消防用設備等「良」マーク表示制度の導入
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「千日デパート火災」の記事における「消防用設備等「良」マーク表示制度の導入」の解説
1972年(昭和47年)11月28日、「予防査察の強化について」と題する自治省消防庁次長通達が自治体の知事宛てに出され(消防予第198号)、「消防用設備等『良』マーク表示制度」の導入が決められた。表示制度の適用対象は、特定防火対象物の第一種査察対象物かつ耐火建築物とされた。これは消防用設備などの設置が法令の基準を満たしている特定防火対象物に「良マーク」を与えて建物の入口などに表示させ、防火管理者などの認識を深めて消防用設備などの保守管理に完全履行を促し、防災意識を高めることを意図した制度である。国の指導による表示制度の導入は初めての試みであった。「良マーク」表示制度は、のちの「特例認定制度(適マーク)」や「優良防火対象物認定表示制度(優マーク・東京消防庁)」などの表示制度や公表制度、認定制度全般に繋がるきっかけとなった制度である。 表示制度の導入は、千日デパートビル火災の前年(1971年)から東京消防庁では予防査察の結果が極めて悪質な防火対象物を公表することと併せて検討されていた。実際に同庁では、大然閣ホテル火災および本件火災の発生を受けて、ホテル、旅館、雑居ビル、百貨店などに対して特別査察を実施し、特に悪質な26件の防火対象物をマスコミを通じて既に公表していた。その実績が行政監察当局から評価され、表示制度発足の後押しになった。だが当初において東京消防庁では、表示制度の導入にあたっては幾つかの問題点を指摘していた。それは、消防用設備等に「良」の御墨付きを与えても、その機能と有効性が建物や施設全体について、どこまで担保されるのか定かではなく、維持管理が疎かになれば「良」を与えた設備から火災が発生する可能性もあることから、行政の責任が問われる事態を懸念したからである。しかしながら社会全般の防災意識の高まりや時期的に好機だったことから、全国に先駆けて東京消防庁が「良マーク」表示制度の導入を決めた。 1973年(昭和48年)3月から4月にかけて、都内のホテルや旅館など2,735件の特定防火対象物について、東京消防庁・全67消防署が一斉に立ち入り検査を実施した。その結果、消防用設備などが完備され、防火管理も適正に行われている「95の施設」に対して「良マーク」が交付されることになった。交付は同年5月19日から開始され、有効期間は1年、立入検査の結果によって更新されるが、有効期間内であっても法令違反などがあった場合は回収する、とした。「良マーク」は、建物の出入口の見やすい位置に掲示することが義務づけられた。自治省消防庁の通達に基づいて実施される制度であることから、各消防本部の実状に応じて全国的に実施していく予定とされた。本制度の運用が広がりを見せようとした矢先、大洋デパート火災が発生し、再び甚大な被害が出てしまった。このあと消防および建築関連の法令改正が行われ、消防用設備等の技術基準も大幅に改定されたことから、既存設備が安全基準から大きく外れる事例が増えていった。法令の遡及適用が新たに導入され、既存不適格な状態が許されなくなったことからも新基準に適合させるまでの猶予が必要となり、消防用設備に対する安全性の尺度が不明確になっていった。それらの事情により1974年(昭和49年)12月、東京消防庁は新基準に適合した防火対象物には継続提出で表示を与え、新規で表示を与えることを中止した。同庁は「良マーク」表示制度の運用を一時凍結し、自治省消防庁と表示制度の問題点を協議することになった。
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