第2章 物語はなにも語らず
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 05:13 UTC 版)
「海炭市叙景」の記事における「第2章 物語はなにも語らず」の解説
まっとうな男 首都の国際空港の建設現場に勤めていた寛二は空港の工事の終わりとともに失業、海炭市に戻り職業訓練校の建築科に入った。普段は訓練校の寮に住む寛二は、外泊許可を取り妻がいる家のある漁村地域の矢不来に帰省するため、ビール3本引っ掛け制限速度オーバーで産業道路を走っていたが、追い越したスカイラインが覆面パトカーだったためスピード違反で取り締まりを受けることとなり警官ともめ事になる。 大事なこと 忠夫は、遅産に悩まされる妻を持ち、妻を気づかいながらタンクローリーの運転手をしていて、開通したばかりの産業道路を走り、新しい市役所の建設現場に生コンを運んでいる。自分と同学年で海炭市で唯一甲子園に出場してドラフト1位でプロ野球選手になった男のことを思いながら朝野球に励みチームメイトと今日の試合の勝利を誓う。 ネコを抱いた婆さん トキは息子夫婦と共に暮らし、産業道路の開通と近所の離農で1件だけ取り残された畑でアスパラガスを栽培し、豚やニワトリを飼う。豚の臭いや道路に突き出た敷地について近所から苦情が入るようになり、役所の人間が頻繁に説得に来るようになる。駅の近くの「朝の市場」に通う嫁は、産業道路の周辺にある空き地を利用し近隣の商店と協力して青空市場を開催して商売しようと思い付くなどよくトキを感心させている。 夢みる力 広一は電力会社に勤め海炭市と合併した音江村に一戸建てを買い妻と子どもと幸せに暮らすはずが、競馬場に入り浸り、多額のカードローンを抱えていた。今日も大負けになりそうな中、かつて妻の思い付きで買った馬券のグランパスドリームという馬のことを思い出し、その時のことから妻が子どもを授かり妻の実家の父がグランパ(祖父)になること、そしてその義父の末路を回想し自分たちの行く末を思い返してみるが、足は次の馬券を買うため窓口に向かっている。 昴った夜 私立の女子校を辞め空港のレストランで働く信子は首都への強い憧れを抱く。一方でいつものように冷静に業務をこなせないでいる。その理由は久々に暴走族の集会があるからだ。ロビーでの騒ぎで首都に戻る者と残る者のやりとりを見たことから信子の首都への想いは微妙に揺れる。 黒い森 街のプラネタリウムで働く隆三は、息子の勉への配慮もあり妻が古い友人との付き合いを理由に夜の街で働き続けることに疑問を持つ。かつて息子と妻を連れ出し昆虫採集をした森の広がっていた場所は徐々に市街地としての開発が進みつつあり姿形が変わって行く。 衛生的生活 啓介は職業安定所で働き、虫歯が痛むこと以外は平和な日々を過ごす。首都の短期大学に進学した娘のことや街を行く若者たちの姿、職安を訪れる多種多様な者ものたちなどを眺めながら海炭市の行く末を啓介なりに考える。 この日曜日 恵子と夫は車で産業道路を飛ばし、首都の大手デパートが建設されるという現場に向かう。恵子は建設現場に大麻草が生えているように見えたと言ったことから、工事が始まる前に大麻草らしき物を手に入れようとしていたからだ。しかし恵子は建設現場近くの産婦人科で自らの妊娠を知っていて何か迷いの気持ちが芽生え始めていて現場に近づくに連れその迷いはより強い物に変化しているようだった。 しずかな若者 シビックの後ろにパヴェーゼの全集と荷物を載せ死んだ父の残した海炭市の別荘にやって来た龍一は、たまたま首都から来ていた女と体の関係を結んだ。相手の女の母親は龍一を好青年と誉め結婚したらどうかと口にしたという。この夏のことを振り返っ龍一は通い詰めたジャズ喫茶のマスターや両親のように何かをバッサリ捨てられるか、想い悩む。
※この「第2章 物語はなにも語らず」の解説は、「海炭市叙景」の解説の一部です。
「第2章 物語はなにも語らず」を含む「海炭市叙景」の記事については、「海炭市叙景」の概要を参照ください。
- 第2章 物語はなにも語らずのページへのリンク