社会主義国の国家元首
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/23 23:59 UTC 版)
社会主義国の国家主席の権能は国によりまちまちであるが、通常は議会共和制国家における国家元首に相当する権能を有する。国家主席自体は儀礼的な存在であり、実質的な最高指導者である共産党の党首(書記長・総書記・第一書記など)が兼任したり、長老幹部を礼遇するための名誉職として用いられたりするケースが多いが、元首の職権に実質的権限が付与されるケースとして、毛沢東・劉少奇が就任した時代の中華人民共和国主席や金日成時代の朝鮮民主主義人民共和国主席、ミハイル・ゴルバチョフが就任したソビエト連邦大統領がある。ベトナムでは、最高指導者であるベトナム共産党書記長と元首であるベトナム社会主義共和国主席が分離することが慣例化しているものの、同国の国家主席は憲法上は軍の統帥権を持っているため、全く無力な存在という訳ではない。なお、党中央が動揺する非常時に、儀礼的な国家元首が自らの判断で重要な権限を行使する例 がある。 他に社会主義国の特徴としては、正式には国家の最高決議機関の常設委員会に国家元首の権能が与えられ、その議長が代表して国家元首の権限を執行するケースが見られる。 北朝鮮の国家元首に関する規定は複雑であり、名目上の国家元首と実際の最高権力者が一致しない時期がある。 1948年から1972年までは最高人民会議常任委員会委員長が形式上の元首であったが、政治的実権は首相の金日成にあった。 1972年から1994年までは金日成が朝鮮民主主義人民共和国主席として国家元首になったが、1994年に金日成が死去したことによって主席が空席となり、1998年の憲法改正で廃止された。なお、1998年憲法および2009年に改訂された現行の朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法の序文では、金日成を「永遠の主席」と表記している。 2009年までの国家元首は最高人民会議常任委員会委員長であった。1998年憲法第111条で「最高人民会議常任委員会委員長は、国家を代表し、外国の使臣の信任状、召還状を接受する」と規定されているからである。ただしこの職の権能は儀礼的な部分にとどまり、実際の最高権力は朝鮮労働党中央委員会総書記、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長、朝鮮人民軍最高司令官の金正日が掌握していた。 2009年に同国の憲法が改正され、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長(以下「国防委員長」)を「朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者である」(第100条)と明確に規定した。これにより、国防委員長が国家の最高指導者としての国家元首に宛てられたことになる。ただし、その一方で「最高人民会議常任委員会委員長(以下「常任委員長」)は、国家を代表し、外国使節の信任状、召喚状を接受する」(第117条)という規定もそのまま残されており、常任委員長も国家元首の権能の一部(ただし儀礼的な部分に限られる)を行使していることになる。 2011年に金正日が死去すると国防委員長は空席となり、翌年の第12期最高人民会議第5回会議で金正日を「永遠の国防委員長」と位置づける決議が採択されるとともに、憲法が改正されて国防委員長の職は廃止された。新たに国家の最高指導者として国防委員会第一委員長が設置され、金正恩が就任した。 2016年6月29日に朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法が改正され、新憲法では朝鮮民主主義人民共和国国防委員会が廃止され、それに代わる国家の最高政策指導機関として朝鮮民主主義人民共和国国務委員会が設置された。国家の最高指導者と規定された国務委員長には、金正恩が就任した。 2019年8月29日に朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法が改正され、新憲法では朝鮮民主主義人民共和国国務委員長に法令や重要な政令、決定を公布する権限と外国に駐在する外交代表の任命や解任の権限が規定された。 キューバでは、2019年以降の国家元首は大統領である。2019年までは国家元首は国家評議会議長であり、単に儀礼的地位にとどまらず強大な権限を有していた。さらに、内閣に相当するのは閣僚評議会であり、閣僚評議会議長が行政権の担当者としての首相に相当する。機構上ではその両者は分離されているが、1976年制定の新憲法では国家評議会議長は閣僚評議会議長が兼任すると規定されており、国家元首と行政権の首長の権能は統合されて国家の最高指導権が集中していた。
※この「社会主義国の国家元首」の解説は、「元首」の解説の一部です。
「社会主義国の国家元首」を含む「元首」の記事については、「元首」の概要を参照ください。
- 社会主義国の国家元首のページへのリンク