格の標示
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/27 13:46 UTC 版)
格は、名詞または名詞句にさまざまな方法で標示される。名詞の語形変化によって標示される場合、接頭辞、接尾辞、声調の変化、語幹の変化といった手段が用いられる。接語接置詞の場合には、前置詞、後置詞、中置詞がある。このうち最も多くの言語で用いられているのは接尾辞、次に多いのは後置詞である。 これらに加えて、動詞の人称標示や語順によって従属部である名詞句とその主要部の関係が表されることがある。 マシュー・ドライヤー(Matthew S. Dryer)が世界1031の言語について行った調査(Dryer 2013a)によると、接尾辞によって格を標示する言語が452(朝鮮語、フィンランド語、ロシア語などが該当、ただしアルメニア語などのように同一言語の方言も含む)、何の接辞や接語も用いない言語が379(英語やスペイン語などが該当)、後置接語によって標示する言語が123(日本語や中国語などが該当)あった。 接頭辞によって格を表示する言語は38あった。アフリカ南部のバントゥー諸語(南アフリカ共和国のズールー語、コサ語、ンデベレ語、アンゴラおよびナミビアのンドンガ語など)や北部のベルベル語派(モロッコのシルハ語など)、インドネシアのスマトラ島周辺の言語(ニアス語など)、セイリッシュ語族のカリスペル語(Kalispel; 米国)およびシュスワプ語(カナダ)などに見られる。 前置接語による標示をする言語は17あった。フランス語、アラビア語イラク方言およびシリア方言(英語版)、ルワンダ語などがこれに該当する。 inpositional clitics[訳語疑問点] による標示をする言語は7つあった。全てオーストラリアの言語であり、クークターヨレ語(Kuuk Thaayorre)やヤウル語(Yawuru)などが該当する。 ヤウル語 [kayukayu=ni buru] i-na-nya-rn-dyarra-yirr mudiga [柔らかい=erg 砂] 3-trans-捕まえる-ipfv-1 aug.dat-pl 自動車 柔らかい砂が私たちの車を捕らえていった。 極めて珍しい格標示の方法として声調の変化によるものが5(マリのドゴン語ジャマサイ方言 Jamsay、チャドのマバ語、南スーダンのシルク語 Shilluk、ケニアのナンディ語、ケニアおよびタンザニアのマサイ語)、語幹の変化によるものが1(南スーダンおよびエチオピアのヌエル語)あった。いずれもアフリカの言語で、うちシルク語、ヌエル語、ナンディ語、マサイ語はナイル諸語に属す。以下にナンディ語の例文を挙げるが、その出典は Creider & Creider (1989:124) からのもので、アクサンテギュは高音調、アクサングラーヴは低下降調、何のダイアクリティカルマークもついていないものは低音調を表す。また、ナンディ語の母音は /a, e, i, o, u/ の5つを基本とし、それぞれに長短や前方舌根性(ATR)の有無の区別があるため、声調の区別を考えなければ20通りの母音が存在する。 古いインド・ヨーロッパ語では格変化によって格が明示されるため、語順はかなり自由であった。現代の言語では語順が定まる傾向があり、特に英語やロマンス語(フランス語、スペイン語、イタリア語など)では代名詞を除いて格変化が消失したため、格の表示はほぼ完全に語順および前置詞に頼っている。 語形変化によってを格をマークするシステムについては、ほとんどの言語学者が格と呼ぶことに同意している。それ以外にも名詞句が持つ意味的・統語的関係を標示する体系はいろいろ存在するが、どこまでを格として捉えるかは言語学者によって異なる。
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