにくくなる。吹き下ろし角が減少する結果、誘導抗力係数が減少する。同様の理由により機体が同じピッチ角の場合は揚力係数が増加する。換言すれば、地上付近で揚力が発生している翼が飛行している状態は、地面を対称線とした翼の鏡像が存在している状態と等価で、地面との干渉は逆向きの2つの翼の相互作用として解釈することができる。身近な例では、両の手を合わせ力を入れることで感覚的に認識することができる。左右の手は互いに対称であるため、片手で平らな壁を押したときと同様の感覚を得る。 その他の現象としては、ピッチダウン(機首下げ)傾向の増加が挙げられる。これは、地面との干渉によって翼後流に現れる吹き下ろし量が小さくなり、水平尾翼の相対迎え角が小さくなって、ピッチアップ・モーメントが不足するためである。 通常は主翼の翼幅の半分よりも高度が低くなると地面効果が現れ、翼幅の1/4の高度で誘導抗力が20~30%減少し、1/10の高度で約50%減少する。揚抗比 (L/D) が増加するため、離陸時には推力の不足を補うことができ、地面近くを水平飛行し続ければ、燃料消費を節約して航続距離を伸ばすことができる。人力飛行機は誘導抗力の少ないアスペクト比の大きい翼を持つが、高度を低く保って飛行すれば、さらに抗力を減らして体力を有効利用することができる。 一方、着陸する際には空気のクッションに乗って滑っていくような感覚となり、着陸しにくくなるという現象も起きる。艦載機が航空母艦に着艦する際には、飛行甲板の地面効果を受けないよう叩きつけるように降りる。翼が地面に近い低翼機やファウラーフラップ付きの翼は地面効果の影響が著しく、着陸姿勢(フレア)の上げ舵に要する操縦力が大きくなり、昇降舵の面積を増さなければならないこともある。また全翼機・無尾翼機においては地面効果が特に大きく着陸時に長い滑走路が必要になる場合がある。 回転翼機のローターの揚力発生にも、地面効果が影響する。ヘリコプターの場合、メインローター直径の約半分以下の高度を地面効果内 (In Ground Effect, IGE) 、それ以上を地面効果外 (Out Ground Effect, OGE) と呼ぶ。回転翼機や垂直/短距離離着陸機(V/STOL機)がホバリングする時、ダウンウォッシュが地面とローターの間で圧縮され、より少ない推力で浮上できる。しかし、地面と胴体下面の間で二次的な渦が発生し、一点上空でのホバリングを不安定にすることがある。
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