第1楽章 Andante comodo
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 13:44 UTC 版)
「交響曲第9番 (マーラー)」の記事における「第1楽章 Andante comodo」の解説
アンダンテ・コモド ニ長調 4/4拍子 自由なソナタ形式 チェロ、ホルン、ハープなどが断片的に掛け合う短い序奏(譜例1)によって曲は開始される。ここでは、チェロとホルンによるシンコペーションのリズムと、ハープによる「ミソ・ラソ(移動ド)」という4音からなる動機が現れ、全曲を統一する有機的な素材となっている。シンコペーションのリズムには、マーラーの心臓の鼓動、不整脈を表すという解釈がある。これに続き、第2ヴァイオリンがため息のように2度下降する動機を奏する。ここからが第1主題(譜例2)で、この動機は、ベートーヴェンのピアノソナタ第26番「告別」冒頭のLe-be-wohl(さようなら)に由来すると考えられ、前作『大地の歌』の第6楽章「告別」の結尾で歌われた「永遠に」(ewig)という音型の引用でもある。この動機は、自作の歌曲(『さすらう若者の歌』)や交響曲(交響曲第3番第4楽章、交響曲第4番第3楽章など)で見られるもので、他の楽章でも現れ、統一的に用いられる。 譜例1 譜例2 この主題を中心として歌うような曲想が続くが、ホルンの2度下降動機からニ短調に転じ、管の和音と共に第1ヴァイオリンが半音階的に上昇する主題を奏する。これが第2主題(譜例3)である。 譜例3 この主題が悲痛に高揚した後、ヴァイオリンの高音部に2度下降動機が再び現れる。もう一度高まって、金管に半音階的に下降する動機が繰り返される(譜例4)と、提示部の変奏的かつ発展的な反復となる。第1主題、第2主題ともに発展し、「死の舞踏」を思わせる。ハープの印象的な動きに導かれ、金管の半音階的に下降する動機が発展し、情熱的に呼びかけるような主題が弦と金管に現れて盛り上がる。この主題(譜例5)は、自作の交響曲第1番の第4楽章、第2主題からの引用であり、この楽章ではいわば第3主題のような役割を果たす。ここで初めの頂点に達するが、音楽は暗転し、展開部に入る。 譜例4 譜例5 冒頭と同じテンポになり、静かで暗い雰囲気の中、序奏が回想される。これに引き続き、しばらく第1主題が暗く扱われるが、ハープの響きから気分を整えて第1主題の変形が現れる。ここではヨハン・シュトラウス2世のワルツ『人生を楽しめ』が引用される(マーラーは自筆譜のこの部分に「おお若き日! 消え去ったもの! おお愛! 吹き消されたもの!」と書き込んでいる)。 穏やかな曲想が続いていくが、徐々に動きを見せ、テンポはアレグロ・リゾルートとなり、金管の半音階下降動機や第3主題、トランペットのファンファーレ(交響曲第1番、交響曲第7番第1楽章などからの引用)が重ねられて力を増す。トライアングルが動きを遮るように強音でトレモロを出すが、序奏の「ミソ・ラソ」のモティーフがティンパニによって強打され、音楽はさらに凶暴さを増し、狂おしくなっていく。頂点で第3主題が強烈に吹奏され、輝かしいクライマックスを築くが、急速に落ち込む。 ここから曲はテンポを落とし、第2主題に基づいて陰鬱な気分で進む。変形された第2主題の情熱的かつ不気味な展開が続いたあと、2度下降動機や半音階的に下降する動機が静かに奏されていくが、次第に落ち着いてきて再び第1主題の変形が現れる。ここから3度目の頂点へと高揚してゆく。第1主題が高揚していき、第3主題が叫ばれると、それに続き「より動きをもって(Bewegter)」と指示される部分に入る。大きな起伏を持って何度も頂点を築き、第1主題が輝かしく叫ばれるも、不協和な響きのなか引きずられていくように落ち込む。それに続いて「最大の暴力で(mit höchster Gewalt)」と指示され、銅鑼が強打され、トロンボーンのシンコペーションがすべてを遮るように吹き鳴らされる。「ミソ・ラソ」の動機がティンパニによって強烈に打たれ、もう一度シンコペーションが吹かれた後、葬送行進曲風の経過部となる。ここでは序奏の変形を扱っているが、「ミソ・ラソ」の動機が鐘によって奏されることで、初めてこれが葬列の鐘を模したものであったことが明かされる。 こののち、「最初のように(Wie von Anfang)」と指定された再現部となり、第1主題がかなり自由に再現し、高まった後、第2主題が暗示される。 ここで曲は一転して、「突然著しくゆっくりと、そして小さく(Plötzlich bedeutend lamgsamer(lento) und leise)」と指示された、各楽器の掛け合いによるカデンツァ風の部分となる。もう一度第2主題が姿を見せるが、荒々しさは消えており、ハープの動きによって導かれる第3主題も残照のようなホルンの響きに変わる。フルートが高いところから次第に降りてきて、静かになった後、コーダに入る。 コーダでは、独奏ヴァイオリンと木管の対話から2度下降動機が柔らかく繰り返されて、最後に弦の高いフラジョレットが楽章を結ぶ。 演奏時間は約25-36分程度。
※この「第1楽章 Andante comodo」の解説は、「交響曲第9番 (マーラー)」の解説の一部です。
「第1楽章 Andante comodo」を含む「交響曲第9番 (マーラー)」の記事については、「交響曲第9番 (マーラー)」の概要を参照ください。
- 第1楽章 Andante comodoのページへのリンク