最後のオス、スーダン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/29 14:44 UTC 版)
「スーダン (サイ)」の記事における「最後のオス、スーダン」の解説
スーダンは1975年2月、推定2歳のときに南スーダンで捕獲され、チェコのドヴール・クラーロヴェー動物園で飼育されていた。ドヴール・クラーロヴェー動物園が財政難に陥って繁殖計画を断念したため、2009年にオスの「スニ」、そして自分の子「ナジン」、孫「ファトゥ」という2頭のメスとともにケニアのオルペジェタ自然保護区に移動した。 既に記述したとおり、1960年の時点でアフリカにいたキタシロサイの個体数は2,000頭以上いたものの、1984年の段階では15頭まで減少していた。1990年代後半には、生息地のコンゴ民主共和国で内戦が勃発して保護活動が中断した。国際自然保護連合(IUCN)が発表した報告によれば、2013年だけでも密猟が原因で11分に1頭の割合でアフリカに生息するサイが殺されていた。 キタシロサイの個体数は減り続け、2014年10月18日、生殖能力のあった唯一のオス、スニ(34歳)の死体がオルペジェタ自然保護区内で発見された。2014年12月にはアメリカ合衆国カリフォルニア州のサンディエゴ動物園で飼育されていた「アンガリフ」 (en) (44歳)という名のオスが死亡し、スーダンはキタシロサイで最後のオスとなった。 2015年の初めには、キタシロサイの個体数はドヴール・クラーロヴェー動物園とサンディエゴ動物園(いずれもメス)、そして、オルペジェタ自然保護区にいるスーダンとナジン、ファトゥの合わせて5頭のみが残されていた。2015年7月31日、ドヴール・ クラーロヴェー動物園のメス「ナビレ」(31歳)が卵巣嚢胞破裂の合併症で死亡した。同年11月、サンディエゴ動物園のメス「ノラ」 (en) (41歳)が感染症と膿瘍の悪化によって安楽死となった。 ノラの死によって、スーダン、ナジン、ファトゥは地球上で最後に残ったキタシロサイの個体となった。3頭は武装したレンジャーに24時間警護され、体には無線送信機が取り付けられた。スーダンの角は、密猟者の攻撃から守るために切除されていた。スーダンは高齢で精子の数が極端に少なくなっていたため、ナジン、ファトゥとの間に子孫を残すことは非常に困難と見られていた。 2017年、スーダンはアメリカ合衆国の大手デートアプリTinderに「世界で最も結婚相手にふさわしい独身男性」として登録された。これはキタシロサイの体外受精による人工繁殖に要する資金を集めるために、Tinderとオルペジェタ自然保護区が合同で企画したものであった。目標とする資金は900万ドルで、介助生殖技術(ART)の研究に充てられた。この研究が成功すれば、サイの人工繁殖実用化が大きく前進するものであった。 同年末、スーダンの右後肢が感染症にかかった。獣医師のチームが診断と治療に当たり、経過は良好であった。2018年に入るとスーダンは通常と変わらない生活に戻り、エサも普通に摂れるまでの回復を見せた。しかし3月初旬に最初の患部の下にさらに重度の感染症が見つかった。24時間体制で獣医師チームが治療に当たっていたが、今回の回復は遅かった。 3月4日、スーダンは一度立ち上がって静かに草を食み始め、回復のきざしを見せた。しかしその後病状が悪化して、立ち上がることさえできなくなった。獣医師チームはスーダンの苦しみを長引かせないために、3月19日に安楽死させた。 オルペジェタ自然保護区の最高責任者を務めるリチャード・ビーンは、スーダンの死について以下のように声明を発表した。 「スーダンの死に、保護区の人間は打ちひしがれています。彼はキタシロサイという種の偉大な象徴でした。絶滅の危機に直面しているサイを含む何千種もの生物たちへの世界的な認識を高めたとして、彼の功績は記憶されるでしょう」 — ハフポスト、2018年3月20日。
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