教科書の伝統
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伝統的論理学は一般的にはアントワーヌ・アルノーとピエール・ニコルの『論理学、あるいは思考の技法』、通称『ポール・ロワイヤル論理学』に始まる教科書の伝統である。『ポール・ロワイヤル論理学』は1662年に出版され、19世紀までの間イングランドで最も影響力の大きい論理学書となった。本書はアリストテレス及び中世の名辞論理学の枠組みの中にデカルトの教説(例えば、命題は名辞よりむしろ観念の結合である、等)を大まかに表している。1664年から1700年までの間に八刷を重ね、それ以降の時期にも顕著な影響を及ぼした。ジョン・ロックが『人間悟性論』で与えた命題の説明は根本的には『ポール・ロワイヤル論理学』のものと同じである: 「音声的な命題、つまり言葉[は]、我々の持つ観念の表徴[であり]、肯定文あるいは否定文を構成したり分離したりする。そのため命題は肯定あるいは否定を意味するものに従って、こういった表徴を構成したり分離したりすることのうちにある。」 (Locke, An Essay Concerning Human Understanding, IV. 5. 6) もう一つの影響力の高い作品はフランシス・ベーコンの1620年に発表された『ノヴム・オルガヌム』である。書名は「新機関」と訳せるが、これはアリストテレスの作品『オルガノン』を意識したものである。本書の中でベーコンはアリストテレスの三段論法を否定して代わりに「遅々としていて骨が折れるが誠実な作業によって物から情報をかき集め、その情報を理解へと導く」方法を好ましいものとした。この方法は帰納推論と呼ばれるものである。帰納法は経験的観察から始まり下流の自然法則や命題へと進む。下流の自然法則からより上流の、より一般的な法則が(帰納によって)導き出される。熱のような「現象する自然」の原因を発見する際には、熱が見いだされる全ての場合をリストアップしなければならない。そこでもう一つのリストが書きあげられ、そのリストには熱がない場合を除いて最初のリストにあるのと同じすべての条件が書かれている。三つ目の表には熱が変化する場合がリストアップされている。熱の「様式的自然」、つまり原因は第一の表に含まれるすべての場合に共通し、第二の表に含まれるどの場合にも存在せず、第三の表に含まれるそれぞれの場合で程度に差があるものでなければならない。 教科書の伝統に属する他の作品としてアイザック・ウォッツの『論理学: あるいは理性の正しい使い方』(英: Logick: Or, the Right Use of Reason、1725年)、リチャード・ウェイトリーの『論理学』(英:Logic、1826年)、ジョン・スチュアート・ミルの『論理学体系』(1843年)がある。『論理学体系』はこの流れにおける最後の主要作品の一つであるが、論理学の基礎は内観にあるというミルの思想は、論理学は心理学の一分野としてみると最もよく理解できるという、特にドイツでのその後50年の論理学の発展を支配することになる思想・アプローチに影響した。
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