恋人たちの時刻
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『恋人たちの時刻』(こいびとたちのじこく)は、寺久保友哉の短編小説集。また、その収録作の一つ「翳の女」を原作とした日本映画。さらに、同映画の主題歌である大貫妙子の楽曲。
短編小説集
札幌の精神科医であり、小説家として本も出している寺久保友哉の短編小説集である。1979年1月に新潮社より発売される。1986年7月に角川文庫で発売される。
4編の短編小説が収録されているが、その一つ「翳の女」が、脚色され映画化された。
単行本
- 『恋人たちの時刻』 1979年、新潮社
- 『恋人たちの時刻』 1986年、角川文庫、ISBN 4-04-166001-7
映画
| 恋人たちの時刻 | |
|---|---|
| 監督 | 澤井信一郎 |
| 脚本 | 荒井晴彦 |
| 原作 | 寺久保友哉 |
| 製作 | 角川春樹 |
| 出演者 | 野村宏伸 河合美智子 高橋悦史 |
| 音楽 | 久石譲 |
| 主題歌 | 大貫妙子『恋人たちの時刻』 |
| 撮影 | 仙元誠三 |
| 編集 | 西東清明 |
| 製作会社 | 角川春樹事務所 |
| 配給 | 東宝 |
| 公開 | |
| 上映時間 | 99分 |
| 製作国 | |
| 言語 | 日本語 |
| 配給収入 | 2億5000万円[1] |
角川春樹事務所の製作、東宝の配給により1987年3月14日に公開された日本映画[2][3][4][5]。同時上映は崔洋一監督の『黒いドレスの女』。
「翳の女」を再構成し[5]、主人公の西江洸治の北大生という設定を予備校生に変更し、美しく少し物悲しいエピソードを後半に加え、洗練された恋愛映画となっている[5]。
あらすじ
東京の実家から出て、札幌の予備校に通って北大医学部を目指す西江洸治は、サーフィンの場所であった小樽市銭函の海岸で、乱暴されている女性を助ける。後日、札幌の歯科医院で、アルバイトをしているその女性とばったり会う。女性の名前は、村上マリ子で、彫刻家の桑山輝芳のところで、住み込みで彫刻モデルをしているという。洸治は、マリ子をデートに強くさそうが、待ち合わせ場所の旧道庁赤レンガ庁舎前にマリ子は来ても姿を見せずにその場から去った。その日の夜、洸治は、マリ子が住んでいるといっていた桑山邸に行くが、窓越しに抱き合っている男と女の影を見る。洸治は、ソープランドへ行き、心のもやもやを晴らす。洸治の見た女の影は、桑山輝芳の愛人の更科利加子のものであった。桑山には、乳がんの妻、啓子がいた。
予備校の寮にマリ子がたずねてくれる。誤解がとけ仲直りし、初めてのデートが実現する。おたる水族館を歩くが、そこで、マリ子は、幼なじみで行方知れずの親友の山崎典子を探してくれるよう、洸治に頼む。洸治は、典子の暮らしていた小樽をたずね、通っていた理容学校や喫茶店そして小樽商科大学にいき、彼女の知人に会い、典子の奔放な生活を知ることとなる。付き合った男の純情を傷つけているがごとく非難されている典子の、優しさという別の魅力に洸治が惹かれてしまう。そのことを、マリ子に話すが、今度はさがさないように強く頼まれてしまう。すごく気になり、典子の故郷の道東の標津に行く。
スタッフ
- 製作:角川春樹
- プロデューサー:黒澤満、伊藤亮爾、小島吉弘
- 監督:澤井信一郎
- 脚本:荒井晴彦
- 撮影:仙元誠三
- 音楽:久石譲
- 音楽プロデューサー:石川光
- 主題歌:大貫妙子「恋人たちの時刻」
- 美術:桑名忠之
- 録音:橋本文雄
- 照明:渡辺三雄
- 編集:西東清明
- 助監督:藤沢勇夫・鹿島勤
- 製作協力:セントラル・アーツ
キャスト
- 西江洸治:野村宏伸
- 村上マリ子:河合美智子
- 桑山輝芳:高橋悦史
- 桑山啓子(輝芳の妻):大谷直子
