推進薬の組成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/09 20:39 UTC 版)
初期の固体ロケットモーターには黒色火薬が用いられた。埼玉県秩父市にある椋神社で毎年10月に行われる例大祭(龍勢祭り)で現在でも打ち上げられる龍勢ロケットは、木材を竹タガで締め、内部に黒色火薬をつき固めた端面燃焼ロケットである。 その後、ニトロセルロースとニトログリセリンを主体とした黒色火薬より性能のいいダブルベース火薬が登場し、旧軍のロケット兵器ではこれが用いられていた。第二次世界大戦の特攻兵器として知られる桜花のロケットエンジンは推力800キログラムの四式一号噴進器二〇型が三本束ねられ、それぞれ9秒間使用できた。 第二次世界大戦の後には、コンポジット推進薬が開発され、これはブチルゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン等の合成ゴム系の材料をアルミニウム (Al) などの金属粉、及び酸化剤と混錬したもので、酸化剤としては過マンガン酸カリウムや過塩素酸アンモニウム (ammonium perchlorate, AP) 等が用いられる。ゴムの基剤はそれ自体が燃料となるほか、酸化剤や金属粉の結合剤、および燃料の機械的性質を決定する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH-IIAロケットで用いられるSRB(固体燃料ロケットブースター)で使用しているコンポジット推進薬は、酸化剤としてAP、ゴムの基剤としては末端水酸基ポリブタジエン (hydroxyl-terminated polybutadiene, HTPB) が用いられており、AP/HTPB 系コンポジット推進薬と呼ぶ。JAXAのSRBが使用するコンポジット推進薬はHTPBが14%、Alが18%、APが68%と酸化鉄など若干の添加物から成る。 またコンポジット推進薬の基材には熱硬化性樹脂であるHTPBのほか熱可塑性樹脂(LT)を用いた推進薬(LTP)が提案されている。一定時間(48時間程度)で硬化し再度の成形が不可能な熱硬化性樹脂に対し熱可塑性樹脂は加熱すれば軟化するのでより成形しやすくコスト削減につながると期待されている。 現在用いられている過塩素酸塩アンモニウム系のコンポジット推進薬は燃焼時に大量の塩化水素を生じさせるため、発射後に毒性が強いガスが多量に拡散する。ケネディ宇宙センターでのスペースシャトル打ち上げでは風向きにより観客の場所制限を変えている。ケネディ宇宙センターでは調整池に排水されアルカリ投入で中和している。過塩素酸アンモニウムの塩素成分はオゾン層に悪影響を与えるほか、アメリカの防衛産業の工場付近では過塩素酸塩が環境へ多量に放出されていることが確認され近年では過塩素酸塩そのものの人体毒性が憂慮され始めていることなどもあり、代替となる酸化剤が求められているがいまだ研究途上である。
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