海難審判とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 海難審判の意味・解説 

かいなん‐しんぱん【海難審判】

読み方:かいなんしんぱん

海難審判所海難審判法基づいて職務上の故意過失により海難船舶事故)を発生させた海技従事者等の懲戒を行うための審判海難原因について運輸安全委員会調査する

[補説] 海難審判は、受審人指定海難関係人に対して懲戒戒告勧告などを行う行政審判で、刑罰求め刑事裁判や、損害賠償求め民事裁判ではない。審判担当者審判官といい、審判官言い渡す審判裁決という。


海難審判

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/25 07:34 UTC 版)

海難審判(かいなんしんぱん)とは、海難審判法(昭和22年法律第135号)に基づき、海難審判所が、職務上の故意または過失によって海難を発生させた海技士小型船舶操縦士水先人に対して懲戒を行うための手続である。

2008年10月1日に国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成20年5月2日法律第26号)が施行された。改正前は、海難について、海難審判庁が懲戒と原因究明の両方を担っていたが、改正後は、海難審判庁は廃止され、懲戒は海難審判所(新設)が、原因究明は航空・鉄道事故調査委員会を改組した運輸安全委員会が担うこととなった(運輸安全委員会では航空事故鉄道事故に加え、船舶事故の原因究明も扱うこととなった)。前者のための手続が海難審判である。

概要

海難審判は、裁判に類似した手続が取られ(行政審判)、理事官が検察官役を、審判官が裁判官役を、海事補佐人が弁護人役を果たす。理事官と審判官は、いずれも海難審判所の職員である。

審判は、理事官の審判請求によって開始される。審判官は、海難が海技士・小型船舶操縦士・水先人の職務上の故意または過失によって発生したか否かを審理し、故意・過失が認められる場合には、裁決によって懲戒を行う。懲戒の内容は、免許の取消し、業務の停止、戒告の3種類である。なお、刑罰が科されることはなく、損害賠償を命ずることもない(もちろん別途刑事裁判・民事裁判が提起されることはありうる)。

裁決に不服がある者は、東京高等裁判所に裁決の取消しの訴えを提起することができる。海難とそれに関する故意・過失の判断は専門性を有することから、海難審判について裁判に類似した慎重な手続を採用する代わりに、一審級省略としたものである。なお、旧海難審判法下では、地方海難審判庁と高等海難審判庁の二審制であった。

現行制度下では海難審判法規則第5条に規定される重大な海難を東京の海難審判所が管轄することとし、それ以外の海難について地方海難審判所が管轄することとしている。

海難審判の手続

海難の定義

海難審判の対象となる「海難」については海難審判法2条に定義がある。

  • 海難審判法第2条
    この法律において「海難」とは、次に掲げるものをいう。
    1. 船舶の運用に関連した船舶又は船舶以外の施設の損傷
    2. 船舶の構造、設備又は運用に関連した人の死傷
    3. 船舶の安全又は運航の阻害

審判前の手続

海上保安官警察官及び市町村長は、海難が発生したことを知ったときは、直ちに管轄する海難審判所の理事官にその旨を通報しなければならない(海難審判法第24条 2項)。これらの通報のほかマスコミによる報道などにより、理事官が海難審判法によって審判を行わなければならない事実があったことを認知したときは、直ちに、事実を調査し、かつ、証拠を集取しなければならない(海難審判法第25条)。理事官は海難関係人を出頭させて事情を聴取したり、船舶を検査するなどして証拠を収集・検討し、海難が海技士もしくは小型船舶操縦士または水先人の職務上の故意または過失によって発生したものであると認めたときは、海難審判所に対して、その者を受審人とする審判開始の申立てをしなければならない(海難審判法第24条1項本文)。ただし、理事官は、事実及び受審人に係る職務上の故意または過失の内容発生の後5年を経過した海難については、審判開始の申立てをすることはできない(海難審判法第24条1項但書)。

審判

海難審判所は、理事官の審判開始の申立てによって、審判を開始する(海難審判法第30条)。海難審判法施行規則5条に定める重大な海難については東京の海難審判所において3人の審判官による合議体で海難審判が行われ、それ以外の海難については海難の発生した区域を管轄する各地方海難審判所において原則1人の審判官により海難審判が行われる(海難審判法第14条1項・第16条1項)。ただし、地方海難審判所における事件で1人の審判官で審判を行うことが不適当であると認めるときは3名の審判官で構成する合議体で審判を行う旨の決定をすることができる(海難審判法第14条2項)。合議体で審判を行う場合においては、審判官のうち一人を審判長とする(海難審判法第14条3項)。

