日本における証券化ファイナンス
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「ストラクチャード・ファイナンス」の記事における「日本における証券化ファイナンス」の解説
住宅ローン信託債券は、住宅ローンの貸し手が信託銀行に債権をまとめて信託し、その受益権を第三者に売却することにより、住宅ローンを証券化して資金調達を行うための信託で、信託業北条は金銭債権の信託にあたる。日本で住宅ローンに対する需要が高まった1970年代前半に住宅金融専門会社(以下「住専」)の設立や、長期信用銀行が行う住宅ローン債権信託と同趣旨の制度である住宅抵当証書を産み落とした金融制度調査会の報告にもとづいて、信託商品のひとつとして1973年6月に創設された。導入当初における住宅ローン債券信託の存在意義は、同時期に設立された住専の資金調達を円滑にするために、信託銀行の有する長期性資金(特に年金ファンド)をこのセクターに流し込むことにあった。当初は委託者も制度上住専に限られていた。例えば、期間25年程度の住宅ローンの最初の7年については、信託を介して、残高が一定の第二受益権と残余部分の第一受益権に分け、前者を年金ファンドにはめこんで、後者は住専が保持し、7年後には住専が第二受益権を全額買い戻すという買戻方式が認められていた。そしてその後1980年代中頃にBIS(国際銀行)の自己資本比率規制の導入に至って、金融機関が資産をオフバランス化するための手段を充実する目的で、一般貸付債権の流動化、地方公共団体向け貸付債権の流動化と合わせて、金融機関にも受託がローンの流動化を解禁すべきだということになり、住宅ローン債権信託を金融機関が委託者となって設立することが1988年に認められた。住宅ローン債権の売切方式はアメリカのMBSやCMOと同じであるが、もともと制度改定時に金融機関の保有債券の流動化のみが年頭におかれたことから、対象としてよいローンは金融機関系の保証会社保証付債券か保険会社保証保険付債券のいずれかということになっており、このため優先・劣後だとか、一部保証だとかいった、信用補填についての工夫はされていない。1992年には、世界的に進行する金融・国際化・自由化・証券化に対応するため、銀行・証券の相互乗り入れが認められる一方、証券取引法上の有価証券の定義を広げ、証券化商品を取り込む努力が行われる。この中で住宅ローン債権信託は、証券取引法上は有価証券として取り扱うことが適当である「みなし有価証券」の代表例として条文にとりこまれた。しかし、住宅ローン債権信託は証券化の需要がないため、ほとんど日の目をみることないまま、事実上休眠状態にあった。受益権が有価証券として認められるには、貸し手が金融機関または、住宅金融専門会社にならなければならない。ただし、住宅金融専門会社はすでに経営難に陥って、その全資産を住宅金融債権管理機構に譲渡して解散してしまっているので、事実上、この制度を利用できるのは金融機関だけである、もともと信用力もあり、預金や保険等の資金調達源を持っている金融機関にとっては、証券化により住宅ローンによる資金調達を行う必要は少ない。ノンバンクのようなところにこそ資金調達の必要性が多い。ノンバンクは一般に銀行と比べると信用力が劣るうえに、歴史的な理由から出資法を根拠に、日本ではノンバンクを資本市場に組み込ませない体制が長らく続いてきた、この結果、ノンバンクの資金調達の大部分は、金融機関からの借り入れに依存せざるを得ず、住宅ローン等と金融機関と競合するビジネスでは、ノンバンクを限界金融機関の隅に追いやっている。「みなし有価証券」である住宅ローン債権信託の受益権証書も、その私法上の性格は他の金銭債券信託と異なることはない。一般に信託の受益権は民法上の指名債権(一般的な債券の形態)であるとされ、受益権証書はその権利を証明する単なる証拠証券にすぎないとされている。この結果、受益権の譲渡は指名債権譲渡の方法に従って、譲渡人(投資家)が債務者(受託者)に通知するか、債務者(受託者)が承認するかしないと、譲受人(新しい投資家)は受託者に対して投資家としての地位を主張できない。これに対して、通常の有価証券は、私法上は無記名債券ということになっているのが大半であって、証券を物理的に引き渡すことによって権利が移転する。投資家は、物理的な証券というものを唯一のよりどころとして取引を行えるので高度の流通性が確保されるとされる。こういう視点から、受益権証書についても無記名性を付与するような立法がなされるべきとう議論がなされることがある。少なくとも、信託契約の中で何等かの工夫を行って無記名性を受益権証書に付与する必要があると思われる。アメリカでは税法上の理由で、発行された有価証券は全て記名式であり、無記名式はあまり存在しないが、日本より流通性がある。
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