- 更科利加子(輝芳の愛人):真野あずさ
- 西江彰子(洸治の母):加賀まりこ
- 寒川洋二(小樽の前衛喫茶の常連客):石田純一
- 小樽商大のアメフト部の学生(中田ひろかず):江口洋介
- 遊女:宮下順子[2]
- 小樽の大家:絵沢萠子[2]
- 小樽の前衛喫茶マスター:麿赤児[2]
- 小樽の前衛喫茶ダンサー:山口美也子[2]
- 寮の責任者:仲谷昇[2]
- 寮の責任者:草薙幸二郎[2]
- 志水季里子・津田ゆかり・小島一郎[2]
製作
製作発表は1986年秋にあり、澤井監督が既に1986年8月中に北海道をロケハンし[6]、1986年9月中旬クランクイン[6]、11月上旬クランクアップと発表された[6]。
脚本
寺久保友哉の短編小説集から「翳の女」をピックアップし[5]、脚本・荒井晴彦が設定やストーリーに大きく手を加えた[5]。
キャスティング
ヒロインの村上マリ子役には渡辺典子が内定していたが[5][7]、シナリオにきついヌードシーンがあるなどの理由で辞退し[5]、直前になって河合美智子が抜擢された[7][8]。河合は澤井監督・仙元撮影コンビで前年、『Apartment Fantasy めぞん一刻』に出演していたことからの起用[5]。2020年代の番線映画ではほぼ見られないヒロインが冒頭から乳房を露出したまま長回し演技を行うインパクトあるシーン[5][9]。当時としても「脱ぎすぎで痛々しい」と評された[10]。本作はほとんど北海道での撮影だが[5]、この冒頭の海岸シーンは千葉県で撮った[5]。河合は出演の話がきたとき、澤井監督に「おなか出てるし、胸もび〇こだし、ムリです」と断ったが[11]、結局、出演した[11]。演じた村上マリ子について「映画見た後イヤだなって思った。あの子キライです。わたし洸治クンの役がやりたかったな。いい役ですよ。最後までマリ子にコケにされるけど…」などと話した[11]。江口洋介が小樽商科大学のアメフト部員役で1シーン登場している。
撮影
撮影は1986年10月から約1か月間行われ、同年11月7日クランクアップ[8]。ただ仙元誠三の著書に載るクランクアップの集合写真には「1986年12月」と書かれている[5]。冒頭のナンパシーンは、同じ野村宏伸が絡む『メイン・テーマ』同様荒い。アメフト部の学生役で1シーン出演する江口洋介が、野村とそこそこの長回しをこなす。ほぼ江口一人で話し、滑舌が悪い。濡れ場シーンは全て澤井監督が「声は息を吸うときに出すんじゃなくて吐くときに出すんだ」などと声の出し方から何もかも先に演じてくれた[11]。河合は吹き出しそうになるところを何とか耐えたという[11]。おたる水族館で「東京に行きたい」というマリ子(河合)が言う場面でマイ・ペースの「東京」が水族館の場内放送から流れる。ラストカットは澤井監督がグレーのスーツの上下にフリルの付いたブラウスとレースのストッキングを用意していたが、河合が「学校の先生みたいでイヤ」と拒否し、自身で「後ろ姿はカッコよくありたい」と黒のタイトスカートを選んだ[11]。
ロケ地
宣伝
興行
東宝洋画系で全国公開[7]。東宝本番線は『ドラえもん のび太と竜の騎士』『プロゴルファー猿 甲賀秘境!影の忍法ゴルファー参上!』『オバケのQ太郎 とびだせ! 1/100大作戦』の春休み興行。
ソフト状況
東映ビデオからビデオが発売されていた[4]。DVDも角川書店から2011年に発売されている[3]。
作品の評価
- 北川れい子は「河合美智子が自分の汚れた過去を架空の人物に背負わせるのは、愛に臆病なのか、幸せが退屈なのか、ヒロインが裸になり過ぎるのが痛々しい。凝り過ぎの演出がうっとうしい」などと[9]、深沢哲也は「ドラマが淀みなく流れる澤井演出は相変わらずスムーズだが、北の街を背景に描かれる若い男女の出会いと別れが僕の琴線に触れなかった」などと[9]、松田政男は「これは80年代末期の『青春残酷物語』だ。必ずしも適材ではない野村宏伸と河合美智子を適所に配置してしまう澤井信一郎の腕力に敬意を表する」などと評している[9]。
