日本における認識
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/29 05:08 UTC 版)
「ラーニング・コモンズ」の記事における「日本における認識」の解説
概念の導入 2005年のミネアポリスで開催された大学・研究図書館協会(Association of College and Research Libraries : ACRL)の全米会議で「インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ」というテーマ設定のセッションが行われ、米澤誠は2006年にこの会議を論文の中で取り上げ、ラーニング・コモンズの概念を初めて日本に紹介した。 その時点での日本における学部教育は、学習理論が「知識の伝達」から「知識の創出・自主的学習」へ移行したのを受けてパラダイム転換が生じつつあった。授業で教員から教わるといった知識の理解だけでなく、学生が自主的に問題解決を行い,自分の知見を加えて発信するという学習活動全般の支援を図書館は求められるようになった。 加えて、ネットが普及し、教員や大学院生は研究室環境で充足するようになった。その結果、サービス対象とするべきは学生ということが鮮明になっていた。図書館の利用者層である学生は1980年以降に登場したネット世代である。図書館はネット世代の学生の学習・生活行動様式に合った施設・設備を備えることも求められつつあった。こうした変化のなかで、ラーニング・コモンズは日本の高等教育機関において受け入れられた。 ラーニング・コモンズの概念が日本に取り入れられると、欧米の大学図書館の事例を基にした説明がなされるようになった。ラーニング・コモンズは大学の使命に十分に対応できるようにインフォメーション・コモンズの発展形として米国で設計されたものであるからである。そのため、永田治樹も前記したBeagleの“From Information Commons to Learning Commons”で使われた枠組みを使用し、インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへの移行を説明している。 日本独自の発展 日本におけるラーニング・コモンズ理解は米国での考え方をほぼ踏襲する形となっているが、実際には日本特有の文脈で展開されている。 大学教育において日米間では次の4つの大きな違いがある。 1つ目は大学進学率と中退率の差である。日本では学生が中退することは例外的であるため学習支援の必要性が可視化されにくい。 2つ目は大学に設置されている学習支援組織の差である。日本の大学は米国と違い、学習支援組織がまったくないことや少ないことが多い。ラーニング・コモンズで学習支援を始めたとなると、学習支援の役割をすべて図書館が請け負うことになる。 3つ目は学習支援組織を支える仕組みの差である。日本には組織的な人材養成の仕組みが存在しない。図書館職員が学習支援の仕組みを1から考える必要があり、結果として学習支援について十分な検討ができない状況になっている。 4つ目はインフォメーション・コモンズの不在である。日本には米国のようなインフォメーション・コモンズは存在しておらず、情報の加工や発信をサポートする自律的な学習の場としての空間構成は行われてこなかった。日本においてラーニング・コモンズと呼ばれている施設の多くが、実質的にインフォメーション・コモンズとして機能しているというねじれ現象が起きているという指摘がある。 日本においては以上のような違いを考慮して、日本型のラーニング・コモンズや学習支援の在り方を考えるときに来ているという指摘がある。 1つ目は学習コミュニティの構成である。日本のラーニング・コモンズで行われている学習支援の中心はチュータリングである。一定のニーズがあるが、多くの学習者を巻き込むことは難しい。日本においては、学習の文脈を作るためにも自主的な学習コミュニティへの支援が重要になってくる。 2つ目はキャリアや社会との接続である。ほとんどの日本の大学には就職支援に関連してキャリアや社会との接続を担当している組織が設置されている、このような組織と連携してキャリアと学習をつなげていく拠点として、ラーニング・コモンズを位置づけていくことは現実的な解になりうる。 3つ目は教員の連携と学内プロジェクト化である。日本の大学には学習支援組織が十分に設置されていないため、ラーニング・コモンズがライティングセンターや教授学習センターの役割をはたさなければならないケースが出てくる。それを乗り越えるためには、理解ある教員を巻き込んでいく必要がある。 4つ目は学習支援に関する情報交換の場である。日本のラーニング・コモンズの動きは始まったばかりであり、学習支援の課題について十分に情報を交換できる場がほとんど存在しない。学習の専門家を交えて討論できる場が必要である。
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