受審人は国土交通省令の定めるところにより、補佐人を選任することができる(海難審判法第19条)。補佐人は刑事裁判における弁護人に相当する役割を担う。

審判は準司法的な手続(行政審判)により進む。裁決の告知は審判廷における言渡しによる(海難審判法第42条)。本案の裁決には、海難の事実及び受審人に係る職務上の故意または過失の内容を明らかにし、かつ、証拠によってこれらの事実を認めた理由を示さなければならない(海難審判法第41条本文)。ただし、海難の事実がなかったと認めるときは、その旨を明らかにすれば足りる(海難審判法第41条但書)。

裁決の取消しの訴え

裁決に不服がありその取消しを訴える者は、東京高等裁判所に海難審判所長を被告とする訴訟を提訴できる(日本国憲法第76条第2項は行政機関が終審として裁判を行うことを禁止している。これを受けて海難審判法44条は海難審判所の裁決に不服のある者は東京高等裁判所に提起できるものとしている)。東京高等裁判所の判決に不服のある者は最高裁判所に上告することになる。裁判所は請求に理由があると認めるときは、裁決を取り消さなければならない(海難審判法第46条1項)。この場合には海難審判所は更に審判を行わなければならない(海難審判法第46条2項)。裁判所の裁判において裁決の取消しの理由とした判断は、その事件について海難審判所を拘束する(海難審判法第46条3項)。

裁決の執行

裁決が確定すると理事官によって裁決が執行される(海難審判法第47条・第48条)。執行は免状・免許証の取り上げまたは無効の宣言などの方法による(海難審判法第49条以下)。

経過規定

新海難審判法の施行の日(2008年10月1日)前に審判開始の申立てがなされた海難の審判や施行の日前に提起された高等海難審判庁の裁決に対する訴えについては、なお従前の例による(国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成20年法律第26号)附則4条前段)。また、この場合において、従前の高等海難審判庁及び地方海難審判庁並びにこれらの職員が行うべき事務は、海難審判所及びその相当する職員が行うものとし、このうち、従前の地方海難審判庁において取り扱うべき事務は、当該地方海難審判庁の所在地を管轄する地方海難審判所において取り扱うものとする(国土交通省設置法等の一部を改正する法律附則4条後段)。この場合の罰則の適用についても従前の例による(国土交通省設置法等の一部を改正する法律附則6条)。

海難審判の歴史

  • 1897年 - 明治政府は高等海員審判所と地方海員審判所設置。
  • 1948年 - 海員審判所を海難審判所(高等海難審判所及び地方海難審判所)に改組。
  • 1949年 - 運輸省外局として海難審判庁発足。
  • 2001年 - 中央省庁再編により海難審判庁が国土交通省の外局となる。
  • 2008年 - 国土交通省設置法・海難審判法改正。海難審判庁廃止。運輸安全委員会・海難審判所が発足。

関連項目

外部リンク


海難審判

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 15:17 UTC 版)

内郷丸遭難事件」の記事における「海難審判」の解説

横浜地方海難審判理事所は事件の発生通告を受けると、直ち係員3人を相模湖派遣した翌日現地赴いた係員は、事故起こした内郷丸の船体実地検分するとともに貸ボート業者当時生徒引率した教員事情聴取行ったその後も、遊覧船運行する会社専務事故目撃した船舶乗組員遭難した中学校生徒などに事情聴取行い10月25日内郷丸船頭と船舶所有者指定海難関係人指定した11月9日第1回審判開廷された。傍聴席には死亡した中学校生徒家族をはじめ、報道関係者など多数傍聴者埋まり異様な雰囲気包まれていた。 その後、この審判1955年2月5日第5回審判をもって結審となった結審までの間、審判では15人の証人尋問を行うなど集中的に審理が行われ、3月4日、「本件遭難は、船舶所有者業務上の過失船頭運航に関する職務上の過失とによって発生したのである。」を主文とし、本件事故関し船舶所有者法令違反して届出をしなけらばならない大がかり船舶改造行ったにもかかわらず届出しなかった上、さらに運行上においても内郷丸船頭が法令違反して定員超えて旅客乗せた上に沈没の危険が切迫するまで気付かなかった責任追及する内容採決言い渡された他、2人指定海難関係人に対して関係法令および定員順守要求し船舶前方または後方人員偏ることの危険に係る指摘主な内容とする勧告書が出され第一審確定した

※この「海難審判」の解説は、「内郷丸遭難事件」の解説の一部です。
「海難審判」を含む「内郷丸遭難事件」の記事については、「内郷丸遭難事件」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「海難審判」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「海難審判」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「海難審判」の関連用語

海難審判のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



海難審判のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの海難審判 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの内郷丸遭難事件 (改訂履歴)、海洋調査船へりおす遭難事故 (改訂履歴)、第十雄洋丸事件 (改訂履歴)、船 (改訂履歴)、イージス艦衝突事故 (改訂履歴)、洞爺丸事故 (改訂履歴)、マリアナ海域漁船集団遭難事件 (改訂履歴)、なだしお事件 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS