星震学と恒星物理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 06:35 UTC 版)
恒星は、楽器が様々な音を出すのと同じように様々な異なる脈動モードで振動する。ギターの音を聞いた際にそれが楽器由来であることは疑いようもなく、さらに経験豊富な音楽家はその弦の材質や張力を推測することもできる。同様に、恒星の脈動モードは恒星の全球的な性質と内部の物理的条件の特徴を表している。したがってこれらの脈動モードを解析することで、恒星の化学組成、自転の分布、温度や密度といった内部の物理的性質を推測することができる。星震学は恒星の振動モードを研究する科学的手法である。これらのモードは、次数 l と方位角次数 m の球面調和関数によって数学的に表すことができる。いくつかの例が図に示されており、青色が収縮する物質、赤色が膨張する物質を表している。なお、脈動の振幅は大きく誇張して描かれている。 恒星の振動モードのいくつかの例 この手法を太陽に応用したものは日震学と呼ばれ、数十年に渡って研究が続けられている。太陽表面でのヘリウムの存在度は日震学によって初めて非常に正確に導出され、太陽の構造における微視的な拡散の重要性を明確に示すこととなった。日震学の解析では、太陽内部の自転の分布や対流層の正確な広がり、ヘリウム電離領域の場所なども明らかになっている。技術的な課題は大きいものの、同じ解析を恒星に適用するのは魅力的な事であった。地上からの観測では、このような解析を行えるのはケンタウルス座α星やプロキオン、おとめ座β星といった太陽に近い恒星に限られていた。目標は最小で 1 ppm の極めて小さな光度変化を検出し、これらの輝度の変動に対応する周波数を抽出することである。これを精査することで恒星の典型的な周波数スペクトルを生成する。恒星の型や進化状態に応じて振動の周期は数分から数時間の間で変化する。このような現象を観測するためには、昼夜の変化に影響されない長い観測時間が必要となる。そのため宇宙空間からの観測は星震学を行う上で理想的な環境である。恒星の微小な変動性を明らかにし、ppm の水準で振動を測定することで、COROT はこれまでのどの地上観測では達成できなかった新しい恒星の描像を提供した。 ミッション開始時点では、4つの CCD のうち2つが明るい恒星 (見かけの等級が6から9) の星震学用の観測に充てられていた。星震学用の観測領域は sismo field と呼ばれており、残り2つの CCD を用いて系外惑星の探査を行うための観測領域は exo field と呼ばれていた。SN比が低いにも関わらず、系外惑星探査用のデータからも恒星に関する興味深い情報が得られており、観測した全ての領域で数千の恒星の光度曲線が記録された。主目的の星震学データの他に、恒星活動や自転周期、黒点の進化、恒星と惑星の相互作用、多重星系などのさらなる発見も行われた。また、exo field でも星震学に関する豊富な発見が得られた。ミッションの最初の6年間で、COROT は sismo field で150個の明るい恒星を観測し、さらに exo field で150,000個を超える暗い恒星を観測した。図は、COROT で観測した恒星の多くを地上観測での結果と合わせてヘルツシュプルング・ラッセル図上に表したものである。 COROT の星震学観測での発見は、以下のように多岐にわたる。 太陽以外の恒星での太陽に似た振動の初検出 赤色巨星での非動径振動の初検出 大質量星での太陽に似た振動の検出 たて座デルタ型変光星の数百もの周波数の発見 Be星のアウトバースト最中の周波数スペクトルの劇的な時間進化 Slowly pulsating B-type star (SPB) と呼ばれるゆっくりと脈動するB型星の重力モードでの一定周期からのずれの初検出 2009年10月には学術雑誌のアストロノミー・アンド・アストロフィジックスで、COROT ミッションによる初期科学成果に関する特集号が組まれた。以下は、COROT によって得られた観測データに基づく恒星物理学への画期的な貢献の例である。
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