治水と河川環境の両立
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 08:03 UTC 版)
治水と河川環境の再生・維持を両立させる上で重要な視点は次のとおりである。 生態系の再生・維持 コンクリート張りの堤防護岸や河床は治水対策の上で大きな効果を示すが、河川が本来有していた生態系を喪失・劣化させる。そのため、先進国を中心として、自然に近い形で河川整備を行う考えが主流となっている。この工法は、近自然河川工法または多自然河川工法と呼ばれている。 これは単に自然環境が存在すればよい、という考えに与しない。例えば、ダムの建設等により下流域の流量が減少し、河川流の細流路化に伴って流路が固定化されると、河川敷の植生が繁茂する問題が生じる。植生の繁茂は一見、自然環境の再生であり望ましいことのように思われがちであるが、河川敷において植生が繁茂すると、洪水流の流下能力を低下させ、破堤の危険が増すこととなる。本来の河川の姿(礫河原であれば礫河原)を維持することが、治水面でも河川環境面でも非常に重要である。 生態系のあり方に対する深い理解も必要である。その河川ではどのような生態系ピラミッドが形成されているのか、生態系を保全するためにどの範囲で空間設定するべきか、といった視点を持たなければならない。 河川改修を実施する際は、単調でない、多様な生物が生存可能な河川環境を作ることが重要である。例えば一つの河川に低水路・護岸・高水敷だけを配置するのではなく、礫河床・砂河床・粘土地・深さの違い(人工的な淵など)を適切に配置することで、河川は自ら河川環境を形成していくことができる。 河川空間の再生 特に都市部において、河川は人間生活に潤いを与える重要な空間域となっている。例えば河川敷は公園やスポーツの場として利用されることが多いが、治水対策を満足させると同時に、人間生活にとって適切な河川空間として利用されることも重要とされている。 土砂管理 河川は河水だけでなく、土砂も流れている。以前は、堤防内に河川が閉じこめられ、土砂が河道に蓄積し河床が上昇するという課題があった。その後、上流域におけるダム建設や砂防事業の進展に伴い、土砂の供給が減少し、また洪水対策のために河道の土砂浚渫が盛んに行われたため、かえって河床の低下が生じることとなった。これは、河川の細流路化を招くとともに、海岸への土砂供給を抑制し、海岸侵食の大きな要因となった。河川における土砂の管理を適切に行う観点も、治水と河川環境を両立する上で不可欠とされている。 河川の動態把握 河川は、山間部・扇状地・谷底平野・自然堤防帯・デルタ地帯の区間に分けることができる。各区間では、洪水時における土砂の流出状況・堆積状況・河川勾配・河川の蛇行状況・河岸侵食の度合いなどに大きな差異がある。こうした河川動態を把握しなければ、効果的な治水対策を行うことは不可能であるし、河川環境を維持していくこともできない。 住民参画 かつては行政のみが治水対策を決定し実施していたが、20世紀後期ごろから特に先進国において、住民が治水対策・河川づくりに参画することが常態化してきている。これは治水のみにとどまらず、政治全般に見られる現象であるが、21世紀の各先進国では、例えば治水計画を策定する際に住民が参画することが不可欠だと考えられている。住民の参画によって、真に望ましい治水レベル・河川環境のあり方が治水計画に反映され、地域にとってより適切な治水対策・河川環境づくりが実施されるようになった。
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