準拠法指定に関する考え方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 00:22 UTC 版)
準拠法の指定について現在一般的に採用されている考え方は、フリードリヒ・カール・フォン・サヴィニーが1849年に出版した『現代ローマ法体系』第8巻で提唱した法律関係本拠地説を基本とするものである。 サヴィニー以前には、法の内容を人法、物法(後の学説の発展により混合法が加わる)に分け、人法は属人的な効力を有し、物法と混合法は属地的な効力を有すると説明する法規分類説に基づく考え方が国際私法学の主流であった。つまり、法の効力が及ぶ範囲を問題として準拠法選択に関する理論が組み立てられていた。 これに対し、サヴィニーは、法の効力が及ぶ範囲を検討するという視点ではなく、問題となる私法的法律関係の本拠 (Sitz) はどこかという視点から準拠法選択に関する理論を組み立てた。つまり、各種の法律関係と最も密接な関係のある地が当該法律関係に固有の本拠であり、準拠法の選択に際しては、問題となる法律関係の本拠がどこであるかを探求し、その地域の法を適用すべきと主張した。例えば、家族の身分関係(夫婦関係、親子関係など)の本拠は当事者の住所地にあるから、当事者の住所地の法 (lex domicilii) を適用すべきであり、物権関係の本拠は目的物の所在地にあるから、目的物の所在地の法 (lex situs) を適用すべきとした。 このように、問題となる法律関係の最密接地の法を適用することにより、どこで裁判が係属したとしても同じ結果が期待できるというのが、サヴィニーの考え方であった。このような準拠法指定の考え方は、法典編纂中のヨーロッパの国際私法に取り入れられ、日本においても、法例及びそれを引き継いだ法の適用に関する通則法は原則としてサヴィニーの考え方に近い形で作られている。もっとも、条約により統一されている法領域もあるものの、現実の国際私法の主要な法源は国内法であり、どこを最密接地とすべきか考え方が分かれる場合もある。また、特に公法上の問題がからむ場合を中心として、政策的な理由により最密接地の法ではなく法廷地法をも考慮して準拠法を決める場合もある。そのため、実際には国際私法の内容が国・地域により異なっており、サヴィニーの期待通りには処理できないことは否定できない。 また、問題となる法律関係の本拠を探求するという建前からすれば準拠法として指定されるのは一つしかないはずであるが、各種の理由により、複数の法域の法が重畳的に適用される場合もある。例えば、国籍を異にする者が養子縁組をする場合、日本の国際私法では、成立要件は縁組当時の養親の本国法(国籍を有する国の法)を準拠法とするのを原則とするが、縁組当時の養子の本国法が、養子若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公の機関の許可等の処分を要件としているときは、養子の本国法が規定する要件も満たす必要がある(通則法第31条1項)。これは、養子が養親の家族の構成員になることや、縁組後の生活は養親の本国で営まれるのが通常であることなどから、養子縁組の法律関係に関する本拠は養親の本国というべきであるが、養子となるべき者の保護の観点から、養子の本国法が養子縁組の要件に上記のような要件を課している場合は、それを生かすべきであるとの政策判断に基づく。
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