生理学からの発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 06:52 UTC 版)
脳を損傷すると精神機能に異変が生じる事から、「脳が感情や思考などの精神現象を生み出す中枢である、とみなし、脳を構成する神経系を調べることで精神現象を解明できる可能性がある」との発想が生まれた。これは、古くはデカルトが心身合一の問題として言及しているが、実験的に調べられるようになったのは19世紀以降である。 19世紀のポール・ピエール・ブローカやカール・ウェルニッケらの失語症と脳損傷の関係調査により、ブローカ野やウェルニッケ野などの言語中枢とされる脳部位 (言語野) が推定された。この研究により、言語を扱う精神機能が脳という生理学的土台によって生じることが明らかにされた。脳損傷と精神機能失調との関係調査は20世紀初頭の第一次世界大戦以降、戦争で脳を損傷した患者の治療の過程で大きく進んだ。1960年代からは、CTにより脳血管障害患者の脳を非侵襲的に調べられるようになり、さらに進展した。 イワン・パブロフは1902年に唾液腺の研究過程で俗に「パブロフの犬」とよばれる条件反射を発見した。この研究を嚆矢として、正常な動物における生理的現象と精神現象の関係が論じられるようになった。この分野はパブロフの犬のような巨視的なものから薬物投与、神経細胞の分子生物学的解析など様々なものがあるが、全体的には神経細胞の振る舞いを調べるものが多い。 1936年にハンス・セリエは「各種有害作因によって引き起こされる症候群」を発表し、この有害作因がストレスという用語に変わり受け入れられていったが、ストレスを引き起こすものをストレッサーと呼んだ。1956年に、『現代社会とストレス』(The Stress of Life)を出版し一般向けに初めて概説した。 アショフらはドイツのマックスプランツ行動生理学研究所において、ヒトの睡眠と覚醒の概日リズムが昼夜の環境変化のない隔離室では25時間周期であり、24時間よりも1時間長く、深部体温や、コルチゾールやメラトニンといった体内ホルモンこのリズムに同調していることを見出した。 1960-70年代にかけて急速に進展した視覚伝導路の神経細胞の特性研究は知覚心理学に重大な影響を与えた。両者は視覚刺激を提示し反応を測定するという共通の手法を持ち、測定対象が神経細胞という微視的なものか、ヒトなどの動物全体という巨視的なものか、という点で違うと見ることもできる。また海馬の神経細胞で発見された長期増強などのシナプス可塑性は、記憶の生理的基盤であると期待され、認知心理学に少なからぬ影響を与えた。 1980年代以降、神経活動を観測する脳機能イメージングの手法が発展するにつれて、脳機能局在論による神経機構の解明が試みられており、少なからず成功を収めている。その一方、こうした研究は現代的骨相学に陥る危険もはらんでおり、それを克服する試みとして計算論的神経科学などとの協力がある。神経機構の数理的解析は情報工学に影響を与えてもいる。
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