主題歌
| 「恋人たちの時刻」 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 大貫妙子 の シングル | ||||||||||
| 初出アルバム『A Slice of Life』 | ||||||||||
| B面 | 裸足のロンサム・カウボーイ | |||||||||
| リリース | ||||||||||
| ジャンル | ポップス | |||||||||
| レーベル | Dear Heart / MIDI | |||||||||
| 作詞・作曲 | 大貫妙子 | |||||||||
| 大貫妙子 シングル 年表 | ||||||||||
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- 発売日:1987年2月11日
- 規格品番: MIS-20
- 発売元:Dear Heart / ミディ
収録曲
- 「恋人たちの時刻」は大貫のアルバム『A Slice of Life』に収録されているが、シングルとはバージョンが異なっている。
オリジナル・サウンドトラック
収録曲
- 砂丘Ⅰ
- EDGE OF LOVE
- 交差点
- 北の空
- AQUARIUM
- 真実
- 恋人たちの時刻
- 光と影
- La Mer
- 新しい朝
- CONVERSATION
- 砂丘Ⅱ
脚注
- ^ 中川右介『角川映画 1976-1986 日本を変えた10年』KADOKAWA、2014年、284頁。ISBN 978-4-04-731905-9。
- ^ a b c d e f g h 恋人たちの時刻 - 国立映画アーカイブ
- ^ a b c 恋人たちの時刻 デジタル・リマスター版 - 角川書店
- ^ a b 『ぴあシネマクラブ 日本映画編 2004-2005』ぴあ、2004年、271頁。ISBN 978-4835606170。
- ^ a b c d e f g h i j k l 仙元誠三、佐藤洋笑、山本俊輔「第五章 角川映画のヒロインたちとともに 大人と子供の狭間にー『恋人たちの時刻』」『キャメラを抱いて走れ! 撮影監督 仙元誠三』国書刊行会、2022年、174–177頁。 ISBN 978-4336070333。
- ^ a b c 「シナリオボックス 荒井・澤井コンビの新作」『シナリオ』1986年10月号、日本シナリオ作家協会、108頁。
- ^ a b c 「邦画封切情報 『恋人たちの時刻』」『シティロード』1987年3月号、エコー企画、29頁。
- ^ a b 『北海道 シネマの風景』 北海道新聞社、87p
- ^ a b c d 「ロードショー星取表 『恋人たちの時刻』インタビュー」『シティロード』1987年3月号、エコー企画、29頁。
- ^ a b 「邦画封切情報 『恋人たちの時刻』」『シティロード』1987年4月号、エコー企画、31頁。
- ^ a b c d e f 「MOVIE Interview 『幼児体型のまま中年太りに突入したらどうしよう…』。河合美智子『恋人たちの時刻』インタビュー」『シティロード』1987年3月号、エコー企画、9頁。
- ^ “澤井信一郎さん(映画監督)ー混沌の時代に『映画』の輪郭(追想録)”. 日本経済新聞夕刊 (日本経済新聞社): p. 2. (2021年10月20日)
- ^ “CD 恋人たちの時刻”. TOWER RECORDS ONLINE. タワーレコード. 2023年4月8日閲覧。
外部リンク
固有名詞の分類
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